婚活サービス会社で出会った妻・・・じつはその経営者は兄でした

鏡恭二

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スマホの奥の天使は兄の罠だった

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  豊島学は、すべてのプロフィール項目を入力し終えた。
年齢、年収、趣味、長所、短所、結婚を意識した理由……
履歴書のような質問に黙々と答える作業は、まるで自己分析セミナーのようだった。

そして、画面に現れたのは、可愛らしい2.5次元風のキャラクター——
AIサポート・千鶴。

「登録ありがとう。ここからいくつか質問するから、答えてね💛」

アニメのヒロインを意識したようなビジュアル。
だが、スマホ越しに画面いっぱいに映る彼女の笑顔は、どこか**“空虚で滑稽”**に感じた。

(……結構時間かかるな)

ようやく最後の質問が終わると、千鶴はにっこり笑って、画面上で一回転する。

「回答、お疲れさまでした💛 あなたにぴったりの相手、マッチング中です!」

(まぁ、どうせ写真は盛ってるしな。メイクでいくらでも……)

そう思いながらも、スクロールする指が止まった。

——画面に映った、一人の女性。
長い髪、ぱっちりとした猫目、整った輪郭に自然な笑顔。
そして、画面越しにも分かるバランスのとれたスタイル。

学は、その写真に息を呑んだ。

「……この子……いい……」

名前の欄には、島崎まどか。
それだけで、学の心は揺れていた。

「ただいま……」
現実に戻ると、学は無意識に妄想へと引き込まれていた。

「おかえりなさい、学さん💛」

白いブラウスの隙間、くびれた腰、太もも……
「ごくっ」
——そんな想像に耽っていた自分に、ふと気づく。

スマホの中の写真、ただそれだけで。
だが学は、すでに**“なにかに引っかかった”**ことを感じていた。

「趣味・料理、家事も得意……完璧すぎるだろ」

惹かれたまま、彼は初メッセージを送信した。

「こんにちは、はじめまして。豊島学と申します。
趣味は筋トレで、休日はジムで体を鍛えています。
仕事は家電メーカーで、現在は自社製品の掃除機の営業を担当しています。
前向きな出会いになれば嬉しいです。よろしくお願いします。」

打ち終えたメッセージは、まるで業務報告のように無機質だった。
本人は気づかない。そこには、“情熱”がなかった。

返信を待っている間に、学は食事を買いに外へ出る。

夜道にぽつんと佇む、白い一軒家。
生活感のある建物の前に、小さなプレートが掛かっている。

「株式会社オレンジ」

——婚活サービス「オレンジ」の本社である。
資本金10億円。自宅兼オフィスとして運営され、まどか💛と幸樹が共に暮らしていた。

最初はふたりで地道にマッチング業務を行っていたが、手作業には限界がある。
そこで幸樹が導入を決めたのが、AIマッチングシステムだった。
AI千鶴の導入後、成婚率も業務効率も向上。
現在、六本木ヒルズには“支社兼モデルルーム”も設置している。

「よし、終わった」
幸樹はパソコンを閉じ、背伸びをする。

「お疲れさま。ご飯、できたわよ」
まどか💛が、鍋いっぱいのシチューを持って現れる。

「ありがとう。……うん、美味しい」
「近所のお肉屋さんで、いいお肉が安かったのよ」

何気ない会話が、何よりの癒しだった。
幸樹にとって、“母の食卓”はいつも戦場のようだった。

「こぼさないで食べなさい!」
「残すなんて失礼でしょ!」
「ちゃんと感謝しなさい、“ありがとう”くらい言えないの?」

(……まどかは、違う)

「大丈夫?」
目の前で心配そうに見つめてくれる、まどか💛の存在が、何よりの救いだった。

「うん、幸せだなって思っただけだよ」

まどか💛はそっと微笑み、肩にもたれかかってきた。
ふたりは静かに、キスを交わす。

「……シチューの味がするね」
「ふふ、当たり前よ💛」

——パソコンの画面が一度明るくなる。

新着:婚活申込者「豊島 学」

高校時代——
弟・学は、人気者だった。
彼女・さゆみと楽しそうに歩く姿。
自分は、挨拶すらうまくできなかった。

「なんか、お兄さんって変わってるよね」
「そんなこと言うなよ、人の兄貴に……」

何気ない会話。
だが、それが幸樹にとっては人生に刻まれる恥辱だった。

——その時から、忘れていなかった。

「オレは、絶対に忘れねぇからな」

「……まどか、ちょっと頼めるか?」

「誰? この人……」
まどか💛は学のプロフィールを見て、首を傾げる。

「この人……魂が抜けたみたいな顔してるし、何が何でも結婚したいって熱もない。
行きたくないわよ、こんな人のとこ……」

「……頼む」
幸樹は静かに立ち上がり、窓の外を見ながら呟いた。

「……弟なんだ。そいつ」

無表情の横顔。
だが、そこからは抑えきれない憎悪がにじみ出ていた。

まどか💛は、その気配に飲まれそうになる。

(この人……こんなにも……)

「……わかったわ。私、行く」

——そうして、まどか💛の地獄への潜入が始まった。
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