婚活サービス会社で出会った妻・・・じつはその経営者は兄でした

鏡恭二

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学が掴んだ蜘蛛の糸 ―その先は地獄―

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  豊島学は、会社から長期休暇をもらい、実家へ帰省した。

「ただいまー」
玄関の扉を開けると、母と父が出迎えてくれた。

「おかえり、学。さぁさ、もう料理できてるから、ちょっと準備手伝ってくれる?」

豊島家の母は料理上手で、帰省すればいつも手作り料理でもてなしてくれる。
だが、今ではもう60を過ぎ、以前のようには動けなくなっていた。
本来ならもてなされる立場のはずだが、学は黙って手伝う。

「はいはい、わかった。やるから、ちょっと待ってて」

食卓の準備を済ませ、料理が並ぶ。家族三人での夕食が始まった。
そして、食事と同時に始まる“あの話”。

「学、最近は彼女とどうなの?」
——お決まりのフレーズ。

(またか……)
ウンザリしながらも、学は表情に出さず笑顔を作る。

「最近、別れちゃってさ。なかなか、いい人って見つからないもんだね」

ワインで顔を赤らめた母は、機嫌よく語り始める。

「学って、いつも“同棲まではいくけど、うまくいかなくなる”でしょ?
やっぱり決め手がないのよ。“結婚しよう”って思わせる何かが。
前の彼女も言ってたでしょ? “表面はいいけど、中身に深みがない”って。
情熱みたいなものが足りないのよ、“私じゃなきゃダメだ”っていう勢いとかさ」

——また、“情熱”。

その言葉に、心の奥がチクリと痛む。
母の説教じみた言い方にイラッとしながらも、何も言い返さず、学はただ一言。

「……そうなのかなぁ」

(もう慣れてる。心を潰されるのは、会社だけじゃない)

ワインを片手に、母はさらに話を続ける。

「それにしても、幸樹はどこに行っちゃったんだか……」
「……兄貴、帰ってきてないの?」
「全然。会社辞めてから音信不通よ。でも……なんか“彼女できた”とか、“会社始めた”とか、そんな話は聞いたわね」

「……彼女?」
思わず、言葉が漏れる。

(あの空回りするだけの兄貴に?)
少し、苛立ち混じりの嫉妬がこみ上げた。

「へぇ……会社か。うまくいくといいね」

口ではそう言いながら、料理の味は、まるでしなかった。

帰り道。
学は、ひとり暮らしの部屋に戻る。

静かな部屋。
兄に“彼女ができた”という事実。
母の言葉に突き刺さった「情熱」という単語。

それらが頭の中でグルグルと回り続ける。

「……結婚かぁ」
ソファに座り、無意識にリモコンを取ってテレビをつける。

「政府は少子化対策として、婚活支援事業に力を注いでいます……」

チャンネルの先で流れていたのは、婚活成功夫婦のインタビュー。

夫「婚活で出会ったんです。就活と同じで、結婚も動かなきゃ始まらないですよね。
家庭を持ってからは、仕事への情熱も変わりましたよ」

妻「私も、きっかけは婚活だけど……出会えてよかった。
今は子供もいて、二人目ももうすぐなんですよ」

思わず、学は画面を見つめたまま固まった。

(動かなきゃ、ダメか……)

スマホを手に取り、検索を始める。

「婚活 おすすめ AIサポート」
様々な婚活サービスの中で、ひときわ目を引く名前があった。

『オレンジ』——
“結婚後も安心の未来を。AI『千鶴』が、あなたと相手の生活をフルサポート。”

(AIが……サポートしてくれるなら、俺にもできるかもしれない)

ログインID、パスワード。
名前、生年月日、年収400万円……
必要項目を次々と入力していく。

最後に、画面の右上に小さく表示された社名が、ふと視界に入った。

婚活サービス会社「オレンジ」

そのとき学は、まだ知らなかった。
自らが地獄の入り口に足を踏み入れたことを——。
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