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渉はベッドからゆっくりと体を起こした。
(……なんだか、頭が痛いな)
体はだるく、食欲もなかった。
心配そうに母が声をかけてくる。
「大丈夫?」
「……ちょっと風邪かも。体温計ある?」
母が差し出した体温計を確認すると、38.5℃。
「やっぱり熱あるみたい……」
「じゃあ、一緒に病院行きましょう」
母の運転で向かった先は、船山記念病院。
待合室で椅子に座りながら順番を待っていたその時――
ふと視界の端に、ひときわ目を引く女性がいた。
ロングヘアー。猫のような澄んだ目。
透き通るような肌。凛とした雰囲気。
パンツ姿からも伝わる、完璧な脚線美――
(……なんだ、この人……)
ただそこにいるだけで空気が変わるような存在感。
渉は、風邪のつらさすら忘れてその女性を見つめていた。
「吉川渉さーん」
名前を呼ばれても気づかない。
「吉川渉さーん!!」
ようやく母に腕を引かれ、ハッと我に返った。
「ちょっと!渉!!」
「……あ、ごめん」
完全に見惚れていた自覚があった。
診察室では、医師の声もどこか上の空だった。
「風邪ですね、薬出しておきますね」
それだけ聞いて、また待合室へ戻る。
さっきの女性は、まだそこにいた。
よく見ると、彼女の隣には車椅子に座った女性がいた。
「香月さつきさーん」
受付の声に応じて、彼女が静かに立ち上がる。
その立ち姿すら、まるで何かの舞台のワンシーンのようだった。
「娘さんの、まどか💛さんですか?」
「はい、そうです」
(……香月、まどか……)
渉はその名前を、心の奥深くに焼き付けた。
やがて受付から再び声がかかる。
「吉川渉さーん、会計へどうぞ」
会計を終え、外に出たところで――
「渉~~っ!!」
突然、誰かに飛びつかれた。
「うわっ、好美!?」
「もう、心配したんだからね!」
母は微笑ましく笑っている。
「ふふ、いいわね、こんなに心配してくれる彼女がいて」
「ちょっと母さん……」
そのとき、自動ドアが開いた。
静かに現れたのは――
車椅子を押す、あの猫のような目の美しい女性。
(……香月、まどか……)
渉の視線は、吸い寄せられるように彼女を追った。
どこか遠くを見ているまどか💛の瞳には、
言葉にできない哀しみの色が浮かんでいた。
「……ちょっと、渉!!」
「えっ!?」
「今、誰見てたの?さてはあの美人の子でしょ~?」
「ち、ちがうよっ!!」
好美はむくれていたが、渉の目は――
もう一度、病院から去っていくまどか💛を追っていた。
(あの人は……香月まどか💛って言うんだ)
名前だけが、頭の中で何度も繰り返された。
それはまるで、風邪と一緒に恋の熱ももらってきたようだった。
(……なんだか、頭が痛いな)
体はだるく、食欲もなかった。
心配そうに母が声をかけてくる。
「大丈夫?」
「……ちょっと風邪かも。体温計ある?」
母が差し出した体温計を確認すると、38.5℃。
「やっぱり熱あるみたい……」
「じゃあ、一緒に病院行きましょう」
母の運転で向かった先は、船山記念病院。
待合室で椅子に座りながら順番を待っていたその時――
ふと視界の端に、ひときわ目を引く女性がいた。
ロングヘアー。猫のような澄んだ目。
透き通るような肌。凛とした雰囲気。
パンツ姿からも伝わる、完璧な脚線美――
(……なんだ、この人……)
ただそこにいるだけで空気が変わるような存在感。
渉は、風邪のつらさすら忘れてその女性を見つめていた。
「吉川渉さーん」
名前を呼ばれても気づかない。
「吉川渉さーん!!」
ようやく母に腕を引かれ、ハッと我に返った。
「ちょっと!渉!!」
「……あ、ごめん」
完全に見惚れていた自覚があった。
診察室では、医師の声もどこか上の空だった。
「風邪ですね、薬出しておきますね」
それだけ聞いて、また待合室へ戻る。
さっきの女性は、まだそこにいた。
よく見ると、彼女の隣には車椅子に座った女性がいた。
「香月さつきさーん」
受付の声に応じて、彼女が静かに立ち上がる。
その立ち姿すら、まるで何かの舞台のワンシーンのようだった。
「娘さんの、まどか💛さんですか?」
「はい、そうです」
(……香月、まどか……)
渉はその名前を、心の奥深くに焼き付けた。
やがて受付から再び声がかかる。
「吉川渉さーん、会計へどうぞ」
会計を終え、外に出たところで――
「渉~~っ!!」
突然、誰かに飛びつかれた。
「うわっ、好美!?」
「もう、心配したんだからね!」
母は微笑ましく笑っている。
「ふふ、いいわね、こんなに心配してくれる彼女がいて」
「ちょっと母さん……」
そのとき、自動ドアが開いた。
静かに現れたのは――
車椅子を押す、あの猫のような目の美しい女性。
(……香月、まどか……)
渉の視線は、吸い寄せられるように彼女を追った。
どこか遠くを見ているまどか💛の瞳には、
言葉にできない哀しみの色が浮かんでいた。
「……ちょっと、渉!!」
「えっ!?」
「今、誰見てたの?さてはあの美人の子でしょ~?」
「ち、ちがうよっ!!」
好美はむくれていたが、渉の目は――
もう一度、病院から去っていくまどか💛を追っていた。
(あの人は……香月まどか💛って言うんだ)
名前だけが、頭の中で何度も繰り返された。
それはまるで、風邪と一緒に恋の熱ももらってきたようだった。
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