恋をするまで死ねない君とあと百年は一緒にいたい

皐月めい

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本当のお願いごと

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 そんな風に時は流れて。
 一緒に過ごすようになってから、百年が過ぎた。


 とりあえずアブラムシを見逃すことにして一週間。

 やはりそろそろ殺らねばなと思って畑に向かうと、マーリンが何やら畑でごそごそとやっている。何だろうと訝しんで手元をみると、魔術で擬似の植物を作り、そこにアブラムシを移していた。

 そういう手段があるのなら、先にやって欲しい。思わず唇を尖らせると、マーリンは苦笑した。


「解決策を考えて、思いつきました。アブラムシ、殺すのも忍びなかったんでしょう?ジゼルは優しいですからね」
「マーリンが変なことを言うからでしょう。……それにしてもマーリンは、何でもできるのねえ」


 私のためなら何でもやってくれるしね。軽い気持ちで褒めると、彼はいきなり暗い顔をした。


「え、どうしたの」
「何でもはできませんね。結局あなたの願いを叶えられませんから」
「ええ……そのテンションこちら側が罪悪感なんですけど……」


 好きになれないのはこちら側の問題なので……。若干申し訳なくなってくる。


「そのことではありません」


 マーリンが、手元に咲く偽物の葉を見て思い詰めたような顔をした。


「あなたが望んだのは、不老不死ではなかったでしょう。あなたは、亡くなった両親に会いたかった。生き返らせることができないのなら、言い伝えのように生まれ変わった彼らに会いたいと、そう望んでいたのではないですか」
「……」


 私も、マーリンの手元に咲く葉を見た。偽物のくせに、そよそよさらさら、楽しそうに揺れている。


「この百年……いえ、あなたに会った時から、いつか絶対にあなたの願いを叶えたいと思っていました。なのに私にできたのは時間稼ぎ。どんなに研究しても、命を操ることはまだ難しい。でも待っていてもらえればいつか必ず……」
「それは、違うよ」


 出した声は震えていた。


「私は、お父さんとお母さんの本当の気持ちを知りたかっただけ。そして私が愛してるよってことを、知ってほしかっただけ」


 私はずっと悔やんでいた。そして同時に怖かったし、憤りも感じていた。

 本当は私が、邪魔だったんじゃないか。本当は私が大事だったんじゃないか。どちらにせよ私が両親を愛していることを、彼らはわかってくれていなかったんじゃないだろうか。

 贅沢を味わうたびに、私に愛を囁く貴族達の内心の蔑みを見るたびに、私は自分の体に流れる彼らの愛が死んでいくような錯覚を覚えていた。

 しかし私を捨てたのは彼らの方だ。そんな気持ちで彼らとの暮らしを忘れるように、自分自身を傷つけるように浴びるような贅を覚えた。そうして私を王都に連れた貴族たちを、愛さないことで復讐していたつもりになっていた。


 意味なんて何もなかった。
 そうしてこのザマだ。


 生きているうちに手紙の一つでも、送ってあげればよかったのに。


「……ジゼルの両親は、ジゼルを愛していましたよ。ジゼルの愛も、きちんと伝わっていました」
「慰めなんていらないよ」
「慰めるための嘘ではないことは、あとで説明致しましょう。彼らがあなたのことをどんなに愛していたのかも、あなたがどんなに彼らを愛していたのかも、私が全部知っています」


 びっくりしてマーリンを見ると、彼は真剣に私を見ていた。
 嘘では無いことは、百年一緒にいれば嫌でもわかるようになる。

 魔術師は、死者の声も聞けるのだろうか。それともマーリンは、生前の両親を知っていたのだろうか。そういえば彼は時折私のことを、昔から知っていた人間かのように話すことがあった。

 このまっすぐな瞳を、私はいつかどこかで見たことがあっただろうか。
 両親と私を、同時に知る人間なんていただろうか。


「…………あ」
「思い出しましたか?」


 情けなく笑う彼に、バカみたいにポカンとしてしまった。
 ベッドに横たわりながら、辛そうな顔でこちらを見ていたシルエットが薄ぼんやりと思い出されて、今のマーリンに重なった。
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