黒髪令嬢と百年前の約束

ミカエル

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選考会

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 選考会の当日。私はホテルの宴会場にしつらえられた舞台の袖に立っていた。

 目の前に広がる会場は、もう豪華そのもの。
 天井には巨大なシャンデリアが何基も吊るされ、光の粒が雪のように降り注ぐ。壁は金色の装飾で埋め尽くされ、テーブルにはバラとシャンパンのグラスがこれでもかと並んでいる。

 どこを見ても「これでもか」とばかりに金がかかっていて、圧倒されるというより、むしろ笑えてくる。

「いやいや、これ結婚相手を決めるイベントだよね? なんで舞踏会の再現みたいになってんの」

 毒づいても、胃の痛みはおさまらない。
 候補者は全部で五人。その顔ぶれを思い浮かべると、ため息と一緒にちょっと安心した気持ちがこみ上げた。

 まずは芸能界で今話題の歌姫。テレビに出ればバズり、歌えばランキングトップ。いま最も旬のスターが「候補者枠その1」。
 次に、伝統を背負う日本舞踊の令嬢。立ち姿からしてすでに「本命オーラ」全開。
 さらに、海外でミスワールドに選ばれた超絶美形。最後は天才と名高い博士号持ちの理系女子。

 ……で、私は“名家枠”。けれど実際のところは借金だらけの落ち目九条家。見劣り感、ダントツで一位だ。

「これ、絶対に私だけ噛ませ犬ポジでしょ」

 でも逆に考えれば──こんなすごい人たちが揃ってるなら、私は選ばれっこない。
 そう思ったら少しホッとした。むしろ「はいはい、私は引き立て役でいいです」って気分。選ばれなければ、結婚しなくてすむし、それならそれで助かる。

 内心でそう言い聞かせながらも、背筋だけは条件反射でピンと伸びている。父の“しつけ”の賜物。ほんと無駄に役立つクセだ。

 観客席を覗けば、ドレスやタキシードに身を包んだ人々がグラス片手に笑い、目を輝かせている。「次の花嫁は誰?」と、まるでショーを楽しむみたいに。……いや、私は今にも吐きそうなんですけど?

 スポットライトが動き、司会者が声を張り上げる。

「それではまず最初の候補者をご紹介いたします!──国民的歌姫、如月(きさらぎ)エリカ様!」

 会場がどっと沸いた。
 白いドレスに身を包んだエリカが舞台に登場。余裕の笑みを浮かべ、観客に軽く手を振る。その仕草ひとつで、会場全体の空気が一気に彼女のものになる。

 さらに、曲が始まった。
 今もっとも売れている彼女のバラードの冒頭を、スポットライトを浴びながら歌い出したのだ。
 ──一瞬で会場の雰囲気が変わる。
 圧倒的な歌唱力。たった数小節聞いただけで、みんな息を呑んで、そのままエリカの歌に夢中になっていくのが分かった。

「黒瀬家の未来を支えるのは、この私です。必ず選ばれます」

 歌を終えて放たれたその自信満々の声に、会場がさらに大きくざわめく。

 私は舞台袖で引きつった笑顔を浮かべながら、内心で深いため息をついた。

「……うん、これだけ圧倒されてたら、むしろ安心。私が出ても霞むに決まってるし、選ばれるわけないよね。あーよかった」

 少しホッとしながらも、鼓動は速まっていく。
 なぜなら、次に呼ばれるのは──名家枠、つまり私だからだ。

「やばい、本当に逃げたい」

 でも逃げ場なんて、どこにもなかった。
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