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「西山!お前また俺の悪口か?」
「ひぃぃっ、違いますぅ!」
3月12日、バイト先のスーパー。昼の暇な時間で、いつものようにクソハゲ店長に愚痴を聞かれてしまった。
「だいたい、そうやって店の表でぐちぐち言われちゃ、店のイメージダウンだ!やめてもらってもいいんだぞ!」
「はいい?!それは言い過ぎっすよ!」
店を辞める?冗談じゃない、家に近いし、給料いいし、その割にはメッチヤ楽だし。こんないいバイト先滅多にないぜ?あと、もう何人か親しい友人もいるしな。
「なぁ、田中!なんとか言ってやってくれよ。この店には俺が必要だよな!」
日頃、俺がどんなにこの店や世の中のことを思って発言しているかよく知っている人物がいる。今向かいの食品の陳列をしている男だ。その男は一人暮らしでひょろっとしているが、俺の一番親しい友人だ。その男は新作のポテトチップの袋を棚に敷き詰めながら言う。
「別に必要ではないですね・・・・・・」
「なにっ?」
「普通に、この件も先輩が悪いですね」
「おい!田中!店長にもっと給料を上げてもらえるように、作戦を一緒に練ったじゃねぇか!」
「そうか、田中。お前は最近いい働きっぷりだから給料を上げてやろう!」
両腕を組ながら、うんうんと首を縦に振りながら店長は話す。
「ふぇー!なんでぇ!」
「ありがとうございます!」
いやいや、裏で口を合わせてるだろってレベルのやりとりだな!
「はぁ、やってられないよ」
「元気に出してくださいよ」
「うるせぇ。お前、裏切ったくせに」
田中とスーパーから出る。特に深い意味はないが今日はたまたま帰るタイミングが一緒だった。
「はぁ、店長がいない世界に行きたいよ」
「・・・・・・」
本当に、あの人がいなければ、どれほどバイトがしやすいことか。
「でも、たとえ嫌な人でも、いなくなったら寂しいと感じると思いますよ」
「そうか~?」
二人は数分一緒の道を進み、曲がり角で別れを告げた。
「ふぃ~うまい」
缶ビール片手に、夕飯を食べる。二十歳を過ぎたことで一番良かったことは酒が飲めるようになったことかもしれない。二十歳になりたての頃はそんなことは一度も思わなかったが、今ではもうそればかり思う。
「はぁ~そろそろ、将来就く職業とかも考えないとだめかなぁ~」
誰も聞いていないのに、誰かに話しているかの声量でぼやく。
ピロンっと携帯がなる。
「ん?」
送り主をみると田中からだった。
携帯のロックを外し、さっそくその内容を見る。
「先輩お疲れ様です。ネットで面白い話をみつけたんですが、やってみませんか?」
その文の下にサイトのURLが貼られており、そのURLをタップする。
「なになに・・・・・・平行世界の行き方?紙に『飽きた』って書く?ははっなんだよそれ」
田中にしてはかなり幼稚なネタだと思った。いい歳の俺が、こんな子どもだましみたいな都市伝説をやるわけが・・・・・・。
チラシの裏面に六芒星を描き、飽きたと書く。そしてあのクソハゲ店長がいない世界へ行きたいと添える。
「こういうのはノリが大事なんだよ!」
こんなことに本気になる自分も馬鹿だと思ったが、これもいい話のネタになるってんならやってやるさ。今度田中にあったとき、ありがとうって言える結果になるといいなっ、あはははっ。
完全に酔い、風呂にも入らず、ベッドにダイブする。
「おやすみぃ~」
3月7日 11時
僕は目を覚ました。何日間あの暗闇に漂っていたかはわからない。どうやら、ここは僕の部屋ではないことはすぐに分かった。床が冷たい。
「ここは・・・・・・西山先輩の・・・・・・」
一度ここに来たことがあるからわかる。テレビの横には新作のゲーム機があり、僕では買えなかったから、遊ばせてもらったのを覚えている。
「はっ!」
いや、どうしてここに?なぜ帰ってこれた?
