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愛されたい男
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季節はどんどん巡っていくもの。自分の中でどれだけ時が止まっていたとしても時間が止まるということを知らずに進んで行く。それは例え、両親を失ったとしても時は進む。立ち止まっていたとしても年は取るし、季節は移り変わる。
僕は今年から埼玉の大学に進学する。元々実家は埼玉なのでどこかに引っ越す必要もなかった、いや、その説明よりも車やバスや電車で通える範囲の大学にしようと選んで受験をしたんだけどね。だって僕が実家を離れたら実家に住む人がいなくなってしまうから。
そしたらここは空き家で掃除をする人もいなければ周りに住んでいる人たちに迷惑を掛けてしまうことになる。
「じゃあ…いってきます」
僕はいつものように玄関の扉を開ける前に小さな声で言ってから家を出る。
入学式ということだけあって大学に着くとそこには入学するであろう人たちとその親であろう人たちが入口の前にいた。僕は一瞬だけ見てすぐに視線を外して大学の中へと入って行った。
それから入学式が始まるとあっという間だった。別にうたた寝をしていたわけではないんだけど、気付いた時にはアナウンスで入学生は退場してくださいという声が聞こえてきた。
少し説明を聞いてすぐに解散だった。周りの人たちは親と話したり、もう新しい友人を見つけようと話し掛けている人たちなど色々。だが、僕は迷うことなく帰路に付くことにした。残る理由もないし、ここに残ったところで意味はない。
すると後ろから誰かに肩を叩かれた。
「ねぇ、ねぇ」
「なんですか?」
話し掛けてきたのは金色の髪に整った顔立ちをしているような女子。前髪が長く片方の目が隠れてしまうような感じだ。服装もかなり乱れていてネイルなども見た感じは派手なところを見ると高校生の頃に女子たちの中で一番権力を持っていた子のような感じがする。
「キミってイケメンだよね」
「そうですか?」
「うん!ちょっと私と話さない?」
「いいよ」
そして僕と金髪の女子は近くのコンピニで買い物をして公園のベンチで話すことになった。僕はコンビニで飲み物ぐらいしか買わなかった。
彼女はパンを夢中で食べている。隣に座っている僕のことは眼中にないような感じ。こんな風に食べ物を夢中に食べている人を久しぶりに見た。最近は食事を食べていても『美味しい』と思えないようになってしまった僕とは違ってこの女子は美味しそうに食べている。
「美味しそうに食べるね」
「だって美味しいもん!」
そう答えた彼女は満面の笑みを浮かべていた。その笑顔は嘘を言っているようには見えず、本心から口にしているんだろう。
僕は彼女がパンを食べ終わるまでずっと彼女を見ていた。さすがに居心地悪かったのか最後の方は急いで食べていた。
「そ、そんなに見られるとちょっと恥ずかしいんだけど」
「ごめん。キミがあんまりにも美味しそうに食べるもんだから」
自分にないものを持っている人はやっぱり興味がある。自分にはあんな満面の笑みを浮かべながら食事をすることは不可能だ。だってそう感じられないから。
「そうかな?普通に食べているだけだよ」
「それがすごいんですよ。僕はあんまり食事を取りません。それにあんまり食事を美味しいとは思えませんし」
僕が正直に言うと彼女は僕の言っていることを理解できていないようで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
「どういうこと?」
「簡単に言えば、どんな食べ物を食べても美味しいとは感じないってことですかね」
「だ、だいじょうぶ!?」
「うん。もう慣れたよ。それに食事はただの栄養補給だから。それ以上でもそれ以下でもない」
両親が生きていた頃は食事をする時も家族団らんとしていて好きだった。だが今の僕は家に帰っても一人で食事をするだけで別に楽しいとも美味しいとも感じない。
