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僕たちのこじれた関係&君のPerfume(Spin-off)
君のPerfume ➍
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(side ユギ)
深夜に帰った宿舎のキッチンには、当たり前だが誰もいない。安堵しつつ冷蔵庫からウォーターピッチャーを出し、震える手を添えてコップに水を注ぎ、なんとかそれを飲み込んだ。
冷たい水は、ドキドキと早い鼓動を収めてくれるかと思ったけれど、なんの効果もなかった。かといって、酒を飲む気分でもない。
キッチンに来るまでに、ヨングの部屋に向かうミンジェを捕まえたので、ヨングとの仲を訊いた。
「お前とヨングはいつから付き合ってるんだ?ケンカが減ったようで安心したよ」
「え?ヨングとですか?付き合うって恋人として、ですよね?一緒に居る事は多くなったけど、まだ恋人ってわけじゃ……。
僕たち高校生だし、ヨングはまだ子どもですよ?まぁ……、前よりは仲良くなったかな」
「……。」
付き合ってない……?
耳を疑う告白に、俺にしては珍しくメンタルがブレた。ヨングが精神的に子どもかどうかは懐疑的だったが、ミンジェは自分たちが高校生だという立場も考えて、熱愛には至っていないらしい。
けれど、俺はその高校生に手を出してしまったのだ。
しかも……。
スヒョンはまだ、ミンジェに想いを寄せていたのに。
突き付けられた現実に、後悔や焦りを感じつつ、そろそろ潮時なのだろうかと思い始めた。スヒョンとの身体を含めた『擬似恋愛』は、あいつを慰めるための関係だったのだから。
スヒョンが立ち直れたのなら、もう一緒に過ごす必要はなくなる。
「ユギ?」
俺がキッチンで項垂れている所へ、長兄ソクが起きて来た。早く部屋に戻っていれば、会わなくて済んだのに。
「何か元気ないな?大丈夫か?恋人とケンカ?うーん……ヒョンとして言うけど、ちゃんと言えよ?アト、付けるなって」
「……は?」
何を言い出すのだ急に。ソクは咄嗟に反応出来ずにいた俺の襟足の髪を、指先ですいっと持ち上げた。
「首の後ろんとこ!ギリギリ髪で隠れてるけど、前のが消えかけてたのにまた新しいキスマーク付けられてるぞ?撮影もあるからな?お前白いから目立つし、ほんとに気を付けろよ」
「……わか、りました……」
ソクは俺の相手がスヒョンだと気が付いているのだろうか。いや、知っていたら全力で止めてくるに決まっている。
俺は再び、罪悪感の沼に突き落とされた。
今まではスヒョンが深夜にいつ入ってきても良いように、部屋の鍵を施錠しなかった。思えばこれがスヒョンを甘えさせる結果になって、身体を許してしまったんだ。
今日は鍵を閉めて、一人で眠りに就いた。
事実を知ってしまったのに、こんな関係を続けていける訳がない。ヒョンである俺が、ちゃんと拒絶していれば風紀は乱れなかったのに。
ふと眼が覚めて、何時だろう?と携帯を見ると、時間よりもスヒョンからの着信の通知が10回以上もあって驚く。
そして5分前にもメールで「入れて下さい」
俺は、まさかと思って部屋の鍵を開けた。
外に人の気配。部屋の前の床に、スヒョンが踞っていた。
「……スヒョン。俺にはおまえが運べない。立てるか?」
冬眠から目覚めた熊のような動きで、立ち上がったかと思うと、俺に覆い被さってきた。なんとか引きずって、部屋に入れた。
「……何で、ですか?なんで、急に鍵かけて、電話も出ないし……」
スヒョンの表情は、前髪で隠れてよく見えなかったが、泣き出しそうになっているのはわかる。
抱きついて来られて、受け止められなかった俺はベッドの端に足を取られ、二人でそのまま倒れた。
スヒョンの重さで、肺が潰れかける。
「俺、何かしましたか?俺の事が嫌になりましたか?」
「……そういう事じゃねえよ」
そうじゃない。嫌になんて、なっていない。むしろ、スヒョンを前よりも大事に想うようになっていた。
だけど、お前は本来ミンジェの事が好きで、俺はミンジェの代わりにお前に抱かれた訳で。
だから……、だから……、
まだ、可能性が有ったなら、俺はお前に抱 かれるべきじゃなかった。
「……ヒョン。……ヒョン。俺、貴方の事が好きなんです」
必死に縋るように抱きついてくるスヒョンに、俺も胸が締め付けられるようだった。
「錯覚、だよ。俺はサイズ感が、ミンジェと同じだから。ミンジェと一緒に居るような錯覚、だよ」
「錯覚じゃない!」
起き上がって、濡れた目で上から見下ろすスヒョンの視線に、ぞくぞくとしてしまう。
俺を抱く時のお前は、時々そんな目をしていたけど、何が言いたいんだよ。
「ヒョンは、俺の事が好き?好きじゃなかったら、何で抱かれた?誰にでもこんなに無防備、ですか?誰にでも、抱かれるんですか?」
好きじゃなかったら、抱かれたりしないし。無防備なんて、誰にでもな訳ない。
お前の事、ちゃんと愛してるよ?
