恋をするまで死ねない君とあと百年は一緒にいたい

皐月めい

文字の大きさ
5 / 8

一緒に眠ろう

しおりを挟む



 何年も、何十年も、時は過ぎてく。
 私とマーリンの肉体はまだまだピカピカの若者だった。髪も一ミリだって伸びていない。

 そんな私たちは、眠ることができた。眠れて良かった。ずっと起き続けるとか普通に辛い。

 ただ最悪なことに、一人暮らしを想定した小さな家には、ベッドが一つしか置けなかった。
 嫌々、渋々、仕方なく、私と彼は寄り添って眠った。彼はそれ以上のことをしてこないので、ギリギリ妥協してあげた。

 マーリンの体は熱い。ぽかぽかの湯たんぽのようだ。魔術師の体は、魔力が体の内側でぐつぐつと滾るらしい。なんか辛そう。

 しかしマーリンは特段何ともなさそうに、やや眠そうに本を読んでいる。
 その様子と熱い体温に、遠い遠い幸せだった昔のことを思い出した。


「……昔、行き倒れて高熱を出した子を助けたことがあるわ」


 ボロボロで倒れていたその子をほっとけなくて家に連れて帰り、家族みんなで看病したのだ。
 もう少しで全快しそう、というところで、私は王都へ連れて行かれてしまったのだけれど。


「どうしてるのかしら。元気かな」


 懐かしくなって思わず頬を緩めると、少し間を置いてマーリンが口を開いた。


「彼はジゼルから見て、どんな子でしたか」
「ん~……死にかけてた子って事しか覚えてないな……。あとは、なんか無口だった気がする」
「……そうですか」


 何故か不服そうだ。眠いのかもしれないけど、私は眠くないからまだ話に付き合ってもらいたい。


「マーリンは?なんか思い出話はないの?ご両親の話とか」
「私は孤児です。心優しい方に拾われましたが、その方たちとは……離れまして、王都で魔術師となり、今に至ります」
「そうなのね……」


 一瞬間を置いて、私も口を開いた。
 今まで誰にも言わなかった、昔の話だ。


「私の家族もね、私が王都に行って一年後かな、亡くなったの。私を見初めた貴族が私の親にお金を投げて、これだけあれば娘を売るには充分だろって言った言葉に俯きながら頷いてた姿を見たのが最期」


 それまで貧しいなりに愛されてきたと思っていたから、頷きがショックで一度も故郷に帰らなかった。
 帰りたいと言っても、多分許されなかったけど。


「……多分あなたの両親は、痩せた土地で貧しく暮らすよりも、そのほうがあなたのためになると思ったんでしょう」
「そうかもしれないなって思った頃には、もう二人は死んでしまってたんだよね」


 目を閉じても、もう両親の顔は浮かばない。忘れてしまった。
 だからあの、死にかけていた子どもがせめて無事に育ってくれてたらいいなと思う。


「だから私とマーリンは、ひとりぼっち仲間」
「……ひとりぼっち同士が一緒に暮らしているのなら、それはもう家族なのでは」


 驚いてマーリンの顔を見る。
 彼はとても真剣な顔をしていた。ランプの灯に照らされて、黒い瞳がきらきらと輝いていた。


「私とあなたは、ひとりぼっちではなくて家族です」
「……そうかもね」


 それだけ言って、私は眠い振りをした。
 夜の帳の中、マーリンの寝息が聞こえ始める。その呼吸を聞きながら、私は祈ることをやめた神に祈った。

 彼の魔術が、どうか早く解けてくれますように。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません

藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。 ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。 「君は分かってくれると思っていた」 その一言で、リーシェは気づいてしまう。 私は、最初から選ばれていなかったのだと。 これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。 後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、 そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

殿下の御心のままに。

cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。 アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。 「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。 激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。 身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。 その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。 「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」 ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。 ※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。 ※シリアスな話っぽいですが気のせいです。 ※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください  (基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません) ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

処理中です...