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君のPerfume
君のPerfume ①
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(side ミンジェ)
撮影スタジオの廊下を、僕は急ぎ足で歩いていた。擦れ違うスタッフに、「お疲れ様です」と丁寧に会釈しても、立ち止まる事はない。ヨングはすでに僕の荷物を持って、10分ずらして先に控え室を出ているのだ。
「ミンジェさん!」
突然、背後から呼び止められて仕方なく振り返った。ちなみに、焦っている本音は尾首にも出さず、声の主を探すと……。
今日撮影でヘアメイクを担当していた女性が、ニコニコしながら小走りにやってくるところだった。
「お疲れ様です、今日はありがとうございました」
僕は、ぺこりとお辞儀をした。
「お疲れ様です。すみません、帰るところを呼び止めてしまって。あの、これ香水なんですけど……」
差し出されたのは、青紫色のガラスが綺麗な小瓶。曲線のフォルムも可愛いとは思うけど、僕は香水を付けないから不思議に思って首を傾げてしまった。
「さっき、ヨングさんを担当させて頂いた時に、私の使ってる香水を良い香りですねって言ってもらったんです。なのでこれサンプルですが、ヨングさんに良かったら……」
……あぁ、そういうこと?
彼女の手の平の上にある、小瓶を見つめる。
「わかりました。ありがとうございます」
ヨングに関わりたいなら、たぶん直接渡そうとするはずなので、本当にただの善意なのだろう。僕はヨングに渡す約束をして、香水を受け取った。彼女はまだ控え室の片付けがあるのか、すぐに戻っていった。
香水のプレゼントはたまにある。けれども職業柄の危機管理として、何か危険な液体だったら困る。僕は香水をワンプッシュ着ているTシャツにかけてみた。
辺りに拡がるフレッシュなフルーツの香り。ローズも混じっていて、確かにヨングの好きそうな匂いだ。Tシャツに変化も無いしこれなら大丈夫だろう。
……だからと言って、彼女とヨングが同じ香水を使うなんて。
そんなの、ありえない。
二人が再会した時に、同じ香水を使っていたら……なんて考えると、胸の奥がチリチリする。
けれど渡すと約束した物を捨てるわけにもいかず、そのままポケットに入れて、ヨングが待っている送迎車へと急ぎ足でその場をあとにした。
" ヨングが好きな香りなら、もしかしていい匂いだねって言ってもらえるかも!"
ポジティブに考えたら、期待で気分が上がってしまった。ヨングがどんな反応をするか、楽しみで仕方ない。
スタッフに送迎車のドアを開けてもらって、ウキウキしながら中へ滑り込むように入り、ヨングの隣の座席に腰を落ち着けチラッと様子を伺う。
「……遅かったですね」
ヨングは弄っていた携帯から顔を上げて、不機嫌そうに呟いた。
あれ?なんか怒ってる。
思っていた反応と違い、僕は焦って言い訳のような返事をしてしまう。
「ごめん、ね?ちょっとスタッフさんに呼び止められて」
「そうですか……」
ヨングが窓の方へぷいっと向いてしまったので、香水の話題を切り出せなくなった。匂いに敏感なヨングが、僕のまとう香りに気がつかないはずがないのに、なぜその事に触れてくれないのだろう。
送迎の車内は無駄に香水の良い香りと、ヨングから発されるピリピリとした重たい空気に満たされた。
「ヨング?どうしたんだよ?」
話しかけても、ヨングは僕の方を見なかった。僕は小さく溜め息を吐いて、ポケットの中の小さな小瓶に触れ、香水は宿舎に帰ったら渡すことにした。
僕はただ、ヨングに" 良い匂いだね" って言って欲しかっただけなんだ。
ヨングが僕の髪とか身体とか色々嗅ぐから、時々恥ずかしくて。
そんなに嗅がれると、僕、何か変な匂いでもするのかと、思っちゃうじゃんか。
ヨングが『匂いフェチ』なのはわかる。
少し前の僕は柑橘系の香水を使っていて、そのうちヨングも同じ物を使い始めた。
" 同じ香水を使っていれば、僕たちの移り香が同じ匂いでも言い訳が出来ますよね"
その結果、スヒョンに揶揄された。
「 お前ら…同じ匂いがする」
そう言ったスヒョンの悲し気な表情が、なんだか僕の心に小さな棘みたいなものを残した。香水を使う度にヨングとの関係を誇示しているような、そんな行為に罪悪感を持ってしまった。
だから香水を付けなくなったけど、ヨングと一緒にいれば自然と同じ匂いになってしまうのであまり意味はなかった。
ヨングに抱き締められると、フワッと、フルーツや花の香り。
それが凄くキュンキュンして、僕がヨングを好きだなぁって想う瞬間だ。思わず擦り寄って、僕にもその香りが付くようにした事もある。
結局僕はヨングが大好きで、同じようにヨングをキュンキュンさせたかった。
僕の匂いを嗅いで、好きだって思って欲しかった、だけなんだ。
撮影スタジオの廊下を、僕は急ぎ足で歩いていた。擦れ違うスタッフに、「お疲れ様です」と丁寧に会釈しても、立ち止まる事はない。ヨングはすでに僕の荷物を持って、10分ずらして先に控え室を出ているのだ。
「ミンジェさん!」
突然、背後から呼び止められて仕方なく振り返った。ちなみに、焦っている本音は尾首にも出さず、声の主を探すと……。
今日撮影でヘアメイクを担当していた女性が、ニコニコしながら小走りにやってくるところだった。
「お疲れ様です、今日はありがとうございました」
僕は、ぺこりとお辞儀をした。
「お疲れ様です。すみません、帰るところを呼び止めてしまって。あの、これ香水なんですけど……」
差し出されたのは、青紫色のガラスが綺麗な小瓶。曲線のフォルムも可愛いとは思うけど、僕は香水を付けないから不思議に思って首を傾げてしまった。
「さっき、ヨングさんを担当させて頂いた時に、私の使ってる香水を良い香りですねって言ってもらったんです。なのでこれサンプルですが、ヨングさんに良かったら……」
……あぁ、そういうこと?