でも、それを伝えて、いいのか?
ミンジェが好きなお前に、俺が愛してると、伝えていいのか?
けれど、これだけは隠しておきたくない。
「ミンジェとヨング。まだ付き合って、ないぞ」
「……え?」
「まだお前にも、チャンスがあるかもしれない。俺の事は、もう……」
突然、怒ったようなスヒョンの顔が近づいて、荒々しく唇を塞がれた。反論を許さないかのように舌を絡められ、吸い上げられ、セックスを始める時のように甘美な刺激が、俺の背中を這い回る。
「はっ…、あぁっ。やめ、とけって!」
三白眼は俺の中の感情を暴きたがって、まるで虎に睨まれた小動物のようになす術もない。
体格差で押さえられ、着たばかりの夜着が剥ぎ取られた。
「あぅっ、あっあっ、スヒョ、ンッ!」
身体が、陥落される。ぐずぐずにされたソコは、すぐにお前を欲しがるようになってしまった。
『ミンジェじゃなくて俺にしとけよ』
俺はきっと、心のどこかで願っている。
悦びを知って、その、危うい情熱の炎に焼かれるたび、そう思ってしまっていた事。
スヒョンは、気が付いていたのだろうか。
深夜に帰った宿舎のキッチンには、当たり前だが誰もいない。安堵しつつ冷蔵庫からウォーターピッチャーを出し、震える手を添えてコップに水を注ぎ、なんとかそれを飲み込んだ。
冷たい水は、ドキドキと早い鼓動を収めてくれるかと思ったけれど、なんの効果もなかった。かといって、酒を飲む気分でもない。
キッチンに来るまでに、ヨングの部屋に向かうミンジェを捕まえたので、ヨングとの仲を訊いた。
「お前とヨングはいつから付き合ってるんだ?ケンカが減ったようで安心したよ」
「え?ヨングとですか?付き合うって恋人として、ですよね?一緒に居る事は多くなったけど、まだ恋人ってわけじゃ……。
僕たち高校生だし、ヨングはまだ子どもですよ?まぁ……、前よりは仲良くなったかな」
「……。」
付き合ってない……?
