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傾国の美女です
しおりを挟む自分で言うのも何なのだが、私はかつて傾国の美女だった。
ど田舎の農村の貧しい平民に生まれた私は、ちょっと信じられない程の美貌が祟って噂を聞きつけ視察に訪れた貴族に見初められた。
初めて連れてこられた王都、足を踏み入れた貴族社会。
卑しい、浅ましい、平民風情。罵倒のコーラスは「しかし美しい」の副音声を秘めて私の体に纏わりついた。
けれども所詮私は貧乏な平民風情。誰も食べない豪華な食事を食べることに夢中で、正直そんな罵倒はどうでもよかった。貴族の食べ物超美味しい。
幸か不幸かそんな私の態度は、あらゆる権力者の心を奪ったらしい。男を転がす才能があったのか、ちょっと可愛らしく振る舞うだけで、彼らは蔑むべき平民の私を女神のように扱った。
そのうち当時の国王まで籠絡した私は、故郷では考えられない日々を過ごした。
贅沢三昧、酒池肉林。
老いも若きも男も女も、ありとあらゆる人間全てが私に傅き愛を乞う。欲しいなと想像すらできなかったものが、微笑み一つで手に入るのだから人生チョロい。
「……よし、魔術師を呼ぼう」
艶やかな瑠璃色の長い髪を手で弄びながら良いことを思いついたつもりの私は、地獄に突き落とされることなんて想像もしていなかった。
◇
魔術師は、この世のあらゆる不可能を可能にするという。
とりあえず話題になっていた稀代の魔術師を呼んでみた。長い黒髪、黒い瞳。まあまあ整ってはいるが、地味な顔立ち。見たことがないのに見覚えがあるような。まあどこにでもいる顔だろう。
「死んだ人を蘇らせたり、私を不老不死にすることはできるかしら?」
マーリンと名乗る魔術師に、手短に用件を告げた。
彼はさして動揺も見せずに、「生命を操ることは、魔術ではできません」と答える。
「しかし、肉体の時を一時的に止めることはできます。うまくいけば不老不死と等しい時が生きられます」
「……つまり?」
「ジゼル様が心から望む願い、それを叶えるまで肉体の時を止めることが可能です。しかしこの願いは、理論上実現可能な願いでなければなりません」
魔術師は、さらりと長い黒髪を揺らした。荒唐無稽な願いはダメです。あなたが望む、実現可能な範囲の願い。
「私が願って叶わないことなど、この世にはないわ」
「実現可能な範囲内に限れば、確かにそうでしょうね」
知ったような口調で言う魔術師に、やや不快を覚えた。
そんな私の顰めた眉を見て彼が苦笑した。
「それではどうでしょう、恋に堕ちる事を願いにしては」
「恋?」
「はい。ジゼル様はもう、安易に人をお好きになることはないでしょう」
その通りだった。私は誰のことも好きになれない。私に夢中になる老若男女を見ては白けてたけど、一度は恋をしてみたいなあと思っていた。しかし無理なことだと悟っていた。
――良い考えかもしれない。
「……そうするわ」
「では、御心のままに。しかしこの魔法は取り消すことができません。願いが叶うまでは、あなたの体は永遠に時を止めます」
「問題ないわ」
彼が私に、神々しく光る金色の魔法をかけた。
それは遠い昔故郷で見た、風にそよぐ小麦畑と同じ色。懐かしくて目を閉じた。
そして私は、変わらぬ美貌と永遠の命を手に入れた。
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