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冒険の始まり!
9話 魔法の使い方
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この世界に来て1週間が経った。1週間、といってもこの世界での1週間は6日である。4週間で1ヶ月。そして1年は14ヶ月だ。
ここからは詳しい話なので読み飛ばしても構わない。
1週間が6日なのは、月に相当する天体が24日で満ち欠けするからだ。また、1年は14ヶ月と書いたが、正確な1年は344日であり、これでは8日足りない。そこでこの世界では3年に一度閏月なるものが現れ、1年が15ヶ月になる。付け加えると、曜日の数が違うので日月火…は通じず、翻訳の魔石を介してもそこは現地語で聞こえる。
…まあ、崇一郎からの受け売りなんだけどね。一度マテューさんに教えてもらったものの全く理解できず、崇一郎に2時間ほどかけて解説してもらった。やっぱり僕に数学は無理だ。
この1週間であった大きい出来事といえば、僕らが冒険者を目指すようになったということだろう。まずは別の街へ行き、僕らと同じく異世界へ来てしまった人たちを探すということで意見が一致した。
三戸さんは最後まで難色を示していた。だが他の地域へ行く必要性は分かっているようで、極力戦闘に参加しないという条件で頷いた。
それからは毎日ギルドの冒険者認定試験の勉強である。この期に及んで勉強かと最初はうんざりしていたが、これが思ったよりも面白かった。
特に先人が残していった日本語訳の魔導書はいくら読んでも飽きない。おかげで筆記試験は問題なさそうだ。
「はあっ!」
カン、カンと木製の得物がぶつかる乾いた音が闘技場に響いた。
ここはギルドに隣接する屋外闘技場。小規模なコロッセオみたいな見た目で、不定期で闘技大会が催されている。認定試験の会場でもある。
大会のない期間は冒険者たちのために解放されており、僕ら4人は実技試験のための練習をしているのであった。
志摩さんが僕に剣で斬りかかる。彼女は武器を槍から片手剣と盾に変えた。こちらの方が扱いやすいらしい。
逆に槍を使い始めたのは崇一郎だ。志摩さんに合わせて突きを放ってくる。彼は中学時代バスケ部だったこともあり、動きが俊敏で避けづらい。
「【石つぶて】!」
そう言葉を発したのは三戸さんだ。するとそこら辺にあった石ころが浮かび上がり、文字通り石つぶてとなって全部僕のところに飛んできた。
そう、僕は今3人を相手にしているのだ。
事の経緯は少し前に遡る。闘技場に着いた僕たちは、練習内容について話し合っていた。
「実技試験って魔法と実戦だよな」
こう言ったのは崇一郎だ。
「うん、魔法はなんでもいいから1つ使えれば合格、実戦は試験官と制限時間まで自由に戦う…だったね」
志摩さんが答える。
「魔法は皆使えるから、実戦…なのかな」
三戸さんがそう続ける。魔法はやってみると案外簡単なものだった。特に三戸さんは一番沢山の種類を使いこなしており、才能があると思う。使える魔法の数でいったら魔導書を読み漁っている自分が2番目だ。
実戦は試験官1人に対して最大4人、僕らなら全員で同時に挑める。味方との協力も採点項目に入っているようだ。
「じゃあ、昨日決めた作戦を実際にやってみようか」
そう言って僕は杖を手に取る。自分も短剣以外の武器を色々と試しているがどれもしっくりこない。
さて、今日は連携の確認をするということになったのだが、1つ問題が生じた。試験官がいないのだ。
「夕樹で良いんじゃないか?お前、遊撃だろう」
キャロルさんとの戦いでいきなり得物を投げつけるという奇行に出た僕は、相手を撹乱できるということで崇一郎直々に遊撃を任されたのだ。
あのときは実力じゃ敵わないから不意を突こうと思ってやっただけなんだけどなあ。
ともかく、盾持ちの志摩さんが前衛、崇一郎が槍で隙を見て攻撃。三戸さんは戦わないとするも、何もしないと点数が入らないだろうから魔法でサポートに徹してもらうことにした。
連携にあまり関係のない僕は試験官役を担当しているが、3人がかりで襲われるのはかなり怖い。
「あ…っぶねぇ!」
石つぶてを仰け反って躱し、槍もジャンプで回避。着地する前に志摩さんの盾に蹴りを入れてその反動で3人から距離を置く。離れたところに着地した僕は、杖を構え直すと魔法発動の準備にかかった。
実は魔法の発動に詠唱はいらない。体内にある魔力の流れをコントロールし、使いたい魔法のイメージを具現化出来ればいいのだ。呪文を唱えるのはイメージの手助けになるためである。言霊といえば上手く伝わるかもしれない。
「【石つぶて】!」
また小石が飛んでくる。三戸さんは魔導書に書いてある呪文の例とは全く違うことを言っているが、本の呪文は日本語ではないので僕らが唱えてもイメージの助けにはならないのだ。
だからぶっちゃけイメージさえ出来るのなら何を言ったって良いぞ。
「【バルサミコ酢】!」
奇っ怪な呪文を唱えると、僕の杖の先が熱を帯び、白い光の束となって飛び出した。
【バルサミコ酢ビーム(仮)】は石ころを的確に撃ち抜き、全て粉砕した。周囲に小石がなくなったことで【石つぶて】はもう使えない。
