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第二章
1.
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今日、僕は20歳になる。留学して初めての、一人きりの誕生日。
実は某国の王子なので、毎年王宮で盛大な祝賀会を催していた。なのに今年は一人きりのせいで、年を取る実感がない。
今度の長期休暇で帰省した時に祝賀会をしようと言われているが、そのまま初対面の令嬢との婚約披露パーティーになりかねないと思うと、帰省は憂鬱でしかなく……。
だから一人きりの誕生日は、寂しいどころかとても気楽だった。
バイト先の同僚から、ケーキとチキンのプレゼントを貰って帰ってきて、さあ、食べよう!とフォークを握った時だ。
付き人のキムさんがダイニングに突然入ってきて、「相談がある」と言い出した。
付き人として一緒に住んでいると言っても、就業時間が終わるとキムさんの気配はほとんど感じられず、プライベートで関わる事が全く無かった。
そんなキムさんがわざわざやってきて、内心 "このタイミングで何の話?" と思ったが、僕がバイトから帰るのを待っていたようだし?邪険には出来ない。
「じゃあ、一緒にケーキ食べますか?」
正真正銘、社交辞令で訊いてみたが、要らないと言われてしまった。社交辞令のつもりなのに、断わられるとガッカリするのは何故だろう。
キムさんは、ダイニングテーブルの向い側に腰を下ろし、本国との連絡用の携帯電話を出し、スクロールして何かを確認すると顔を上げた。
正面から見たキムさんの顔は、何だか迫力がある。眼は底が見えない湖のような、煌めきと深淵が交互に現れ、整った白皙の美貌はあまり表情が変わらない。もっとも、表情が変わるほどの会話もしてこなかった。
そんな付き合いだった彼から『相談』?
けれどキムさんが発した言葉は、僕の想像を越え過ぎていた。
「体調が悪いので入院しようと思います。なので、今日で付き人を辞めさせて頂きます」
「や、辞める?!そんな……入院する程どこが悪いの?!」
そういう大事なことはせめて1ヶ月前までに言ってくれないかな?!それとも病状が急変してのことなんだろうか。
僕が驚き過ぎてケーキの存在を忘れていると、さらに爆弾発言が!
「私の体調の話をする前に、お話したい事があります。ジョン様、天使の事を覚えていますか?」
"……何で、キムさんが天使の事を? "
意識せず、喉がゴクリ…と動いた。それというのも、天使の話題は話そうとしても不思議な力によって話せないのだ。
僕は驚きの余り落としそうになったフォークを持ち直し、ケーキの上に乗った苺を刺した。
「………天使?」
「15年ほど前に、ジョン様を救った天使です」
今度こそ、フォークを落とした。生クリームが付いた苺と一緒に転がってしまう。
当時から現在まで、誓って誰にも話した覚えがないというのに、何故キムさんから語られるのだろう……。
動揺してるのは一目瞭然、とぼけることは無理そうだ。慎重に、言葉を選んだ。
「天使、ですか。覚えてますよ。だけど、キムさんにその話はしたことは無いと思うんだけど……」
キムさんは、ニコッと笑った。笑うと意外と愛嬌がある。そして「……コレ」とおもむろに僕の目の前へ、まるで手品のように真っ白な羽根を取り出した。
「天使の羽根です」
「えっ!見せて!」
僕は冷静さを欠いてキムさんの手に飛び付いた。すんでのところで、キムさんはひょいっと僕が届かないように羽根を高く上げた。まるで幼いこどもの意地悪のようだ。
羽根ペンに使われるような、大きな羽根。『天使の羽根』と言われれば、そう見えなくもない。こんな貴重なアイテムを持っていたキムさんは、いったい何者なんだろう?
