ダントン回想録

大変よくできました

文字の大きさ
13 / 20

回想録13

しおりを挟む
「よぉ。マル。元気してたか?」
「おかえりなさい!ドナ伯父様!」

 当時からドナ伯父様は次期侯爵としての仕事を半ば放棄してでも、海外へ旅に出ていたんだ。

「大きくなったなぁ。2週間ぶりか?」
「もう!1年半ぶりよ!!」
「はは。悪い悪い。大きくなったなぁ。」

 海外へ行っては珍しい本、珍しい玩具をお土産に持って帰ってきてくれたんだ。

「おかえり、兄さん。」
「ダニー、ただいま。しばらく留守にしてすまないな。」
「父さんの口がうるさくなるだけだから、大丈夫だよ。」
「ははっ、そうかそうか。」

 父とも仲はよく、私は本当に楽しかった。
 何よりももっと楽しみだったのは「伯父様!今回の旅はどうだったの?」
「マルは本当に旅の話を聞くのが好きだなぁ。」
「だって今回は、水の都まで行ってきたのでしょう?
 街中が海の中にできてて、しかも教会の本拠地じゃない!ねぇ、聖物はどうだった?本当にあった?
 あそこは、時間や季節で道が海になるって本当?」
「分かった分かった。ゆっくり沢山話してやるからどれ……そうだなー」

 女は勉強なんかしなくていい。
 女は旅なんか行かなくてもいい。
 
 ありとあらゆる女性への軽視は幼い私にも分かっていたよ。
 だからこそ、伯父の旅は本でしか知らない私には刺激的だった。

 有難いことに、父は特に何も言わず、自由に伯父様の話を聞かせてくれていた。
 たぶん自分は家督を継がなくていいって思ってたんだろうね。
 家督を継ぐきっかけはあっけなかった。

「伯父様、今度はどこに行くの?」
「おぉマル!今度は東のさらに東の国に行くぞぉ。」
「東?」
「あぁ、黄金の国とも言われた国だ。あそこはまだ殆ど外国人が行った事がないんだ。」

 伯父様はいつも通り次の国へ行く事を私たち家族に話してくれた。

「兄さん、あそこは鎖国していると聞いたけども大丈夫なのかい?」
「あぁ。鎖国しているとはいえ、一部の国は入国可能だ。…ツテでようやく行くことができるんだ。」

 私を肩車して、伯父様の喜びステップを身体で受け止める。それが旅の始まりの合図でもあったんだ。
「…マル、今度はいつも以上に長旅になる。手紙だけでは書き足りないだろうから、お前には毎月ノートを送るようにしよう。」
「ノート?」
「あぁ、そこに俺の見たもの聞いたもの、ありとあらゆる事を書いてお前に送ろう。もちろん、誇張は無しの実物だ!
 タイトル名は…ドナの大冒険物語!どうだ?」
「わぁ…!」

 その計画は今でも思い出すだけで胸が踊るよ。
 
 そして伯父様は約束通り、海へ渡り、毎月1冊ずつ私のところにノートが届くようになったんだ。

『マル、大海原を出て2ヶ月そろそろ東の黄金の国に着く。現地へ着いたら、俺はまず現地の服を手に入れて、その国に慣れることから始めようと思う。』

『綺麗なキモノを見つけたんだ。生地は薄いが現地では一等ものだ。
 これはお前にノートと一緒に送ろう。ダニーは興味ない顔をするだろうが、きっとそれを着たお前を気に入るだろう。』

『いよいよ旅の始まりだ。今は俺と同じような異邦人も多い。黄金の国の民たちも、慣れているようだ。
 だが、旅が始まったら俺は貴族でもなんでもない、ただの異人だ。
 今月はノートと一緒にカンザシを送ろう。赤珊瑚で作ったものらしい。義妹さんの分もある。きっと気に入るだろうから、帰ってきたら、キモノと一緒にカンザシを着けた姿を見せてくれ。』

『現地の住民は、俺たちの住む国とまるで違う。人々は皆子供好きで、他人の子供でも飢饉で余裕がない時期でも、子供だけは助けようとする。
 飢饉だけじゃない。ここは地震も火山もある。俺たちの住む国じゃ本当に考えられない環境の中で、彼らは子供を守ることを優先してるんだ。』

「今はもう、そのキモノも着られないけど、カンザシは部屋に取ってあるんだ。
 …ノートも3年間続いた。」

 マルグリット嬢の懐かしい思い出話は、ノートを見てない私でも想像に容易いものでした。
 
「伯父上様は…その旅で?」

 現侯爵閣下が弟君だとすると、もう答えは明白です。けれど確認せずには居られませんでした。

「 3年と5ヶ月目、最後の冒険ノートは伯父様の手から直接もらう予定だったんだ。」

 夏風が、我々を優しく撫でました。
 まるでマルグリット嬢の伯父君がそばに居るような感覚です。

「…その帰りの船で消息を絶った連絡が入ってね。それ以降、伯父様は行方知れずさ。」

噴水に手を入れているマルグリット嬢はそのまま手で水をかき回します。

「私は生涯、伯父様がどうなったのかは分からないままだろう。
 だから……全てが知りたい。」

 あどけなさを残しつつも一人の女性としてマルグリット嬢は、全てという言葉に力を入れておりました。

 伯父君の消息も、その中にあるのでしょう。

「ダントン、珍しいよ。女の私に何を学びたいのか聞いてきたのは、キミが初めてだから。
 私が、もし男だったら今頃はキミと同じように大学へ行って何かを学べてたのにね…。」

 女性は子を産み、育てるものだと誰もが認識しています。私も例外ではありませんでした。

 女性の教育に子育てや家計の切り盛り、社交界へ旅立つ為の教育はあれど、学問という世界は殆ど必要ありません。

 彼女はラ・トゥールの人間です。
 叡智を求めるのは必然であり、またその血なのでしょう。不思議な事ではありません。

 そして、それを継ぐ後継者を作ることもまた、必然であり重要な事なのです。
 
 そんな時に、彼女の良き理解者が一人もいなければ?
 彼女の重荷を少しでも軽くする為には?
 うら若い少女がそこまで考えねばならないのでしょうか。

 彼女の人生に不憫を覚えましたが、それと同時にそんな不条理な世界に挑まなければならない彼女の支えになりたいと強く思いました。
 その血がゆえに魔女と言われる少女。

 身体が自然に、噴水にまだ手を入れている彼女の手を取り、両手に握りしめます。

 身体はそのままかしずき、彼女の目を見ます。

「マルグリット嬢…このダントン・ドランは貴女をずっとお慕い申し上げておりました。
 ようやく決心しました。いつかの無礼を…お許しください。貴女のプロポーズを今度はしっかり受け止めさせて下さい。」

 言葉に――……彼女の手を握る手に力が入ります。

「私を、貴方の夫にさせてください――。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

別れ話

はるきりょう
恋愛
別れ話をする男女の話

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...