「いくよ…!」
そう言って僕は3人めがけて走り出した。
練習は夕方まで続いた。
ここからは詳しい話なので読み飛ばしても構わない。
1週間が6日なのは、月に相当する天体が24日で満ち欠けするからだ。また、1年は14ヶ月と書いたが、正確な1年は344日であり、これでは8日足りない。そこでこの世界では3年に一度閏月なるものが現れ、1年が15ヶ月になる。付け加えると、曜日の数が違うので日月火…は通じず、翻訳の魔石を介してもそこは現地語で聞こえる。
…まあ、崇一郎からの受け売りなんだけどね。一度マテューさんに教えてもらったものの全く理解できず、崇一郎に2時間ほどかけて解説してもらった。やっぱり僕に数学は無理だ。
この1週間であった大きい出来事といえば、僕らが冒険者を目指すようになったということだろう。まずは別の街へ行き、僕らと同じく異世界へ来てしまった人たちを探すということで意見が一致した。
三戸さんは最後まで難色を示していた。だが他の地域へ行く必要性は分かっているようで、極力戦闘に参加しないという条件で頷いた。
それからは毎日ギルドの冒険者認定試験の勉強である。この期に及んで勉強かと最初はうんざりしていたが、これが思ったよりも面白かった。
特に先人が残していった日本語訳の魔導書はいくら読んでも飽きない。おかげで筆記試験は問題なさそうだ。
「はあっ!」
カン、カンと木製の得物がぶつかる乾いた音が闘技場に響いた。
ここはギルドに隣接する屋外闘技場。小規模なコロッセオみたいな見た目で、不定期で闘技大会が催されている。認定試験の会場でもある。
大会のない期間は冒険者たちのために解放されており、僕ら4人は実技試験のための練習をしているのであった。
志摩さんが僕に剣で斬りかかる。彼女は武器を槍から片手剣と盾に変えた。こちらの方が扱いやすいらしい。
逆に槍を使い始めたのは崇一郎だ。志摩さんに合わせて突きを放ってくる。彼は中学時代バスケ部だったこともあり、動きが俊敏で避けづらい。
「【石つぶて】!」
そう言葉を発したのは三戸さんだ。するとそこら辺にあった石ころが浮かび上がり、文字通り石つぶてとなって全部僕のところに飛んできた。
そう、僕は今3人を相手にしているのだ。
事の経緯は少し前に遡る。闘技場に着いた僕たちは、練習内容について話し合っていた。
「実技試験って魔法と実戦だよな」
こう言ったのは崇一郎だ。
「うん、魔法はなんでもいいから1つ使えれば合格、実戦は試験官と制限時間まで自由に戦う…だったね」
志摩さんが答える。
「魔法は皆使えるから、実戦…なのかな」
三戸さんがそう続ける。魔法はやってみると案外簡単なものだった。特に三戸さんは一番沢山の種類を使いこなしており、才能があると思う。使える魔法の数でいったら魔導書を読み漁っている自分が2番目だ。
実戦は試験官1人に対して最大4人、僕らなら全員で同時に挑める。味方との協力も採点項目に入っているようだ。
「じゃあ、昨日決めた作戦を実際にやってみようか」
そう言って僕は杖を手に取る。自分も短剣以外の武器を色々と試しているがどれもしっくりこない。
さて、今日は連携の確認をするということになったのだが、1つ問題が生じた。試験官がいないのだ。
「夕樹で良いんじゃないか?お前、遊撃だろう」
キャロルさんとの戦いでいきなり得物を投げつけるという奇行に出た僕は、相手を撹乱できるということで崇一郎直々に遊撃を任されたのだ。
あのときは実力じゃ敵わないから不意を突こうと思ってやっただけなんだけどなあ。
ともかく、盾持ちの志摩さんが前衛、崇一郎が槍で隙を見て攻撃。三戸さんは戦わないとするも、何もしないと点数が入らないだろうから魔法でサポートに徹してもらうことにした。
連携にあまり関係のない僕は試験官役を担当しているが、3人がかりで襲われるのはかなり怖い。
「あ…っぶねぇ!」
石つぶてを仰け反って躱し、槍もジャンプで回避。着地する前に志摩さんの盾に蹴りを入れてその反動で3人から距離を置く。離れたところに着地した僕は、杖を構え直すと魔法発動の準備にかかった。
実は魔法の発動に詠唱はいらない。体内にある魔力の流れをコントロールし、使いたい魔法のイメージを具現化出来ればいいのだ。呪文を唱えるのはイメージの手助けになるためである。言霊といえば上手く伝わるかもしれない。
「【石つぶて】!」
また小石が飛んでくる。三戸さんは魔導書に書いてある呪文の例とは全く違うことを言っているが、本の呪文は日本語ではないので僕らが唱えてもイメージの助けにはならないのだ。
だからぶっちゃけイメージさえ出来るのなら何を言ったって良いぞ。
「【バルサミコ酢】!」
奇っ怪な呪文を唱えると、僕の杖の先が熱を帯び、白い光の束となって飛び出した。
【バルサミコ酢ビーム(仮)】は石ころを的確に撃ち抜き、全て粉砕した。周囲に小石がなくなったことで【石つぶて】はもう使えない。
「いくよ…!」
そう言って僕は3人めがけて走り出した。
練習は夕方まで続いた。
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