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ブランシェット辺境伯の懺悔
しおりを挟む王都にあるブランシェット辺境伯のタウンハウスは王城近くにあり、王都の一等地にありながらも広大な敷地を有している。
邸内はタウンハウスでありながらも温室や自然豊かな中庭もある。代々落ち着いたシックな調度を好むものが多いためか、私の執務室も数代前から当主に引き継がれてきているが、私の最も落ち着く空間だ。西方から取り寄せたという貴重なローズウッドの1枚板から作られた木目の美しい調度で統一されており紫がかったような飴色はお気に入りの逸品だ。
家令であるセバスが入れた紅茶はいつものように素晴らしい香りと味だ。
ドミニク・ブランシェット辺境伯は吹き付ける冷気に耐えきれず思わず現実逃避をしていた。
いつもは落ち着く空間のはずなのに執務室はブリザードが吹いている。
私の王都での執務室で、妻オリアーナが美しい足を組んでカウチに座りながら紅茶を飲んでいるのだ。
その態度と美しい顔に浮かぶ眉間のシワに機嫌の悪さが如実に表れている。
最愛の娘が馬鹿にされ傷ついているのだ。報復のため
オリアーナが小娘どもの実家にあて取り引きの中止、二度とそちらの茶会及びに開催される夜会には参加しないことを明記した絶縁状を量産していたのを止めた私にも不満があるらしい。
我が家との交易を絶たれたらそれこそ何軒の家が没落することか。元女王であり社交界の頂点に立つオリアーナから絶縁状を叩きつけられたとあれば、とばっちりを貰わないよう他の貴族家も縁を切るだろう。
貴族は社交が行えなければすぐに凋落していく。
あの量ではいったい何軒に送りつけるつもりだったのか。
厄介な妹馬鹿な子どもたちを置いてきたが、もっと大変なものを連れてきてしまった。
最初は舞踏会にエスコートする自分とレイラだけで王都へやってくるつもりだったのだ。
オリアーナは置いていかれることをいつ察知したのか、弟である国王陛下にお願いしてブランシェット家とは個別に招待状を用意していたのだ。
オリアーナのちょっと敵には容赦ない性格を引き継いだ子どもたちは背後から陰険でねちっこく長いスパンで仕返しをするタイプだが
オリジナルであるオリアーナは初撃で首を取りにいく。
それを可能にする身分も権力もある。瞬発力と行動力も伴っていることが恐ろしい。
可愛いレイラを傷つけられ私だって腹は立つが、常識の範囲内での報復に済ませてほしいと肝の冷える思いだ。
ノックと共に現れた娘の侍女から「舞踏会には出ません」と娘が話していると報告を受け、
妻オリアーナが不気味なほど迫力ある微笑みを浮かべながら私の執務室から出て行った。
私も一緒に行こうと伝えるも、食堂まで連れて行くので食堂で大人しくまっていろと言われ、
ドミニク・ブランシェット辺境伯は何もできないもどかしさに檻の中の熊のように食堂を行ったり来たりとうろうろしていた。
デビューのため領地から連れてきた愛娘が来た当初はにこにことしていたがどんどんと元気が無くなっていき、3日前からは部屋から引きこもって出てこなくなってしまった。
レイラの乳母でもあるメイド長の娘マリア以外は部屋に入れず、お茶や軽食しか食べていないようなのだ。
王都でも有名なチーズケーキ店の限定ケーキをお土産に買ってきたが、あのレイラがいらないと。
あのレイラが…!お菓子を食べないなんて!
食堂に降りてこないなんてどうしたらいいんだ。
レイラが令嬢達から体型について馬鹿にされたと手のものから報告は受けている。
王都の令嬢達の異常なまでの外見至上主義は理解していたつもりだったが、ここまでのものだとは思っていなかった。
しかもレイラがここまで傷つく一因の1つに自分自身自覚がある分さらに心苦しい。
この国は様々な神々を信仰しているが、その中でも最も信仰を集めるのが至上神とされる月の女神だ。月の女神は闇より生まれ、夫である太陽神をはじめとする様々な神々を生み出したとされている。
王家は月の女神と太陽神の末裔といわれ、王都は月の女神信仰のお膝元である。
大神殿を有し、多くの月の女神を信仰する教会が各地区ごとにある。
月の光を紡いだような柔らかな白金の髪は腰よりも長く。蒼い瞳は全てを見通す。
折れそうなほど細く、透明感のある白い肢体は美しく、優美だ。
教会には文化財にも指定されているものが多い月の女神の肖像や神話の描かれた宗教画を王都の市民は毎週のミサで、女神が表紙に描かれた聖書でと目にしたことのないものは王都にはいない。
女神の姿が身近にあることで美しい=細くて繊細な美人という美観に染まってしまっている。
さらに、王族で月の女神によく似ていると言われるオリアーナが流行の最先端であり、王都の女性の憧れであるのだ。
オリアーナが広めたならどんなデザインでも流行るだろう。それは分かっていたのに。レイラのためを思ったら柔らかな体の女性にも似合うデザインのドレスをオリアーナに流行らせてもらっていたら。
そう思うがちょっとばかり怒ると怖いところはあるが、愛情深くて凛々しく、かっこいい女性である最愛の妻の最高に美しい姿が見たいという欲望に負け、オリアーナに最高に似合うものを、とつい生地を探し、仕立てさせてしまう。
デザインもスラリと美しいエンパイアタイプのものがどうしても多くなってしまうため、王都の流行はオリアーナに似合う細身のデザインばかりになってしまったのだ。
それに慈悲深い月の女神は自分を讃えるものには加護を与えてくれる。
この環境のせいで王都は鶏ガラボディの女性ばかりとなり、そこから外れるものは不美人扱いを受けるようになっていた。
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