体を起こす、横にあるベッドの上には西山先輩がぐーぐと寝息を立てている。
「やばっ」
とりあえず、先輩を起こさないように外に出た。
夢だったのか?いや、これが夢なのかもしれない。
とはいっても、あの時のように物に触れられないわけじゃないし、こうしてしっかりと地面に立てている。それにポケットの中に携帯とビデオカメラが入っていた。
携帯は相変わらず充電がなくてつかない。一方ビデオカメラは何とか充電があるみたいだ。
「3月・・・・・・22日?」
ビデオカメラに表示された日付をみて困惑する。ビデオカメラに示される日付は現実の日付ではなく、僕が体験した時間を表している。
僕が世界を行き来している間に、こんなにも日が過ぎているとは思っていなかった。どれほどの時間、あの暗闇にいたのかわからないが、とにかく今の僕がいるこの世界は愛しい僕の世界ということに変わりはないだろう。そう思っている間に、ビデオカメラのバッテリーが切れ、真っ暗になってしまった。
僕は歩き出す。遠くでパトカーのサイレンの音や、バイクの走る音がする。とてつもなく懐かしい。
先輩の家は6階。もちろんエレベーターを使う。だけど、今回はしっかり1階を押そう。もうあんな出来事に巻き込まれたくはない。
ガーっと10階から降りてきたエレベーターが開く、すると、一枚の小さな紙切れが落ちていることに気づく。
「ん?」
恐る恐るそれを拾う。
それは、杞憂に終わる。
紙にはかわいらしい文字が書いてあり、筆圧できに女性が書いたものだというのがなんとなくわかった。
「あぁ・・・・・・彼女だな」
手紙の内容は、こうだった。
5日後、世界の狭間から帰ってきたあなたが他者に働きかけることで、この世界への穴をつくらせる。その穴を通じてあなたはここへ帰ってくる。条件を覚えてる?移動先に自分と同じ肉体、または存在がないこと。あなたは7日の夜10時ぐらいに旅立っちゃう。だから、あなたはここへ体を持ったまま戻ってこれたってわけ。結局最後は自分頼みってとこかしら。向こうの世界の彼らがどうなったかは知らないけど、フォルネウスは二度とあの闇から出られないでしょうね。
そして、下に小さく書かれていたのは、最後に僕がやらないといけない具体的な内容。というか、ほとんど西山先輩にやってもらうって感じだが。
「いや・・・・・・これは教えてもいいのかよ。はぁ、ろくなことがなかったな」
手紙をしっかりと最後まで読んだあと、きちんと畳んでポケットに入れる。ついでに、忘れないように自転車の鍵を取り出し、僕はゆっくりと1階へのボタンを押した。
戻って3月13日の朝。
ジリリリリリリッ
目覚まし時計の音を聞き、西山は飛び起きる。携帯を開き、そしてあの店長の電話番号を入力する。
プルプル・・・・・・がちゃ。
「はい。もしもし」
「おはようございます!クソハゲ店長の電話番号ですか?! 私!西山と申します!間違い電話でしょうか?間違い電話ですよね!違うかったら電話を切ってもらって結構です!」
「ははっ、間違い電話ですよ」
「ほんとですか!」
「クソハゲじゃねぇからなぁ!いい度胸じゃねぇかお前!西山、今日シフトいれろぉ!」
「ぎゃああああっ!」
「ひぃぃっ、違いますぅ!」
3月12日、バイト先のスーパー。昼の暇な時間で、いつものようにクソハゲ店長に愚痴を聞かれてしまった。
「だいたい、そうやって店の表でぐちぐち言われちゃ、店のイメージダウンだ!やめてもらってもいいんだぞ!」
「はいい?!それは言い過ぎっすよ!」
店を辞める?冗談じゃない、家に近いし、給料いいし、その割にはメッチヤ楽だし。こんないいバイト先滅多にないぜ?あと、もう何人か親しい友人もいるしな。
「なぁ、田中!なんとか言ってやってくれよ。この店には俺が必要だよな!」
日頃、俺がどんなにこの店や世の中のことを思って発言しているかよく知っている人物がいる。今向かいの食品の陳列をしている男だ。その男は一人暮らしでひょろっとしているが、俺の一番親しい友人だ。その男は新作のポテトチップの袋を棚に敷き詰めながら言う。
「別に必要ではないですね・・・・・・」
「なにっ?」
「普通に、この件も先輩が悪いですね」
「おい!田中!店長にもっと給料を上げてもらえるように、作戦を一緒に練ったじゃねぇか!」
「そうか、田中。お前は最近いい働きっぷりだから給料を上げてやろう!」
両腕を組ながら、うんうんと首を縦に振りながら店長は話す。
「ふぇー!なんでぇ!」
「ありがとうございます!」
いやいや、裏で口を合わせてるだろってレベルのやりとりだな!
