11 / 20
回想録11
しおりを挟む
噴水に腰をかけ、一息つきます。パイプでも…と思ったら持ち合わせておりませんでした。
「はぁ…。」パイプの代わりに、ため息が1つこぼれます。
私をここに泊まらせてくれた、ということは侯爵閣下からしたらただのマナーの1つなのかも知れません。
少なくとも気にいられてはないでしょう。
美しい庭を堪能する余裕もなく、気持ちがどんどん落ち込んでいきます。
パイプでも取りにまた部屋へ戻ろうか…と思った時です。
「…あれ?そこにいるのは誰かな?」
不意に掛けられた声に私は振り返りました。
淡い色のネグリジェに白いショールを羽織った少女が、月明かりの中に立っていました。
――いいえ、少女ではありません。
恋しくてたまらなかった一人の女性。
「マ……マルグリット嬢…?」
カツラを被っていない彼女のプラチナブロンドの髪は夏風に吹かれ、満月の美しい光に照らされています。初めてお会いした時も洗練された美しい方だと思いましたが、化粧も豪華なドレスも宝石も身につけてないその姿は噴水に佇むレウコテアーそのものでした。
「…その声、ダントン?
あれ、どうしてここにいるの?」
お互い飾り気の無い姿でしたが、恥ずかしい気持ちもやましい気持ちもありませんでした。
「あぁ、私は侯爵閣下に呼ばれて…それで食事をして、泊まるように言われたのです。」
「あー、それじゃあ今夜の晩餐会の相手はキミだったのか。」
マルグリット嬢は私が来ることは知らなかった様です。妻や娘に晩餐会の相手を言わないことは良くあることです。
「マルグリット嬢は…そのどうしてここに…?」
「ふふ…面白い事言うね。ここ私の家だよ?夜は庭を散歩するのが日課なんだ。」
「座ろっか。」とマルグリット嬢に言われ、二人で噴水の縁に座りました。
「久しぶりだね。3ヶ月振りー…かな?」
話を始めたのはマルグリット嬢でした。
「えぇ、そのぐらいだと思います。」
「あはは。時間て経つのが早いね。」
私にとって無情に流れた時間は彼女にとっては早かったようです。
足をブラブラとする行為は、年齢通りの少女でした。
「社交界に出るのが億劫でね、ちょっと疲れてたんだ。」
彼女は続けます。
「ダントン、キミも嫌いだろ?」
「えぇ……私も。」嫌いでした。
義姉から逃げるための社交界でした。しかしそれはいつしか、マルグリット嬢と会うための社交界になりました。
「父も社交界が嫌いでね。…それでも娘の婚活に力を入れないわけにもいかないだろう?
娘から、社交界で知り合った男性の話を聞いた父が、ここ最近頑張ってくれてたんだ。
……聞いた男の名前、全員の人と食事をするって事をね。」
少々ゲッソリした顔したマルグリット嬢。侯爵閣下の隈が酷かったのは、毎晩晩餐会を開いていたからかもしれません。
「考えられないでしょ?」
やはり、彼女は見た目こそ大人びておりますが、父親の行動に異を唱える少女でした。
「だから、ちょっと嫌がらせしようと思ったんだ。」
「と、言うと?」
「確認なんだけども、父は今日の食事は何か話したかい?どんな様子だった?」
「い、いえ、特には。むしろ夢中だったのか…食事も早かったです。」
「じゃあ成功だ。」
「…マルグリット嬢、それは一体どういう意味で…?」
「父はね、あの体型だけども、食べる事が好きなんだ。特に美味しいと無言で早食いになるんだ。」
「えぇ。」
「今日の肉料理、あれに細工したんだ。キミは気づいたかな?」
マルグリット嬢はだんだんと含み笑いを浮かべ、目を細めます。
よっぽど嫌がらせが成功したのでしょう。
「今日の晩餐会、大豆を使ったんだ。キミは気づいたかい?」
「……………………。
え?」
正直申しますと、豆料理は庶民的な食材です。
それも、まず晩餐会には並びません。
それを侯爵閣下である父君に彼女は仕込んだのです。
あの時の食事の食感で違和感を覚えたのは大豆だったのです。
「ふふ、キミは気づいた?」
「………とても美味しかったです。」
知ってたとも知らなかったとも言えません。ありのままの感想を伝えるだけです。
「あの…どうやってやったのかだけ、教えていただいても?」
「シェフにだけど?」
「いえ、そういう事ではなく…その…。」
「あぁ、どこで知ったのかて事かい?」
そうです。私はそれが知りたいのです。
「随分前にね、他の領地から逃げ出した平民が来たんだ。
助ける代わりに、彼らから話を色々聞きたくてね。普段なにを食べてるのかとか、どうやって逃げてきたのかとか。
それで豆を潰して食べると肉のようになるって聞いたんだ。」
「信じられないでしょ?豆が肉になるなんて。本当にそうなのか、シェフに頼んで作らせたんだ。今日の晩餐会に出すのはちょっと泣きそうだったけどね。」
それはとても興味深い話でした。
私の知る限り、平民が肉料理にありつける機会はそう多くはありません。
税の重い領地であれば尚更です。逃げ出す領民も珍しくはありません…。
彼女は見返りを平民に求め、それを実践したのです。
「まさか今夜の晩餐会の相手がキミだったのは想定外だったけど、むしろ良かった。これが口の軽い人ならすぐバレてたと思う。」
やはり彼女の笑顔は悪魔――いや、魔女なのかもしれません。
「はぁ…。」パイプの代わりに、ため息が1つこぼれます。
私をここに泊まらせてくれた、ということは侯爵閣下からしたらただのマナーの1つなのかも知れません。
少なくとも気にいられてはないでしょう。
美しい庭を堪能する余裕もなく、気持ちがどんどん落ち込んでいきます。
パイプでも取りにまた部屋へ戻ろうか…と思った時です。
「…あれ?そこにいるのは誰かな?」
不意に掛けられた声に私は振り返りました。
淡い色のネグリジェに白いショールを羽織った少女が、月明かりの中に立っていました。
――いいえ、少女ではありません。
恋しくてたまらなかった一人の女性。
「マ……マルグリット嬢…?」
カツラを被っていない彼女のプラチナブロンドの髪は夏風に吹かれ、満月の美しい光に照らされています。初めてお会いした時も洗練された美しい方だと思いましたが、化粧も豪華なドレスも宝石も身につけてないその姿は噴水に佇むレウコテアーそのものでした。
「…その声、ダントン?