それから僕と彼女は少しの間話して…僕の家で一晩と泊まってヤッた。
自分でも本当に自分という人間が嫌になるが、僕は彼女のことを愛していないのに抱いたのだ。
だが、彼女は僕のことを好いてくれているようで僕のことを『好き』や『愛している』と口にしてくれる。会って数時間の奴にそんなことを言うような人間の言葉の『愛している』にそこまでの重みがないのは分かっているが、それでも僕の心を落ち着かせるのには十分だった。
僕は誰かに『愛されたい』。
愛に飢えている。
両親は僕に惜しみない愛情をくれたがその愛を与えてくれた人が死んでから…僕は誰かに愛されたいという欲が自分の中で強まっていった。
だから、女性と付き合うことでそれを補うことにした。顔だけは整っていることもあって女性と付き合うことはそれほど難しくなかった。
だけど一度たりとも相手のことを愛することは出来なかった。相手は自分のことを好きだとか愛していると口にしてくれているのにね。だから僕は自分で嘘だと分かっていながら自分の気持ちを偽って「愛している」とか「世界で一番キミのことが好きだよ」とか言った。そうしていれば偽りでも喜んでくれるから。
寝付けず気付いたらカーテンから太陽の光が漏れ出ていた。
近くの時計を確認すると地獄は午前6時30分を指していた。大学はないがここで寝ようとしても寝れそうにない。
そんな僕とは正反対で隣の彼女は可愛い寝息を立てながら寝ている。
「よく眠れたかい?」
「…うぅ…ん」
「それならよかった」
目をこすりながら起き上って来る彼女を見ると…少し辛い気分になる。
僕は彼女のことを何も知らない。彼女がどこに住んでいるのかさえも知らなければ、どこ出身かさえも、どんな食べ物が好きなのか、どんな色が好きなのかも知らない。僕は彼女のことを本当に何も知らないのに抱いた。
自分の欲望を満たすためだけに彼女を利用してしまったことに罪悪感を覚えつつも、自分はこれからもこういうことをしていくんだと思う。
誰かに『愛している』と言われるために生きる。
「今日は大学もないし、起きなくて大丈夫だよ。昨日は遅かったしもう少し寝てて。朝食を作り終わったら呼ぶから」
「う…ん……」
そして彼女は二度寝へ。そんな彼女を確認して僕は朝食づくりへとうつる。
これが僕こと山崎愛音 と賣井坂花織が初めて寝た日。
僕は今年から埼玉の大学に進学する。元々実家は埼玉なのでどこかに引っ越す必要もなかった、いや、その説明よりも車やバスや電車で通える範囲の大学にしようと選んで受験をしたんだけどね。だって僕が実家を離れたら実家に住む人がいなくなってしまうから。
そしたらここは空き家で掃除をする人もいなければ周りに住んでいる人たちに迷惑を掛けてしまうことになる。
「じゃあ…いってきます」
僕はいつものように玄関の扉を開ける前に小さな声で言ってから家を出る。
入学式ということだけあって大学に着くとそこには入学するであろう人たちとその親であろう人たちが入口の前にいた。僕は一瞬だけ見てすぐに視線を外して大学の中へと入って行った。
それから入学式が始まるとあっという間だった。別にうたた寝をしていたわけではないんだけど、気付いた時にはアナウンスで入学生は退場してくださいという声が聞こえてきた。
少し説明を聞いてすぐに解散だった。周りの人たちは親と話したり、もう新しい友人を見つけようと話し掛けている人たちなど色々。だが、僕は迷うことなく帰路に付くことにした。残る理由もないし、ここに残ったところで意味はない。
すると後ろから誰かに肩を叩かれた。
「ねぇ、ねぇ」
「なんですか?」
話し掛けてきたのは金色の髪に整った顔立ちをしているような女子。前髪が長く片方の目が隠れてしまうような感じだ。服装もかなり乱れていてネイルなども見た感じは派手なところを見ると高校生の頃に女子たちの中で一番権力を持っていた子のような感じがする。
「キミってイケメンだよね」
「そうですか?」
「うん!ちょっと私と話さない?」
「いいよ」
そして僕と金髪の女子は近くのコンピニで買い物をして公園のベンチで話すことになった。僕はコンビニで飲み物ぐらいしか買わなかった。