彼女の手の平の上にある、小瓶を見つめる。
「わかりました。ありがとうございます」
ヨングに関わりたいなら、たぶん直接渡そうとするはずなので、本当にただの善意なのだろう。僕はヨングに渡す約束をして、香水を受け取った。彼女はまだ控え室の片付けがあるのか、すぐに戻っていった。
香水のプレゼントはたまにある。けれども職業柄の危機管理として、何か危険な液体だったら困る。僕は香水をワンプッシュ着ているTシャツにかけてみた。
辺りに拡がるフレッシュなフルーツの香り。ローズも混じっていて、確かにヨングの好きそうな匂いだ。Tシャツに変化も無いしこれなら大丈夫だろう。
……だからと言って、彼女とヨングが同じ香水を使うなんて。
そんなの、ありえない。
二人が再会した時に、同じ香水を使っていたら……なんて考えると、胸の奥がチリチリする。
けれど渡すと約束した物を捨てるわけにもいかず、そのままポケットに入れて、ヨングが待っている送迎車へと急ぎ足でその場をあとにした。
" ヨングが好きな香りなら、もしかしていい匂いだねって言ってもらえるかも!"
ポジティブに考えたら、期待で気分が上がってしまった。ヨングがどんな反応をするか、楽しみで仕方ない。
スタッフに送迎車のドアを開けてもらって、ウキウキしながら中へ滑り込むように入り、ヨングの隣の座席に腰を落ち着けチラッと様子を伺う。
「……遅かったですね」
ヨングは弄っていた携帯から顔を上げて、不機嫌そうに呟いた。
あれ?なんか怒ってる。
思っていた反応と違い、僕は焦って言い訳のような返事をしてしまう。
「ごめん、ね?ちょっとスタッフさんに呼び止められて」
「そうですか……」
ヨングが窓の方へぷいっと向いてしまったので、香水の話題を切り出せなくなった。匂いに敏感なヨングが、僕のまとう香りに気がつかないはずがないのに、なぜその事に触れてくれないのだろう。
送迎の車内は無駄に香水の良い香りと、ヨングから発されるピリピリとした重たい空気に満たされた。
「ヨング?どうしたんだよ?」
話しかけても、ヨングは僕の方を見なかった。僕は小さく溜め息を吐いて、ポケットの中の小さな小瓶に触れ、香水は宿舎に帰ったら渡すことにした。
僕はただ、ヨングに" 良い匂いだね" って言って欲しかっただけなんだ。
ヨングが僕の髪とか身体とか色々嗅ぐから、時々恥ずかしくて。
そんなに嗅がれると、僕、何か変な匂いでもするのかと、思っちゃうじゃんか。
ヨングが『匂いフェチ』なのはわかる。
少し前の僕は柑橘系の香水を使っていて、そのうちヨングも同じ物を使い始めた。
" 同じ香水を使っていれば、僕たちの移り香が同じ匂いでも言い訳が出来ますよね"
その結果、スヒョンに揶揄された。
「 お前ら…同じ匂いがする」
そう言ったスヒョンの悲し気な表情が、なんだか僕の心に小さな棘みたいなものを残した。香水を使う度にヨングとの関係を誇示しているような、そんな行為に罪悪感を持ってしまった。
だから香水を付けなくなったけど、ヨングと一緒にいれば自然と同じ匂いになってしまうのであまり意味はなかった。
ヨングに抱き締められると、フワッと、フルーツや花の香り。
それが凄くキュンキュンして、僕がヨングを好きだなぁって想う瞬間だ。思わず擦り寄って、僕にもその香りが付くようにした事もある。
結局僕はヨングが大好きで、同じようにヨングをキュンキュンさせたかった。
僕の匂いを嗅いで、好きだって思って欲しかった、だけなんだ。
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