「はぁ、やってられないよ」
「元気に出してくださいよ」
「うるせぇ。お前、裏切ったくせに」
田中とスーパーから出る。特に深い意味はないが今日はたまたま帰るタイミングが一緒だった。
「はぁ、店長がいない世界に行きたいよ」
「・・・・・・」
本当に、あの人がいなければ、どれほどバイトがしやすいことか。
「でも、たとえ嫌な人でも、いなくなったら寂しいと感じると思いますよ」
「そうか~?」
二人は数分一緒の道を進み、曲がり角で別れを告げた。
「ふぃ~うまい」
缶ビール片手に、夕飯を食べる。二十歳を過ぎたことで一番良かったことは酒が飲めるようになったことかもしれない。二十歳になりたての頃はそんなことは一度も思わなかったが、今ではもうそればかり思う。
「はぁ~そろそろ、将来就く職業とかも考えないとだめかなぁ~」
誰も聞いていないのに、誰かに話しているかの声量でぼやく。
ピロンっと携帯がなる。
「ん?」
送り主をみると田中からだった。
携帯のロックを外し、さっそくその内容を見る。
「先輩お疲れ様です。ネットで面白い話をみつけたんですが、やってみませんか?」
その文の下にサイトのURLが貼られており、そのURLをタップする。
「なになに・・・・・・平行世界の行き方?紙に『飽きた』って書く?ははっなんだよそれ」
田中にしてはかなり幼稚なネタだと思った。いい歳の俺が、こんな子どもだましみたいな都市伝説をやるわけが・・・・・・。
チラシの裏面に六芒星を描き、飽きたと書く。そしてあのクソハゲ店長がいない世界へ行きたいと添える。
「こういうのはノリが大事なんだよ!」
こんなことに本気になる自分も馬鹿だと思ったが、これもいい話のネタになるってんならやってやるさ。今度田中にあったとき、ありがとうって言える結果になるといいなっ、あはははっ。
完全に酔い、風呂にも入らず、ベッドにダイブする。
「おやすみぃ~」
3月7日 11時
僕は目を覚ました。何日間あの暗闇に漂っていたかはわからない。どうやら、ここは僕の部屋ではないことはすぐに分かった。床が冷たい。
「ここは・・・・・・西山先輩の・・・・・・」
一度ここに来たことがあるからわかる。テレビの横には新作のゲーム機があり、僕では買えなかったから、遊ばせてもらったのを覚えている。
「はっ!」
いや、どうしてここに?なぜ帰ってこれた?
体を起こす、横にあるベッドの上には西山先輩がぐーぐと寝息を立てている。
「やばっ」
とりあえず、先輩を起こさないように外に出た。
夢だったのか?いや、これが夢なのかもしれない。
とはいっても、あの時のように物に触れられないわけじゃないし、こうしてしっかりと地面に立てている。それにポケットの中に携帯とビデオカメラが入っていた。
携帯は相変わらず充電がなくてつかない。一方ビデオカメラは何とか充電があるみたいだ。
「3月・・・・・・22日?」
ビデオカメラに表示された日付をみて困惑する。ビデオカメラに示される日付は現実の日付ではなく、僕が体験した時間を表している。
僕が世界を行き来している間に、こんなにも日が過ぎているとは思っていなかった。どれほどの時間、あの暗闇にいたのかわからないが、とにかく今の僕がいるこの世界は愛しい僕の世界ということに変わりはないだろう。そう思っている間に、ビデオカメラのバッテリーが切れ、真っ暗になってしまった。
僕は歩き出す。遠くでパトカーのサイレンの音や、バイクの走る音がする。とてつもなく懐かしい。
先輩の家は6階。もちろんエレベーターを使う。だけど、今回はしっかり1階を押そう。もうあんな出来事に巻き込まれたくはない。
ガーっと10階から降りてきたエレベーターが開く、すると、一枚の小さな紙切れが落ちていることに気づく。
「ん?」
恐る恐るそれを拾う。
それは、杞憂に終わる。
紙にはかわいらしい文字が書いてあり、筆圧できに女性が書いたものだというのがなんとなくわかった。
「あぁ・・・・・・彼女だな」
手紙の内容は、こうだった。
5日後、世界の狭間から帰ってきたあなたが他者に働きかけることで、この世界への穴をつくらせる。その穴を通じてあなたはここへ帰ってくる。条件を覚えてる?移動先に自分と同じ肉体、または存在がないこと。あなたは7日の夜10時ぐらいに旅立っちゃう。だから、あなたはここへ体を持ったまま戻ってこれたってわけ。結局最後は自分頼みってとこかしら。向こうの世界の彼らがどうなったかは知らないけど、フォルネウスは二度とあの闇から出られないでしょうね。
そして、下に小さく書かれていたのは、最後に僕がやらないといけない具体的な内容。というか、ほとんど西山先輩にやってもらうって感じだが。
「いや・・・・・・これは教えてもいいのかよ。はぁ、ろくなことがなかったな」
手紙をしっかりと最後まで読んだあと、きちんと畳んでポケットに入れる。ついでに、忘れないように自転車の鍵を取り出し、僕はゆっくりと1階へのボタンを押した。
戻って3月13日の朝。
ジリリリリリリッ
目覚まし時計の音を聞き、西山は飛び起きる。携帯を開き、そしてあの店長の電話番号を入力する。
プルプル・・・・・・がちゃ。
「はい。もしもし」
「おはようございます!クソハゲ店長の電話番号ですか?! 私!西山と申します!間違い電話でしょうか?間違い電話ですよね!違うかったら電話を切ってもらって結構です!」
「ははっ、間違い電話ですよ」
「ほんとですか!」
「クソハゲじゃねぇからなぁ!いい度胸じゃねぇかお前!西山、今日シフトいれろぉ!」
「ぎゃああああっ!」
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