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僕たちのこじれた関係①
1. side M ①
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僕は、ミンジェ。新しく立ち上げたばかりの、小さな事務所に所属しているアイドル練習生だ。
所属している練習生は市内から通う子もいれば、僕のように地方から上京して宿舎で共同生活をしている者もいる。
学校も転校になって、初めは戸惑いや寂しさもあったけど、今はどうにかデビューが決まりそうなところ。
けれど、僕は……悩んでいる事がある。
僕のダンスの基本は、コンテンポラリーで。
前の学校が芸術系だったから、現代舞踊やバレエの基礎を嫌というほどやってきて、身体に染み込んでいるリズムがある。
事務所の方針は、それとは違うヒップホップ系を押していて。
僕の現代舞踊の音取りが、ヒップホップとは違うと言われても仕方なく、練習を一生懸命やって努力していれば、そのうちタイミングが合ってくるだろうと思っていた。
リズムが違うと指摘されてからは、一人で練習室に籠ることが増えていた。けれど、踊っても踊っても何だかズレているようで、気がつくと深夜を過ぎている。
本当はメンバーの誰かに練習を付き合って貰った方が、感覚を掴みやすいだろう。
そう思うけれど、年上組は曲を作ったり歌詞を考えたり、その他にも仕事がある。
親友のスヒョンは時々付き合ってくれるけど、毎日ではない。年下のヨングは、いつも眠そうにしてるしまだ子どもだから、深夜まで付き合わせるなんてムリ……。
「あっ!今のとこ、また遅れた……」
振り付けのステップが、僕だけ一回多いの?
身体の向きのせい?
ヒットを速くしないとダメ?
もう何がなんだか解らなくなって、音楽を止めて崩れるように床に倒れた。
身体に触れる床の冷たさと、訪れた静寂が心地好い。
気持ちをリセットしなきゃ。
でも、脚…痛い。立てない…。
自分と戦いながらウトウトしていたら、優しい大きな手が、凝り固まった肩や、筋肉が張りすぎて感覚も無くなっているような脚を擦ってくれた。
“ あ~気持ちいい…。でも、…誰?”
そんな事が、3日続いた。
僕はデビュー前の食事制限中で、激しいダンスを長時間練習すればフラフラしてくる。
そして、気絶する寸前まで踊って床に倒れてるので、その優しい大きな手が誰の物なのか全くわからないでいた。
それというのも、いつも無言なのだ。
呼吸が苦しくて突然咳き込むような時も、ゆっくり背中を擦ってくれて。呼吸が落ち着くと、マッサージに変わる。
大丈夫?とか、痛くない?の声掛けもない。
本当は、気持ち悪い事なのだと思う。
練習室に自由に入ることが出来て、僕の身体を好きなように触る。完全な部外者ではないのに、どうして無言なのだろう?
僕に知られると、何か困る事でもあるのか。
その手に嫌悪感を抱く事はない。
僕にとってそれは『癒し』でしかなかったから。
挫けそうになって、泣きそうな僕を励ましてくれる大きな手。
誰だかわならないけど、今日こそお礼を言うんだ!と、口を開く。
「あ、ありが…と…ございます…」
ちゃんと顔を見てお礼を言いたいのに掠れた声しか出せず、それでも頑張って起き上がってみたけれど、そこにはもう誰もいなかった。
“…いったい、誰が僕を…?”
そうしている間に寝落ちしてしまい、気がついた時にはブランケットが掛けられていた。つまり、もう一度様子を見にきたって事。
手が大きいから、スヒョンが練習中にやって来て、倒れている僕をマッサージしてくれたのかと訊いてみると、
「俺じゃない。俺なら起こして連れて帰る」
「そっか。そうだよね…ほんとに誰なんだろう」
「無言なんて気持ち悪い。だけど…」
スヒョンが僕をじっと見て、ため息を吐いた。
「え。何?誰か知ってるの?」
「………俺がお前を迎えに行った時、ヨングが部屋に入るのを見た」
「え………えぇえぇえぇーっ!」
顔が火照ってくる。思わず両手に顔を埋める。スヒョンに赤くなった顔を見られるのは恥ずかしかった。
それというのも、僕のヨングに対する気持ちは…。
なんというか…。『恋』に近い。
ヨングは僕の2歳年下で、実の弟と同い年だった。家族と離れてソウルに上京した時に、同郷だったよしみもあって親近感を持ち、何かと気にかけるようになった。
それは親近感だと思っていたけれど、僕が思春期だったからなのか、想いは募るばかりで。
ウサギのような、黒くてキラキラした眼が好きだ。僕と目が合うとぱっと逸らされるけど、それでも辛抱強く待っていると、またこちらを見てくる。
その様子は、可愛い以外の何ものでもなくいつも僕の心臓をくすぐって。
それがいつしか視線が合うと、胸がキュッとなって呼吸が早くなってしまうようになった。
僕は、ヨングが気になって気になって…。
これが恋心でなかったら、何が恋心か。
それから照れ隠しに、度々ちょっかいを出すようになった。
ちょっかいを出すといっても、好きなコに意地悪するなんて考えられない。
可愛いと思ったら髪に触れてくしゃっとしたり、もっと仲良くなりたいから、ぎゅっと抱きついて。
その行動は揶揄ってる訳ではないのに、逆効果だった。なじられ、突き飛ばされ、しまいには無視されて。ヨングはスキンシップが苦手なのか、いつも僕には塩対応だった。
それじゃあ胃袋へアプローチしようとおやつを買ってあげても、喜んでるのかイマイチわからなかったけど。捨てないで食べてるなら、まぁいっか。
だけど、あまりにも嫌な顔をされて怖い顔で睨まれると僕も悲しくなってくる。本気で、拒絶されるのは辛い……。
所属している練習生は市内から通う子もいれば、僕のように地方から上京して宿舎で共同生活をしている者もいる。
学校も転校になって、初めは戸惑いや寂しさもあったけど、今はどうにかデビューが決まりそうなところ。
けれど、僕は……悩んでいる事がある。
僕のダンスの基本は、コンテンポラリーで。
前の学校が芸術系だったから、現代舞踊やバレエの基礎を嫌というほどやってきて、身体に染み込んでいるリズムがある。
事務所の方針は、それとは違うヒップホップ系を押していて。
僕の現代舞踊の音取りが、ヒップホップとは違うと言われても仕方なく、練習を一生懸命やって努力していれば、そのうちタイミングが合ってくるだろうと思っていた。
リズムが違うと指摘されてからは、一人で練習室に籠ることが増えていた。けれど、踊っても踊っても何だかズレているようで、気がつくと深夜を過ぎている。
本当はメンバーの誰かに練習を付き合って貰った方が、感覚を掴みやすいだろう。
そう思うけれど、年上組は曲を作ったり歌詞を考えたり、その他にも仕事がある。
親友のスヒョンは時々付き合ってくれるけど、毎日ではない。年下のヨングは、いつも眠そうにしてるしまだ子どもだから、深夜まで付き合わせるなんてムリ……。
「あっ!今のとこ、また遅れた……」
振り付けのステップが、僕だけ一回多いの?
