新しい付き人が天使のように可愛い人だったので一目惚れしてしまいました!

柏葉 結月

文字の大きさ
10 / 26
第一章

9.

しおりを挟む
    ジミルは強張った表情のまま、俯いてしまった。可哀想に、こんなにブルブルと震えて……。
    もしかしたら、背中の傷のせいで迫害や虐待を受けたりしたのかな。いや、逆に虐待を受けて出来た傷なのだろうか?だとしたら、とてもではないが見過ごせない。
    マトック伯爵とは親しくしていないので人格は知らないが、ジミルのメンタルケアを怠っているのなら、今からでも進言しなくては。
    
「ジミル、安心して?あなたは今まで優秀な成績を残して来たじゃないか。狭き門を突破して僕の付き人に派遣されたのだから、国が認めた存在なんだよ?」

    ジミルは、不安そうにゆっくりと顔を上げた。自己肯定感を著しく損なっているのなら、あなたは僕にとって必要な人なのだと、きちんとわかってもらいたい。

「背中の傷は、今は見せなくていいよ。だけど、アレが見たいな?あなただけの身分証・・・を見せて?」

「……?あっ!そうでした。まだお見せしてませんでしたね」

    身分証とは、身体のどこかに施すタトゥーの事だ。昔は奴隷や犯罪者への目印として使われていた国もあったが、現代では殆ど無くなった風習。それはさらにアートに進化していて、多種多様になった。
    だけど、僕の国ではそれを尊い物として扱う。神の加護を得ようとする者が祝詞を身体に彫ったり、魔除けになる御守りの紋様を彫るなど神聖な物が多い。

    王族に刻まれる『太陽紋』は、サニー王朝の初代国王が太陽神の加護を求める為に彫ったのが始まりだ。その為、太陽のモチーフは、見れば王族だとすぐにわかる希少な紋様で、庶民にはゆるされていないタトゥーなのだ。そして、その王族に生涯付き従う補佐官には『月虹紋』ゲッコウモンが刻まれる。

    『月虹紋』はその名の通り月のモチーフで、太陽の光を受けて輝く月のように王族を助ける存在という意味で、有能な補佐官に施されるようになった。

「見て下さい。僕の『月虹紋』。ふふっまだ見習いなので三日月です。先月配属が決まった時に彫ってもらいました!」

    ジミルは、先程の暗い表情が嘘のように笑顔になっていた。そして、いそいそと袖を捲って、左手首の内側を僕に差し出した。
    そこには小さな三日月が彫られていて、正式な補佐官になると満月のモチーフになり、僕の名前が記される。

    三日月を見て、心から安堵した。ジミルの嬉しそうに弾ける笑顔を見て、僕の顔も笑み崩れた。
    三日月は、補佐官用の特殊な染料を使って彫られているので、偽装出来る物ではない。だからこそ、これが身分証・・・になるのだ。

「ありがとう、ジミル。これが満月になるのが待ち遠しいよ」

    ジミルの手首を持って、三日月を親指で撫ぜた。もう震えてはいない。

「いつか……僕の『太陽紋』を見てくれる?」

    『太陽紋』は、服を脱がないと見えない所に彫られている。なので「『太陽紋』を見て」と王族が言う時は、閨事の隠語で夜伽を命じられるという意味になる。

    ジミルの顔を見ると、真っ赤だった。

    良かった……意味が通じて。



しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...