耳を疑う告白に、俺にしては珍しくメンタルがブレた。ヨングが精神的に子どもかどうかは懐疑的だったが、ミンジェは自分たちが高校生だという立場も考えて、熱愛には至っていないらしい。
けれど、俺はその高校生に手を出してしまったのだ。
しかも……。
スヒョンはまだ、ミンジェに想いを寄せていたのに。
突き付けられた現実に、後悔や焦りを感じつつ、そろそろ潮時なのだろうかと思い始めた。スヒョンとの身体を含めた『擬似恋愛』は、あいつを慰めるための関係だったのだから。
スヒョンが立ち直れたのなら、もう一緒に過ごす必要はなくなる。
「ユギ?」
俺がキッチンで項垂れている所へ、長兄ソクが起きて来た。早く部屋に戻っていれば、会わなくて済んだのに。
「何か元気ないな?大丈夫か?恋人とケンカ?うーん……ヒョンとして言うけど、ちゃんと言えよ?アト、付けるなって」
「……は?」
何を言い出すのだ急に。ソクは咄嗟に反応出来ずにいた俺の襟足の髪を、指先ですいっと持ち上げた。
「首の後ろんとこ!ギリギリ髪で隠れてるけど、前のが消えかけてたのにまた新しいキスマーク付けられてるぞ?撮影もあるからな?お前白いから目立つし、ほんとに気を付けろよ」
「……わか、りました……」
ソクは俺の相手がスヒョンだと気が付いているのだろうか。いや、知っていたら全力で止めてくるに決まっている。
俺は再び、罪悪感の沼に突き落とされた。
今まではスヒョンが深夜にいつ入ってきても良いように、部屋の鍵を施錠しなかった。思えばこれがスヒョンを甘えさせる結果になって、身体を許してしまったんだ。
今日は鍵を閉めて、一人で眠りに就いた。
事実を知ってしまったのに、こんな関係を続けていける訳がない。ヒョンである俺が、ちゃんと拒絶していれば風紀は乱れなかったのに。
ふと眼が覚めて、何時だろう?と携帯を見ると、時間よりもスヒョンからの着信の通知が10回以上もあって驚く。
そして5分前にもメールで「入れて下さい」
俺は、まさかと思って部屋の鍵を開けた。
外に人の気配。部屋の前の床に、スヒョンが踞っていた。
「……スヒョン。俺にはおまえが運べない。立てるか?」
冬眠から目覚めた熊のような動きで、立ち上がったかと思うと、俺に覆い被さってきた。なんとか引きずって、部屋に入れた。
「……何で、ですか?なんで、急に鍵かけて、電話も出ないし……」
スヒョンの表情は、前髪で隠れてよく見えなかったが、泣き出しそうになっているのはわかる。
抱きついて来られて、受け止められなかった俺はベッドの端に足を取られ、二人でそのまま倒れた。
スヒョンの重さで、肺が潰れかける。
「俺、何かしましたか?俺の事が嫌になりましたか?」
「……そういう事じゃねえよ」
そうじゃない。嫌になんて、なっていない。むしろ、スヒョンを前よりも大事に想うようになっていた。
だけど、お前は本来ミンジェの事が好きで、俺はミンジェの代わりにお前に抱かれた訳で。
だから……、だから……、
まだ、可能性が有ったなら、俺はお前に抱 かれるべきじゃなかった。
「……ヒョン。……ヒョン。俺、貴方の事が好きなんです」
必死に縋るように抱きついてくるスヒョンに、俺も胸が締め付けられるようだった。
「錯覚、だよ。俺はサイズ感が、ミンジェと同じだから。ミンジェと一緒に居るような錯覚、だよ」
「錯覚じゃない!」
起き上がって、濡れた目で上から見下ろすスヒョンの視線に、ぞくぞくとしてしまう。
俺を抱く時のお前は、時々そんな目をしていたけど、何が言いたいんだよ。
「ヒョンは、俺の事が好き?好きじゃなかったら、何で抱かれた?誰にでもこんなに無防備、ですか?誰にでも、抱かれるんですか?」
好きじゃなかったら、抱かれたりしないし。無防備なんて、誰にでもな訳ない。
お前の事、ちゃんと愛してるよ?
でも、それを伝えて、いいのか?
ミンジェが好きなお前に、俺が愛してると、伝えていいのか?
けれど、これだけは隠しておきたくない。
「ミンジェとヨング。まだ付き合って、ないぞ」
「……え?」
「まだお前にも、チャンスがあるかもしれない。俺の事は、もう……」
突然、怒ったようなスヒョンの顔が近づいて、荒々しく唇を塞がれた。反論を許さないかのように舌を絡められ、吸い上げられ、セックスを始める時のように甘美な刺激が、俺の背中を這い回る。
「はっ…、あぁっ。やめ、とけって!」
三白眼は俺の中の感情を暴きたがって、まるで虎に睨まれた小動物のようになす術もない。
体格差で押さえられ、着たばかりの夜着が剥ぎ取られた。
「あぅっ、あっあっ、スヒョ、ンッ!」
身体が、陥落される。ぐずぐずにされたソコは、すぐにお前を欲しがるようになってしまった。
『ミンジェじゃなくて俺にしとけよ』
俺はきっと、心のどこかで願っている。
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