身体の向きのせい?
ヒットを速くしないとダメ?
もう何がなんだか解らなくなって、音楽を止めて崩れるように床に倒れた。
身体に触れる床の冷たさと、訪れた静寂が心地好い。
気持ちをリセットしなきゃ。
でも、脚…痛い。立てない…。
自分と戦いながらウトウトしていたら、優しい大きな手が、凝り固まった肩や、筋肉が張りすぎて感覚も無くなっているような脚を擦ってくれた。
“ あ~気持ちいい…。でも、…誰?”
そんな事が、3日続いた。
僕はデビュー前の食事制限中で、激しいダンスを長時間練習すればフラフラしてくる。
そして、気絶する寸前まで踊って床に倒れてるので、その優しい大きな手が誰の物なのか全くわからないでいた。
それというのも、いつも無言なのだ。
呼吸が苦しくて突然咳き込むような時も、ゆっくり背中を擦ってくれて。呼吸が落ち着くと、マッサージに変わる。
大丈夫?とか、痛くない?の声掛けもない。
本当は、気持ち悪い事なのだと思う。
練習室に自由に入ることが出来て、僕の身体を好きなように触る。完全な部外者ではないのに、どうして無言なのだろう?
僕に知られると、何か困る事でもあるのか。
その手に嫌悪感を抱く事はない。
僕にとってそれは『癒し』でしかなかったから。
挫けそうになって、泣きそうな僕を励ましてくれる大きな手。
誰だかわならないけど、今日こそお礼を言うんだ!と、口を開く。
「あ、ありが…と…ございます…」
ちゃんと顔を見てお礼を言いたいのに掠れた声しか出せず、それでも頑張って起き上がってみたけれど、そこにはもう誰もいなかった。
“…いったい、誰が僕を…?”
そうしている間に寝落ちしてしまい、気がついた時にはブランケットが掛けられていた。つまり、もう一度様子を見にきたって事。
手が大きいから、スヒョンが練習中にやって来て、倒れている僕をマッサージしてくれたのかと訊いてみると、
「俺じゃない。俺なら起こして連れて帰る」
「そっか。そうだよね…ほんとに誰なんだろう」
「無言なんて気持ち悪い。だけど…」
スヒョンが僕をじっと見て、ため息を吐いた。
「え。何?誰か知ってるの?」
「………俺がお前を迎えに行った時、ヨングが部屋に入るのを見た」
「え………えぇえぇえぇーっ!」
顔が火照ってくる。思わず両手に顔を埋める。スヒョンに赤くなった顔を見られるのは恥ずかしかった。
それというのも、僕のヨングに対する気持ちは…。
なんというか…。『恋』に近い。
ヨングは僕の2歳年下で、実の弟と同い年だった。家族と離れてソウルに上京した時に、同郷だったよしみもあって親近感を持ち、何かと気にかけるようになった。
それは親近感だと思っていたけれど、僕が思春期だったからなのか、想いは募るばかりで。
ウサギのような、黒くてキラキラした眼が好きだ。僕と目が合うとぱっと逸らされるけど、それでも辛抱強く待っていると、またこちらを見てくる。
その様子は、可愛い以外の何ものでもなくいつも僕の心臓をくすぐって。
それがいつしか視線が合うと、胸がキュッとなって呼吸が早くなってしまうようになった。
僕は、ヨングが気になって気になって…。
これが恋心でなかったら、何が恋心か。
それから照れ隠しに、度々ちょっかいを出すようになった。
ちょっかいを出すといっても、好きなコに意地悪するなんて考えられない。
可愛いと思ったら髪に触れてくしゃっとしたり、もっと仲良くなりたいから、ぎゅっと抱きついて。
その行動は揶揄ってる訳ではないのに、逆効果だった。なじられ、突き飛ばされ、しまいには無視されて。ヨングはスキンシップが苦手なのか、いつも僕には塩対応だった。
それじゃあ胃袋へアプローチしようとおやつを買ってあげても、喜んでるのかイマイチわからなかったけど。捨てないで食べてるなら、まぁいっか。
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