あれ、どうしてここにいるの?」
お互い飾り気の無い姿でしたが、恥ずかしい気持ちもやましい気持ちもありませんでした。
「あぁ、私は侯爵閣下に呼ばれて…それで食事をして、泊まるように言われたのです。」
「あー、それじゃあ今夜の晩餐会の相手はキミだったのか。」
マルグリット嬢は私が来ることは知らなかった様です。妻や娘に晩餐会の相手を言わないことは良くあることです。
「マルグリット嬢は…そのどうしてここに…?」
「ふふ…面白い事言うね。ここ私の家だよ?夜は庭を散歩するのが日課なんだ。」
「座ろっか。」とマルグリット嬢に言われ、二人で噴水の縁に座りました。
「久しぶりだね。3ヶ月振りー…かな?」
話を始めたのはマルグリット嬢でした。
「えぇ、そのぐらいだと思います。」
「あはは。時間て経つのが早いね。」
私にとって無情に流れた時間は彼女にとっては早かったようです。
足をブラブラとする行為は、年齢通りの少女でした。
「社交界に出るのが億劫でね、ちょっと疲れてたんだ。」
彼女は続けます。
「ダントン、キミも嫌いだろ?」
「えぇ……私も。」嫌いでした。
義姉から逃げるための社交界でした。しかしそれはいつしか、マルグリット嬢と会うための社交界になりました。
「父も社交界が嫌いでね。…それでも娘の婚活に力を入れないわけにもいかないだろう?
娘から、社交界で知り合った男性の話を聞いた父が、ここ最近頑張ってくれてたんだ。
……聞いた男の名前、全員の人と食事をするって事をね。」
少々ゲッソリした顔したマルグリット嬢。侯爵閣下の隈が酷かったのは、毎晩晩餐会を開いていたからかもしれません。
「考えられないでしょ?」
やはり、彼女は見た目こそ大人びておりますが、父親の行動に異を唱える少女でした。
「だから、ちょっと嫌がらせしようと思ったんだ。」
「と、言うと?」
「確認なんだけども、父は今日の食事は何か話したかい?どんな様子だった?」
「い、いえ、特には。むしろ夢中だったのか…食事も早かったです。」
「じゃあ成功だ。」
「…マルグリット嬢、それは一体どういう意味で…?」
「父はね、あの体型だけども、食べる事が好きなんだ。特に美味しいと無言で早食いになるんだ。」
「えぇ。」
「今日の肉料理、あれに細工したんだ。キミは気づいたかな?」
マルグリット嬢はだんだんと含み笑いを浮かべ、目を細めます。
よっぽど嫌がらせが成功したのでしょう。
「今日の晩餐会、大豆を使ったんだ。キミは気づいたかい?」
「……………………。
え?」
正直申しますと、豆料理は庶民的な食材です。
それも、まず晩餐会には並びません。
それを侯爵閣下である父君に彼女は仕込んだのです。
あの時の食事の食感で違和感を覚えたのは大豆だったのです。
「ふふ、キミは気づいた?」
「………とても美味しかったです。」
知ってたとも知らなかったとも言えません。ありのままの感想を伝えるだけです。
「あの…どうやってやったのかだけ、教えていただいても?」
「シェフにだけど?」
「いえ、そういう事ではなく…その…。」
「あぁ、どこで知ったのかて事かい?」
そうです。私はそれが知りたいのです。
「随分前にね、他の領地から逃げ出した平民が来たんだ。
助ける代わりに、彼らから話を色々聞きたくてね。普段なにを食べてるのかとか、どうやって逃げてきたのかとか。
それで豆を潰して食べると肉のようになるって聞いたんだ。」
「信じられないでしょ?豆が肉になるなんて。本当にそうなのか、シェフに頼んで作らせたんだ。今日の晩餐会に出すのはちょっと泣きそうだったけどね。」
それはとても興味深い話でした。
私の知る限り、平民が肉料理にありつける機会はそう多くはありません。
税の重い領地であれば尚更です。逃げ出す領民も珍しくはありません…。
彼女は見返りを平民に求め、それを実践したのです。
「まさか今夜の晩餐会の相手がキミだったのは想定外だったけど、むしろ良かった。これが口の軽い人ならすぐバレてたと思う。」
やはり彼女の笑顔は悪魔――いや、魔女なのかもしれません。
0
あなたにおすすめの小説
やさしいキスの見つけ方
神室さち
恋愛
諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。
そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる