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第二章
3.
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僕が天使になるという事は、『ジョン・グレイ・サニー』が死ぬということか。王子が留学先で突然死したら、国際問題にならないだろうか。いや、なるに決まってる!
どうにかならないかと考えて、目の前にいるのが解決策を知っている頼もしい存在だと気がついた。今こそ付き人としての職務経験を本領発揮して欲しい。
「キムさんは天使であるにも関わらず、僕の付き人してるんですか?!」
「そうですが?」
「それって僕を護るために?人間の振りしてるってこと?!」
「……まあ、そうなりますね」
「じゃあ僕も!天使になっても『僕』のままでいられる?」
「可能ですが、希望を叶えるためには取引条件として何かを失う事になります。私の取引条件は『寿命』です。天使は通常不老不死ですが、ジミルが人間になってしまったので、私もジミルの傍にいたくて寿命のある天使になるという選択をしました。だから……このままジミルに会えずに死んでしまうのは、心残りというか……」
「死んでしまうって……病気の事?入院して治る病気じゃないの?いったい何の病気?」
「黒色ウイルスです。天使の間で流行っている感染症で、人間に感染する事はありません」
『黒色ウイルス』とは天使の羽根や身体の一部が黒くなり、重症化すると命を落とす事もある感染症だった。
元から黒い翼のキムさんは発見が遅れたらしく、治療薬が合わなければ余命宣告されてもおかしくないと考えていると言う。
「ジョン様は人間になったジミルに、会った事はありませんか?きっと近くに転生していたのではないかと思うのですが……」
「いや、会った事はない。天使の話は僕の口から語れないように、不思議な力が働いてい……っ、カハッ」
突然胸や喉が焼けるように痛み、咳き込んでしまった。口許を押さえた手のひらに、鮮血が散って茫然とする。
戸惑いながらキムさんを見ると、悲しげな表情をしていた。
「あぁ、時間になってしまったようですね。もうあまり余裕もないでしょうから、話だけ聞いて下さい。先程も話したように、ジョン様は何かと引き替えにすれば天使になっても今日、この時間に還って来られます。その時に、私が生きていられるか、ジミルと出会えるかはわかりません。ジミルがどんな状態でいるかもわかりませんが、出会えたら助けてやって下さい。ジミルは、ジョン様を『運命』の相手として自分の身を『犠牲』にしたのですから」
僕は、天使のために何を犠牲に出来るだろうか。ただ、彼にもう一度会いたいという思いを強く持って生きてきた。誰にも話せず、理解されることもなく。
会う目的は考えていなかったけど、僕が彼を助けられる何かがあるならば、『犠牲』になることは厭わない。
「ジョン様が、天使になってこの時間に戻って来れなかったら。私がこの炭酸水に毒を混ぜて殺したのだと、本国へ報告致します。天界での『試練』に合格されますよう祈っておりますね」
キムさんの声がだんだんと遠くなり、僕は漠然とあぁ死ぬんだなと思った。この時間に還ってきたら、まず、ケーキを食べたいな……。
次に目覚めた時は真っ白な、空も、土も、何も無い空間に立っていた。
周囲には大勢の青少年たちが集まり、不安そうにキョロキョロとしていた。
立っている者、座っている者。表情は、皆驚いたように呆然と……。自分が何故ここにいるのかわからない、というように。
僕はぼんやりと『死んだ?』と呟いたが、音声にはならなかったようだ。
キムさんから『死んでから天使になる』という話を聞いていなければ、この状況が受け入れられなかっただろう。
まるで『オーディション』でも始まるようだ。天使になるには、どんな要素が必要かわからないけれど、僕は『天使になってジミルを探す』という重大な目的があった。
だから、絶対に勝ち残らなければならない。拳を握りしめ、サバイバル的にはまず闘いか?と息巻いていると、今まで全く気配を感じなかった背後から、ぽんと肩を叩かれた。
僕はやはり『ぎゃっ!』という音声にならない悲鳴を上げた。
「『ジョン・グレイ・サニー』合格。凄いなお前、背中に太陽しょってるの?」
という声が聞こえ、気がつくと周りには誰も居なかった。『消滅』という単語がよぎる。もしかしたら、自分だけ別の部屋に転移させられたのかもしれないが。
背中に冷や汗をかきはじめ、僕はゆっくりと振り返った。そこに居たのは『白い翼の天使ジミル』よりも更に硬質な白い輝きを纏った天使がいた。
「俺は、ソルト。お前の教育係り」
潜在能力のテストで、類い希な能力が備わっている事が判明し、僕は無事に天使となった。
キムさんは、僕の能力を知っていたのだろうか。それでジミルを、天使に戻そうと考えたのだろうか。僕の『再生』の能力を利用して…。
そう、僕が天使になって手に入れた能力は、
『再生』
僕の能力でジミルを天使に戻すという事は、僕に関わった為に翼を切り落とされ人間として生きるジミルへの、罪滅ぼしのような気がした。
細胞を人間から天使に、伐られた翼を再び背に。
媒体は、僕の体液や細胞を使って。
それはつまり、僕がジミルの中で生きるということ。
僕が、君に。
君は、僕に。
どうにかならないかと考えて、目の前にいるのが解決策を知っている頼もしい存在だと気がついた。今こそ付き人としての職務経験を本領発揮して欲しい。
「キムさんは天使であるにも関わらず、僕の付き人してるんですか?!」
「そうですが?」
「それって僕を護るために?人間の振りしてるってこと?!」
「……まあ、そうなりますね」
「じゃあ僕も!天使になっても『僕』のままでいられる?」
「可能ですが、希望を叶えるためには取引条件として何かを失う事になります。私の取引条件は『寿命』です。天使は通常不老不死ですが、ジミルが人間になってしまったので、私もジミルの傍にいたくて寿命のある天使になるという選択をしました。だから……このままジミルに会えずに死んでしまうのは、心残りというか……」
「死んでしまうって……病気の事?入院して治る病気じゃないの?いったい何の病気?」
「黒色ウイルスです。天使の間で流行っている感染症で、人間に感染する事はありません」
『黒色ウイルス』とは天使の羽根や身体の一部が黒くなり、重症化すると命を落とす事もある感染症だった。
元から黒い翼のキムさんは発見が遅れたらしく、治療薬が合わなければ余命宣告されてもおかしくないと考えていると言う。
「ジョン様は人間になったジミルに、会った事はありませんか?きっと近くに転生していたのではないかと思うのですが……」
「いや、会った事はない。天使の話は僕の口から語れないように、不思議な力が働いてい……っ、カハッ」
突然胸や喉が焼けるように痛み、咳き込んでしまった。口許を押さえた手のひらに、鮮血が散って茫然とする。
戸惑いながらキムさんを見ると、悲しげな表情をしていた。
「あぁ、時間になってしまったようですね。もうあまり余裕もないでしょうから、話だけ聞いて下さい。先程も話したように、ジョン様は何かと引き替えにすれば天使になっても今日、この時間に還って来られます。その時に、私が生きていられるか、ジミルと出会えるかはわかりません。ジミルがどんな状態でいるかもわかりませんが、出会えたら助けてやって下さい。ジミルは、ジョン様を『運命』の相手として自分の身を『犠牲』にしたのですから」
僕は、天使のために何を犠牲に出来るだろうか。ただ、彼にもう一度会いたいという思いを強く持って生きてきた。誰にも話せず、理解されることもなく。
会う目的は考えていなかったけど、僕が彼を助けられる何かがあるならば、『犠牲』になることは厭わない。
「ジョン様が、天使になってこの時間に戻って来れなかったら。私がこの炭酸水に毒を混ぜて殺したのだと、本国へ報告致します。天界での『試練』に合格されますよう祈っておりますね」
キムさんの声がだんだんと遠くなり、僕は漠然とあぁ死ぬんだなと思った。この時間に還ってきたら、まず、ケーキを食べたいな……。
次に目覚めた時は真っ白な、空も、土も、何も無い空間に立っていた。
周囲には大勢の青少年たちが集まり、不安そうにキョロキョロとしていた。
立っている者、座っている者。表情は、皆驚いたように呆然と……。自分が何故ここにいるのかわからない、というように。
僕はぼんやりと『死んだ?』と呟いたが、音声にはならなかったようだ。
キムさんから『死んでから天使になる』という話を聞いていなければ、この状況が受け入れられなかっただろう。
まるで『オーディション』でも始まるようだ。天使になるには、どんな要素が必要かわからないけれど、僕は『天使になってジミルを探す』という重大な目的があった。
だから、絶対に勝ち残らなければならない。拳を握りしめ、サバイバル的にはまず闘いか?と息巻いていると、今まで全く気配を感じなかった背後から、ぽんと肩を叩かれた。
僕はやはり『ぎゃっ!』という音声にならない悲鳴を上げた。
「『ジョン・グレイ・サニー』合格。凄いなお前、背中に太陽しょってるの?」
という声が聞こえ、気がつくと周りには誰も居なかった。『消滅』という単語がよぎる。もしかしたら、自分だけ別の部屋に転移させられたのかもしれないが。
背中に冷や汗をかきはじめ、僕はゆっくりと振り返った。そこに居たのは『白い翼の天使ジミル』よりも更に硬質な白い輝きを纏った天使がいた。
「俺は、ソルト。お前の教育係り」
潜在能力のテストで、類い希な能力が備わっている事が判明し、僕は無事に天使となった。
キムさんは、僕の能力を知っていたのだろうか。それでジミルを、天使に戻そうと考えたのだろうか。僕の『再生』の能力を利用して…。
そう、僕が天使になって手に入れた能力は、
『再生』
僕の能力でジミルを天使に戻すという事は、僕に関わった為に翼を切り落とされ人間として生きるジミルへの、罪滅ぼしのような気がした。
細胞を人間から天使に、伐られた翼を再び背に。
媒体は、僕の体液や細胞を使って。
それはつまり、僕がジミルの中で生きるということ。
僕が、君に。
君は、僕に。
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