婚活サービス会社で出会った妻・・・じつはその経営者は兄でした

鏡恭二

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地獄の2重生活.....学は何も知らない.......

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   幸樹は学の2つ上の兄だ。
40代にしてすでに会社を辞め、実家を飛び出していた。
会社勤めは3年で限界を迎え、そこから先は株にすべてを賭けた。

それでも、生活は苦しかった。
貯金は底をつき、カードの支払いに追われる日々。
明日の食事すらままならず、夜はカップラーメンをすすりながら虚空を見つめていた。

「もう、お金……ないや。株、売ろうかな……」

そのときだった。
テレビがニュース速報を告げた。

「イクモテクノグループが、世界最小の半導体の開発に成功。
これにより、大手携帯会社が技術供与に名乗りを上げ、株価は急騰……」

幸樹は一瞬、画面と言葉が結びつかず固まった。
慌ててスマホの証券アプリを開く。
10万円だった持ち株が……10億円になっていた。

「……うそ、だろ……」

カップラーメンの湯気の向こうで、数字が霞む。
口に入れた麺の味も、もうわからなかった。
その時、別のニュースが流れる。

「日本の少子化が深刻化。出生率は1を下回り、政府と民間は婚活サービスの充実に注力……」

ピンポーン。インターホンが鳴った。

ドアを開けると、そこにいたのは——
澤本まどか💛だった。

まどか💛とは会社で出会った。
彼女は社内でも評判の美人で、対して幸樹は全く使えない男として有名だった。

誰からも相手にされない。
けれど幸樹は、そんな彼女に不器用なほど真っ直ぐに情熱をぶつけた。

最初は軽くあしらわれていた。
けれどある日、ベンダールームで缶コーヒーをすする幸樹の背中に、まどかの心が揺れた。

「……大丈夫?」

「この仕事、もう辞めたんだ。誰にも認められなかった……」
涙混じりに笑い、紙コップを握りしめる幸樹の姿に、まどかの胸が熱くなる。

「私が、あなたを支えてあげる」

「……え?」

「一緒に暮らしましょ? 私のことも、支えてくれる?」

突然の告白に戸惑いながらも、幸樹は静かにうなずいた。
誰かに必要とされた気がした。初めて。

無人の給湯室で、ふたりはそっと唇を重ねた。

——それから、ふたりは一緒に暮らし始めた。
そしてあのニュースの夜、幸樹は決意する。

「まどか💛、俺……起業するわ」

「えっ!? いきなり……何の会社を?」

「婚活サービス会社だ。名前は……“オレンジ”。手伝ってくれないか?」

数年後。
六本木ヒルズの最上階。
幸樹はワイングラスを揺らしながら夜景を眺めていた。

「……いい眺めだな」

隣で、まどか💛がグラスに赤ワインを注ぎ足す。

「ほんとに、綺麗ね💛」

「今日の分だ」
幸樹が札束の入った封筒を手渡す。

「いつもありがとう💛」
ウィンクひとつ、まどか💛はそれを受け取り、小さく笑った。

「ママー、早くいこーよ!」
5歳の男の子・幸次が袖を引っ張る。

「ちょっと待っててね、幸次💛」

そして次の瞬間、まどか💛は幸樹に抱きつき、そっと唇を重ねた。

「……おい、それはダメだって……」

それでも離れず、まどか💛は言った。

「いってくるね」

「……ああ。また1ヶ月、頑張れよ」

彼女の背中を見送りながら、幸樹は再び、静かに夜景を眺めた。

同じ夜。
弟・学は、会社から帰宅していた。

「また靴、脱ぎっぱなし……」
小さくため息をつきながら、玄関で靴を揃える。

(……まだ帰ってきてないのか)

家事は基本的にまどか💛任せ。
部屋着に着替え、ソファでテレビを見ていたとき、インターホンが鳴った。

モニターに映ったのは——
まどか💛だった。

「保育園終わって、幸次迎えに行ったとこ。開けてくれる?」

オートロックを解除し、扉を開ける。

「ただいまー」
「おかえりー」

幸次が走ってくる。

「保育園楽しかったか?」

「うん! 恐竜をね、紙で作ったんだよ!」

「そうか。えらいな」
頭をなでる学の横顔を、まどか💛は無言で見つめていた。

「ご飯は?」
学の口調は、もはや名前すら呼ばない無関心のような響き。

まどか💛はその言葉にカチンと来ながらも、営業スマイルで返す。

「今から作るわ。今日は、アスパラを添えたたらこスパゲティと、サラダね💛」

学はその笑顔が好きだった。
幸次とリビングで遊ぶふたりを横目に、まどか💛はキッチンへ。

包丁の刃に、ふと映る自分の顔。
そして心の中に浮かぶ——

(……幸樹さん)

その手で玉ねぎを切りながら、まどか💛は何も知らない学と子供の声を、背中で聞いていた。

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