僕たちのこじれた関係

柏葉 結月

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僕と君の蜜月旅行

4.ペアリングとは?

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 side M

「……僕、勘違いしてたみたい。ヨングの言う、ちゃんとしたって結婚指輪の事じゃなかったんだ?本気のペアリング?意味わかんない」

 ここ数日のやり取りを振り返る。そうだ、ヨングはひと言も『結婚指輪 』という単語を出さなかった。
 プロポーズされたけど、どう考えても今結婚する事は出来なくて、でも二人ともいつか結婚出来たらいいねっていう気持ちは同じだったはず。

 ヨングは、" ちゃんとした "って言っただけで結婚指輪のつもりじゃ、なかった?
 でも、連れてこられた指輪を買うお店はブランドランキング上位の世界的ハイブランドで。

 だから、本当に結婚指輪を買うんだ、ヨングと結婚する事を周囲に公表?本気で僕と……って一瞬だけど色々な事が頭を過って。よし、これからは僕も周囲と戦うために頑張るぞと、覚悟を決めたばかりの所に、ペアリング発言。
 僕は上がって落ちて、空回りし過ぎた感情で僅かに痛む目頭を押さえるため、変装用に掛けていた眼鏡を外した。

「あの、結婚指輪って言ったら、重いかなって思ったんです。 ペアリングだったら大丈夫かもって……」

「ヨングは、スヒョンとだってペアリングしてたでしょ?僕だって、他のメンバーと……」

 だからペアリングに特別な意味なんてない。もっと言えば広告のような、戦略的営業を目的としてお揃いのアクセサリーを身に付けることがあった。
 だから、ペアリングって言われたら、僕の中で全く違う感覚になってしまう。

 勘違いして浮かれていた自分が急に馬鹿みたいに思えてきて、やっぱりヨングとの関係性を考え直さなければならないと思った。
 こんな、僕の方だけが彼を好き過ぎるのは、後々辛い結果になるに決まっているんだ。楽しい旅行のはずが、やっぱりここに行き着くのかというジレンマに、涙が零れそうになった。


「ミンジェ、ごめん!ごめんなさい!ほんとは怖くて!結婚、今は出来ないって言われました。なのに結婚指輪買うって言ったら、なんで?って引かれると思って……。僕はもう、この間のような距離は耐えられない!だから!」

 ヨングの綺麗な形をした手が、僕の手を取って包み込むように強く握った。
 ヨングの目も潤み始めていた。まったく……雨の日に喧嘩なんて嫌だよ。

 僕はヨングの手を振りほどいて、一昨日ヨングが、僕の左手薬指に嵌めた指輪を引き抜こうとした。今ではもう、何の意味も無くなってしまったから。

 でもなかなか外せなくて、その間にヨングが僕の意図に気が付いて。本当に焦ったように僕の肩や腕を擦って宥めてくる。

「ごめん、ごめんなさい……」

 やっと指輪が弛んで、関節までずらしたら。僕の指に、文字が浮かび上がっている事に気がついた。

 その文字は……" あいしてる "  だった。

 はっとして、思わずヨングを見上げた時に、僕の目からずっと堪えていた涙がこぼれた。

「ミンジェ……愛してます」

 ヨングの頬にも涙がこぼれた。



 僕はヨングの何を見ていたのだろう。
 可哀想に、僕の言葉や態度でこんなにも心を震わせて…。

「ヨング、指輪は注文したの?その……名前とか日付とかを入れて?」

「いえ。サイズを伝えて取置きをお願いしていて、ミンジェに見てもらって、気に入ったら決めようと思ってました……」

「わかった。取りあえず、涙、拭ける?お店、入ろう」

「いいんですか?指輪を見てくれるんですか?」

 自分の涙を拭くように言ったのに、ヨングはパーカーの袖口で先に僕の涙を丁寧に拭いた。その後で、自分の顔を雑に拭いている。何度か瞬きをして、長い睫毛にも付いていた涙を馴染ませていた。

 僕は左手薬指の指輪を再び嵌め、手を軽く握ったり開いたりしてみた。

「ヨングごめん。僕、わがままだった」

 多分、ヨングの演出だったのだ。目の前にある素敵なお店に入って、予約してあった結婚指輪を試着するためにこの指輪を外したら、

            " あいしてる " 

 僕が女の子じゃなくても、その場で泣かない自信なんてない。
 そんな優しいサプライズを、僕はすべて台無しにしてしまった。

 そんな風に、僕の事を考えてくれていたのに。
 ペアリングでもいいからと言ったのは、確かにヨングの、本気、なんだ。
 僕を、自分に繋ぎ止めておきたいがための。


 さすがハイブランドで、韓国語も話せるスタッフが、僕たちが男性同士のカップルである事に気がついても、嫌悪感など尾首にも出さず、丁寧に対応してくれた。

 ヨングの選んだ指輪は、本当に結婚指輪だった。スタッフが「おめでとうございます」と言ってくれた。
 祝福の言葉は、この先の未来を考えるとそう何度も聞ける言葉ではない気がした。複雑な心境だけど、素直に嬉しかった。

「あ、りがとうございます……」

 僕は自分の顔が赤くなっていくのが、恥ずかしかった。隣のヨングを見たら、やっぱり顔を赤くしていた。


 綺麗にラッピングされた指輪を受け取って、お店を後にした。




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