新しい付き人が天使のように可愛い人だったので一目惚れしてしまいました!

柏葉 結月

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第二章

4.

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「俺の記憶じゃあ一度人間になった天使が、再び天使に戻ったなんて前例はない。人間になっちまう天使なんて、自分の寿命に飽き飽きしたか大罪を犯したかだからな。天使に戻る理由がないんだろ」

    教育係のソルトさんに、ジミルの事を相談した時の事だ。

    僕の命を助けてくれた『白い天使のジミル』を救いたい。
    僕が天使になったのは、今は人間として生きているジミルを、天使に戻すためだと言った僕を、ソルトさんは無理だろうと決めつけた。


    事件の記録は通常閲覧不可だけれど、当事者ということもあり見せてもらう事が出来た。
    記録を調べたところ、死ぬ運命だった僕を助け性的な接触があったと記されていた。当時の僕は5歳。性的な行為があるわけなかったが、ジミルの首に唇の痕と抱き合った形跡が検査の結果でわかったらしい。
    
    抱き合っただなんて、おかしい。あの時は、僕を抱き上げてあやしてくれたのではなかったか。唇の痕?それもわからない。
    この事件は半分冤罪で、ジミルを良く思っていない輩がジミルを貶めたのではないかと疑った。

「僕はジミルを天使に戻してみせます!」

「そんな事をしてみろ。一生見習いだぞ?」

「僕は出世なんて考えてない」

    それでもソルトさんは、僕が知らない間に上層部に話を通しに行っていた。筋が通っているのと勝手な行動では、その後の僕たちの待遇が違うだろうし、何より教育係のソルトさんが責任を負い迷惑にもなる。

「片翼だけ献上しろってさ。そうすれば目をつぶってくれるそうだ」

「……片翼。そんな物でいいの?」

    どんな無理難題を条件にされるかひやひやしていたが、元から持っている物なら喜んで渡せる。

「特例だって言ってたけど、ただ珍しい翼が欲しいだけかもしれない。悪趣味だな!」

    僕の翼は金色だ。その珍しい金色の翼が、権力者に有効だったなんて。

「おまえ、自分の翼は再生させる事が出来るのか?」

「わかりません」

「翔べなくなっても、ジミルを天使に戻したいか?」

「もちろんです!」



    僕は翼を献上した。片翼だけになり、翔べなくなったが何の問題もなかった。
    ただ、翼が生えていた場所が時折痛み、あるはずのない翼を羽ばたかせようと身体が勝手に動くなど後遺症があった。
    そんな時、人間になってしまったジミルはどうしているだろうと想いを馳せた。

    痛みが我慢出来ずに、涙を流してはいないだろうか。眠れぬ夜を過ごしていないだろうか。僕の事を、恨んでいないだろうか。

    ジミルが人間になって、幸せに過ごしていたら……?
    その時は、傍で天使として見守るか、もう片翼を献上して寿命のある天使になるのもいいだろう。
    キムさんの願いを叶える事は出来なくなるけど、僕はジミルに逢えるならそれだけでいいと思う。ジミルが今生で幸せなら、無理に天使に戻さなくてもいいのだ。罪滅ぼしは、別の方法を考えればいい。


    翼を伐った後の背中の傷も癒え、いよいよジミルを探しに地上に降りるという段階で、僕はソルトさんから信じられない言葉を聞いた。


「僕の記憶を、消す?」

    理解出来なかった。ジミルを探しに行くというのに、記憶が無くてどうしろというのか。

「おまえさ!自分の命を助けた所為で翼伐られて、人間にされて追放処分だぞ?そんな人と再会して平静でいられるか?……俺ならとてもじゃないけど、謝罪と涙でぐちゃぐちゃになっちまうよ」

「そう……そうですよね。僕の所為で……」

「心配しなくてもジミルに再会すれば、記憶は徐々に戻るさ。ジミルは転生したら記憶が無いんだろ?だからおまえも記憶を封印して、他人のフリして逢う。その方がきっと自然に接することが出来るんじゃないか?」

「でも!逢ってすぐ親しくなれますか?」

「……何が不安なんだよ」

「人見知りなんで」

「……知るか!」

    そうして僕は、ソルトさんから記憶操作を受けて元の『ジョン・グレイ・サニー』へと戻ることになった。
    記憶操作といっても、消されるのは自分が天使だという事や天界で過ごしていた事などで、ジミルの存在自体は憶えたままなのでホッとした。


  ┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅


    携帯の着信音が遠くから聞こえて、夢なのか現実なのか曖昧な瞬間。目が開かないから、手探りで伸ばした指の先、無機質の機械が爪にコツンと当たる。手繰り寄せて、何とか画面を擦って耳にあてた。

「……はい、もしもし、サニーです」

『 ジョン!誕生日おめでとう!』

「……………兄さん?!」

『あっはは!まだ寝てたな?』

    一気に目が覚めて、起き上がった。急に起きたからかめまいがして、額を押さえる。
    電話の相手は三番目の兄王子で、誕生日にはいち早くお祝いを伝えてくれる陽気でマメな人だ。

『元気ならいいんだ。お前が遠くにいるからさ、少し寂しいよ。それに、付き人のキムさんが辞めちゃっただろ?一人で生活出来るのか心配だよ』

「ははっ、キムさんが辞めても家政婦さんがいるしそんなに困らないと思うよ」

『そうか?ちゃんと寝て、ちゃんと食べるんだぞ?』

「ありがとう、兄さん」

    電話を終えて、時計を見る。二度寝するには、意識がはっきりしてしまって、大学に行く支度を始めるにはまだ早かった。

    ぼんやりと、何かとても大切な事を忘れているような気がする……と思ったが、すぐには思い出せそうにないので、キムさんか出ていった部屋の窓を開けて空気でも入れ換えておこうと思った。

" キムさんが出てってからどれくらい経ったんだろう?"

    部屋の中が、思ったより埃っぽい気がしたので、窓は全開にした。

「…………寒っ!」

    ビューっと冷たい風が頬に当たり、冬の日差しは弱々しく、雲の隙間から地上を照らすだけだった。【天使のはしご】と呼ばれるその現象が、たくさん出来ている。

「次の付き人はどんな人かな……」

    


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