彼女はパンを夢中で食べている。隣に座っている僕のことは眼中にないような感じ。こんな風に食べ物を夢中に食べている人を久しぶりに見た。最近は食事を食べていても『美味しい』と思えないようになってしまった僕とは違ってこの女子は美味しそうに食べている。
「美味しそうに食べるね」
「だって美味しいもん!」
そう答えた彼女は満面の笑みを浮かべていた。その笑顔は嘘を言っているようには見えず、本心から口にしているんだろう。
僕は彼女がパンを食べ終わるまでずっと彼女を見ていた。さすがに居心地悪かったのか最後の方は急いで食べていた。
「そ、そんなに見られるとちょっと恥ずかしいんだけど」
「ごめん。キミがあんまりにも美味しそうに食べるもんだから」
自分にないものを持っている人はやっぱり興味がある。自分にはあんな満面の笑みを浮かべながら食事をすることは不可能だ。だってそう感じられないから。
「そうかな?普通に食べているだけだよ」
「それがすごいんですよ。僕はあんまり食事を取りません。それにあんまり食事を美味しいとは思えませんし」
僕が正直に言うと彼女は僕の言っていることを理解できていないようで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
「どういうこと?」
「簡単に言えば、どんな食べ物を食べても美味しいとは感じないってことですかね」
「だ、だいじょうぶ!?」
「うん。もう慣れたよ。それに食事はただの栄養補給だから。それ以上でもそれ以下でもない」
両親が生きていた頃は食事をする時も家族団らんとしていて好きだった。だが今の僕は家に帰っても一人で食事をするだけで別に楽しいとも美味しいとも感じない。
それから僕と彼女は少しの間話して…僕の家で一晩と泊まってヤッた。
自分でも本当に自分という人間が嫌になるが、僕は彼女のことを愛していないのに抱いたのだ。
だが、彼女は僕のことを好いてくれているようで僕のことを『好き』や『愛している』と口にしてくれる。会って数時間の奴にそんなことを言うような人間の言葉の『愛している』にそこまでの重みがないのは分かっているが、それでも僕の心を落ち着かせるのには十分だった。
僕は誰かに『愛されたい』。
愛に飢えている。
両親は僕に惜しみない愛情をくれたがその愛を与えてくれた人が死んでから…僕は誰かに愛されたいという欲が自分の中で強まっていった。
だから、女性と付き合うことでそれを補うことにした。顔だけは整っていることもあって女性と付き合うことはそれほど難しくなかった。
だけど一度たりとも相手のことを愛することは出来なかった。相手は自分のことを好きだとか愛していると口にしてくれているのにね。だから僕は自分で嘘だと分かっていながら自分の気持ちを偽って「愛している」とか「世界で一番キミのことが好きだよ」とか言った。そうしていれば偽りでも喜んでくれるから。
寝付けず気付いたらカーテンから太陽の光が漏れ出ていた。
近くの時計を確認すると地獄は午前6時30分を指していた。大学はないがここで寝ようとしても寝れそうにない。
そんな僕とは正反対で隣の彼女は可愛い寝息を立てながら寝ている。
「よく眠れたかい?」
「…うぅ…ん」
「それならよかった」
目をこすりながら起き上って来る彼女を見ると…少し辛い気分になる。
僕は彼女のことを何も知らない。彼女がどこに住んでいるのかさえも知らなければ、どこ出身かさえも、どんな食べ物が好きなのか、どんな色が好きなのかも知らない。僕は彼女のことを本当に何も知らないのに抱いた。
自分の欲望を満たすためだけに彼女を利用してしまったことに罪悪感を覚えつつも、自分はこれからもこういうことをしていくんだと思う。
誰かに『愛している』と言われるために生きる。
「今日は大学もないし、起きなくて大丈夫だよ。昨日は遅かったしもう少し寝てて。朝食を作り終わったら呼ぶから」
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