「私が今から話すことを信じますか?」
「……信じる。信じます!」
「はい、どうぞ」
僕の手に、いつの間にか真っ白な羽根がふわっと乗っていた。その羽根からジワジワと伝わってくる気配は、何かに侵食されていくような感じがする。
まるで夢を見ているか映画を見ているような感覚で、脳裏に映し出されていく映像。それは、僕の命を救った天使の記憶だった。
記憶は、幼い僕を高い場所から見ている所から始まった。あぁ、これは僕の命を助ける所だ。しかしそれが原因で、自分の住む世界から追放されることになる。
あの美しかった天使が、僕のせいで惨たらしく残酷な仕打ちを受けて、生死もわからない状態だと知り、血の気が引く。
その、強制的な記憶のインストールに吐き気と強い眩暈を感じ、腕の力が抜け、羽根がスルッと手の中から滑り落ちた。
そのおかげで、僕は正気に戻った。
実は某国の王子なので、毎年王宮で盛大な祝賀会を催していた。なのに今年は一人きりのせいで、年を取る実感がない。
今度の長期休暇で帰省した時に祝賀会をしようと言われているが、そのまま初対面の令嬢との婚約披露パーティーになりかねないと思うと、帰省は憂鬱でしかなく……。
だから一人きりの誕生日は、寂しいどころかとても気楽だった。
バイト先の同僚から、ケーキとチキンのプレゼントを貰って帰ってきて、さあ、食べよう!とフォークを握った時だ。
付き人のキムさんがダイニングに突然入ってきて、「相談がある」と言い出した。
付き人として一緒に住んでいると言っても、就業時間が終わるとキムさんの気配はほとんど感じられず、プライベートで関わる事が全く無かった。
そんなキムさんがわざわざやってきて、内心 "このタイミングで何の話?" と思ったが、僕がバイトから帰るのを待っていたようだし?邪険には出来ない。
「じゃあ、一緒にケーキ食べますか?」
正真正銘、社交辞令で訊いてみたが、要らないと言われてしまった。社交辞令のつもりなのに、断わられるとガッカリするのは何故だろう。
キムさんは、ダイニングテーブルの向い側に腰を下ろし、本国との連絡用の携帯電話を出し、スクロールして何かを確認すると顔を上げた。
正面から見たキムさんの顔は、何だか迫力がある。眼は底が見えない湖のような、煌めきと深淵が交互に現れ、整った白皙の美貌はあまり表情が変わらない。もっとも、表情が変わるほどの会話もしてこなかった。
そんな付き合いだった彼から『相談』?
けれどキムさんが発した言葉は、僕の想像を越え過ぎていた。
「体調が悪いので入院しようと思います。なので、今日で付き人を辞めさせて頂きます」
「や、辞める?!そんな……入院する程どこが悪いの?!」
そういう大事なことはせめて1ヶ月前までに言ってくれないかな?!それとも病状が急変してのことなんだろうか。
僕が驚き過ぎてケーキの存在を忘れていると、さらに爆弾発言が!
「私の体調の話をする前に、お話したい事があります。ジョン様、天使の事を覚えていますか?」
"……何で、キムさんが天使の事を? "
意識せず、喉がゴクリ…と動いた。それというのも、天使の話題は話そうとしても不思議な力によって話せないのだ。
僕は驚きの余り落としそうになったフォークを持ち直し、ケーキの上に乗った苺を刺した。
「………天使?」
「15年ほど前に、ジョン様を救った天使です」
今度こそ、フォークを落とした。生クリームが付いた苺と一緒に転がってしまう。
当時から現在まで、誓って誰にも話した覚えがないというのに、何故キムさんから語られるのだろう……。
動揺してるのは一目瞭然、とぼけることは無理そうだ。慎重に、言葉を選んだ。
「天使、ですか。覚えてますよ。だけど、キムさんにその話はしたことは無いと思うんだけど……」
キムさんは、ニコッと笑った。笑うと意外と愛嬌がある。そして「……コレ」とおもむろに僕の目の前へ、まるで手品のように真っ白な羽根を取り出した。
「天使の羽根です」
「えっ!見せて!」
僕は冷静さを欠いてキムさんの手に飛び付いた。すんでのところで、キムさんはひょいっと僕が届かないように羽根を高く上げた。まるで幼いこどもの意地悪のようだ。
羽根ペンに使われるような、大きな羽根。『天使の羽根』と言われれば、そう見えなくもない。こんな貴重なアイテムを持っていたキムさんは、いったい何者なんだろう?
「私が今から話すことを信じますか?」
「……信じる。信じます!」
「はい、どうぞ」
僕の手に、いつの間にか真っ白な羽根がふわっと乗っていた。その羽根からジワジワと伝わってくる気配は、何かに侵食されていくような感じがする。
まるで夢を見ているか映画を見ているような感覚で、脳裏に映し出されていく映像。それは、僕の命を救った天使の記憶だった。
記憶は、幼い僕を高い場所から見ている所から始まった。あぁ、これは僕の命を助ける所だ。しかしそれが原因で、自分の住む世界から追放されることになる。
あの美しかった天使が、僕のせいで惨たらしく残酷な仕打ちを受けて、生死もわからない状態だと知り、血の気が引く。
その、強制的な記憶のインストールに吐き気と強い眩暈を感じ、腕の力が抜け、羽根がスルッと手の中から滑り落ちた。
そのおかげで、僕は正気に戻った。
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