僕たちのこじれた関係

柏葉 結月

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君のPerfume

君のPerfume ②

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(side ヨング)


宿舎に着くなりミンジェの手首を掴んで、僕の部屋まで強引に引っ張って来て鍵をかけた。

「痛いよ、ヨング!もう離せ、って。さっきから何なんだよ!僕、何かした?!」

「ミンジェ、さっき誰と会ってたの?」

「え?何の話?もしかして、ヘアメイクさんの事?」

は?ヘアメイクさん?

ミンジェの服から甘い香水の香りがして、冷静でいられなくなった。
原因の服はとっとと脱がし、身体の何処にも異状がないか確認しなければ、嫉妬で狂いだしてしまいそうだ。

ミンジェのピンクの唇を親指で拭って、人差し指で擦り合わせる。控え室を出る前に僕が塗ってあげた保湿用リップが残っているから、キスはしてないようだ。というか、そんな可能性想像したくもない!


時間をずらして送迎車に乗るように言われ、荷物を持って先に出た。その時のミンジェの香りは『ミンジェ』だった。

「先に出て、待ってますね?」

「うん、すぐに行く」

笑顔で送り出されて送迎車で待ってたのだって、10分も無い。

それなのに!

車に乗り込んで来たミンジェからは" 女性 "の匂いがした。そして心なしかウキウキした様子に、一体何があった?と不安になってしまう。その不安は、もはや『嫉妬』に発達しているけれど。

「どこで?どうやってマーキングされました?」

「なん、の、ことっ」

「この、甘い匂い、ですよっ」

嫌がるミンジェから、Tシャツを脱がした。そして華奢な肩に手を掛け、揺さぶる。途端にミンジェの表情が険しくなった。

「なに?もしかして、疑ってるの?……僕の事を?」

乱れた前髪の間から睨まれて、冷水を浴びたように正気に戻った僕は、ミンジェに触れていた手を無意識に降ろした。
半裸にされたミンジェは脱がされた Tシャツを僕から奪って、ぎゅうっと握り締めた。

「もう一度訊くけど、疑ってるんだよね?」

「………、は、い」

「この香水は、おまえが良い香りだって褒めた、ヘアメイクさんの匂いでしょ」

そういえば、今日担当してくれた女性が僕好みのフルーツっぽい香水だった。
でも、そんなの今言われるまで全く忘れていた事で……。

「それで?僕からその香りがしたからって?どうしてこんな風に責められるの?」

ミンジェが瞬きして、ぽろっと涙が落ちた。

「僕が、何かしたと、思ったの?おまえが待ってるのに、誰かと……っ、て、思ったの?」

T シャツを床に勢いよく叩きつけ、肩を震わせるミンジェを抱き寄せた。
こんな風に感情を表に出すのは、とても珍しい事で……。いつもは僕が宥めてもらって、甘える側なのに。

「ごめ……ん、ごめんね?」

「苦しいよっ!」

僕の胸やら背中を、小さなこぶしで何度も叩かれて。呼吸も奪う程に強く抱き締めていた事に気がつく。

こんな風に、僕は時々気づかされる。

僕がミンジェを好き過ぎて、少しの余裕も持っていないのだということに……。


腕を弛めて、上着の中にミンジェを入れて包み込んだ。すっぽりと入った肩が、少しだけ冷たい。

ミンジェは激しく抵抗していたけれど、今はしゃくり上げながらも大人しくなっていた。サラサラとした髪が、僕の頬をくすぐるように揺れる。

「ねぇ、ミンジェ?何故、香水の香りが T シャツに着いていたんですか?」

ミンジェは、僕の肩口に顔を埋めたまま、息を調えて呟き始めた。

「香水の、サンプルを貰ったんだ。さっき話したヘアメイクさんに帰り際、呼び止められて。おまえに、渡して欲しいって…。危険な液体を、おまえに渡す訳にはいかないから、自分で試してからと思って、 T シャツにかけた」

僕は驚いてミンジェを離し、両肩を掴んで顔を覗き込んだ。

「危ないじゃないですか!そんな事をして、もし本当に危険な液体だったら、どうなっていたか!」

ミンジェが、ふふっと、泣き笑いをする。瞼が腫れて、赤い目もとにドキッとしてしまう。貴方は嫌がるけど、庇護欲を刺激されて可愛いと思ってしまうのだ。

「プレゼントなんだから捨てるわけにはいかないだろ?彼女は、おまえに香水を褒められたと嬉しそうに話していた。それが…、なんだか。モヤモヤして。 僕も、おまえに良い匂いだねって、言われたかったんだ」


そんな……そんな理由だったなんて。

ミンジェは、自分がどんなに魅力的な香りを身に纏っているか、気がついてない。

僕がマーキングする所為で、僕の香水が移った後、ミンジェの体温で、それがどれ程芳しくなるかわかっていない。

【minjhe】というPerfumeは、僕と貴方とで完成する世界でひとつのもの。

その香りが、僕の一番好む香りなのだと伝えても、貴方は多分、恥ずかしがるだけだろうな……。


「……ミンジェ? ごめんなさい。僕は、貴方が他の誰かと何かあった時、許せそうにありません」

ピンクのぽってりした唇に、そっとキスをする。

「僕は貴方の事がどうしようもなく好きで。好きだから、とても正気ではいられないと思います」

唇が触れるか触れないかの所で止まると、ミンジェの開いた唇が僅かに震えるのが気配でわかった。

「だからごめんなさい。誰かと、どうにかならないように。裏切る事を、諦めて下さい。僕が、僕でいられるように」

キスを待つ。
貴方から、約束のキスを返してくれるのを。

「そんなの当たり前だろ?僕を疑った、おまえの方が僕を裏切ったんだ」

批難めいた台詞とは反対に、返ってきたキスは僕の唇を愛撫するようにゆっくりと擦り合わされ、離れていく。
名残りを追いかければすぐに辿り着いて柔らかく受け止められて、今度は貪るように何度もその感触を味わった。

絶え間なく続く濡れた音と、ミンジェの、僕の、鼓動が早くなって、二人のリズムが重なりそうで、重ならないのがもどかしい。

「はふっ、ぅぁ……、ヨン、グ。ヨング……すき、大好き。んっ、」

ミンジェの吐息が、僕を捕らえて、素肌から匂い立つ、貴方の芳香に、

……眩暈がした。




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