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これは絶対、恋じゃない
しおりを挟む「え、あの時の子?何で言ってくれなかったの?」
「王宮にいた時のあなたは別人のようで、思い出させるのは憚られました」
「いやいや。じゃあどうして一緒に暮らしてからも教えてくれなかったの?」
マーリンと暮らすようになってから、元気になりだした自覚はあった。
「だってジゼルは死にかけた子どもとしか覚えてなかったし……」
「は?」
彼の顔を見ると、彼は渋い顔をして驚くことを言った。
「現在進行形の初恋ですよ、かっこ悪いところは思い出させたくなかったんです……」
「は?」
私のことが好き?
驚いて目を見開くと、マーリンは逆にものすごく驚いたような顔をした。え、気づいてなかったの?みたいな顔だった。
「気づいてなかったんですか?」
「ぜ、全然気づかなかった」
「え……じゃあ何故私が、ここにいると思っていたんですか……?」
「確かに……何のためだろう……」
何となく、暫定不老不死仲間としての連帯感ゆえだと思っていた。
そうか。彼は私のことが好きなのか。
そう気づいた瞬間、何十年前からかたまに味わうむずむずぐらぐらとした妙な感覚が這いあがってきて、打ち消すために「わああああああ」と叫んだ。
マーリンが驚愕する。当然だと思う。
「ご、ごめん」
「なんですか今の」
「なんか、色々誤魔化したくなって」
それでも落ち着かなくて深呼吸したり空を見上げて「青いなあ」と思ってみた。憎い男の顔も思い出す。あいつ、結局一度もボコボコにできなかったな。
ダメだ、おさまらない。
私は「ちょっと海に顔を突っ込んでくる」と言って駆け出そうとした。冷やせば止まる。何度か試し済みだ。
「ちょっと落ち着いてください」
その私の腕を、マーリンが掴んだ。いつも熱いのに熱くない。私の体も熱いんだ。
「気持ちが迷惑だったら謝ります。しかしジゼルを困らせたいわけでもないし、押し付けるつもりでは、」
「わああああ」
聞こえないように大声を上げた。マーリンが途方に暮れた、傷ついたような顔をする。
いや違う。迷惑というわけじゃない。
「ちょ、ちょっと、マーリンの願いは何?何をしたらあなたは死ぬの?」
「……言いません」
しかしあなたが望むなら、あなたの前から消えます、とマーリンは辛そうな顔をした。
そうじゃない。離れたくはない。でも好きになるわけにはいかない。
頭がぐちゃぐちゃになって、なんだか力が抜けてきた。
考えがまとまらないまま、私の口から勝手にぽろぽろ言葉が漏れる。
「あなただけが私を助けてくれて、こんなにずっと一緒にいて、ずっと楽しく過ごしてたのに、好きにならないわけないじゃない」
久しぶりに涙が出てきた。
「だけどもしも私があなたに恋をしたら、あなたは一人ぼっちで生きていくことになるじゃない」
これは絶対、恋ではない。
「家族が死ぬのは辛いでしょう。そんな思いはさせたくない。だから私はマーリンを好きにはならない」
ちゃんと彼を看取りたかった。
だけどもう、限界だった。気が緩むと頭が沸騰しそうで、「ちょっと海に飛び込むから手どけて」と凄んだ。
しかしマーリンは微動だにせず、ただただ真っ赤になって俯いていた。
もう蹴飛ばすしかないな。覚悟を決めて構えると、マーリンがぼそぼそと口を開いた。
「時を止めるための私の願いは、あなたを看取ること、にしようと思っていたんです」
「ちょっとそれはあとで」
話は後で聞かせてほしい。なるべく聞き流すようにしていると、「ちゃんと聞いてください」と頬を両手で包まれた。
黒い宝石みたいな瞳が、私を強く見つめている。
そこに浮かぶ確かな熱を見つけて、私はひゅっと息を呑んだ。
「でも私はあなたがいつか死ぬことを、心から願うことはできなかった。だから、あなたが私に恋をすること、にしたんです」
「ええ……」
ぽかんとする私に、マーリンが真っ赤な顔で、物凄く幸せそうに笑う。
「なるべく一緒に死ねるよう、頑張りましょう」
その言葉が、私の耳に優しく届いた。
泣き笑いのようなみっともない顔で、鼻をすすりながら私は言った。
「……お腹がすいた」
「私もです」
久しぶりの空腹にへなへなと座り込んだ私たちは、茂る緑の葉を見て「まだ食べれないじゃん」「この葉っぱって食べられるでしょうか」「魔術でなんとかしてよ」と泣きながら笑いあった。
ようやく私の願いは叶った。
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