”オマケ”の狐はお暇したいと思います

雨宮天音

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プロローグ

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踏み出した先。
舗装ほそうされているはずの地面がなかった。
足場がなかったのだ。

かわりに前につんのめる。
130キロオーバーの巨体はつんのめったら最後地面に叩きつけられるしかない。
足が空中にあって踏ん張りがきかないからたぶん顔面から真っさかさま。

想像した瞬間。
顔は青ざめ全身から冷や汗が噴き出す。
嫌な予感に心臓のあたりの肉がキュッとなった。

体の防衛本能がせめて頭だけでも守ろうとしたのだろうか。
反射で手が前に出る。
右手はペットボトルを持ったままだから捻挫ねんざ間違いなし。

体感で5分ぐらいっただろうか。
しっかり落ちつづけている俺はいつの間にか空中で360度前転してどこかの椅子に座っていた。

あんなに落ちたのに衝撃も痛みもなし。
本当にいつの間にか座っていた。
自分が椅子に座っていることにびっくりして勢いよく席を立つ。

すると思いのほか大きな足音が出てしまった。
あわてて周囲にペコペコするも周囲は誰も気にしていない。
というより1人だった。

総合病院の待合室のようなつくりの空間は無機質な白さであふれていた。

壁も白椅子も白。
一つしかない診察室のドアもも白。
LEDも白。

俺以外全部白。
かく言う俺はといえば。

体型のせいでオーダーメードせざるをえなかった紺のスーツ。
一応国内製造だそうだ。

それに30センチの海外製の合皮の幅広はばひろの革靴。
靴はつま先とかかとに大量に詰め物をしている。
足の甲の肉の関係で4センチもデカい靴しか履けなかったからだ。

そして焦げ茶のブリーフケース。
中身は筆記用具とハンカチと今日中に終わらなそうな書類にスマホ。
以上。

豊見とよみさん。豊見勢とよみせいさん。どうぞ」

漂白剤で漂白したような白さに異常さを感じ怯えていると呼ばれた。
たぶんあの診察室からだ。
得体のしれない人物の登場に緊張する。

手に汗がにじみブリーフケースの持ち手が少し滑る。
落とさないようにしっかりと握りなおした。
鞄を落としそうになったことによって余計に緊張してしまって喉が勝手に唾液を飲みこむ。

誰も居ない真っ白な空間にゴクリと音が響いた。
その音にうろたえてタタラを踏む。
するとタンッタンッとタップダンスのような音が無機質な空間に響いた。

「ヒッ」

なんとなく自分が失敗したような気がして小さい悲鳴がもれた。
尻餅をつかなかっただけまだマシだ。
そう言い聞かせてドアへ歩きだす。

たかが数メートル先なのにとんでもなく遠い気がする。
なぜかわからないが死刑台にむけて歩いてる気分だ。
そんな気持ちだから足取りが重い。

十数歩あるいて着いてしまった先。
横スライドのドアをじっと見つめる。

これを開けてしまったらもう戻れない。
そんな確信がある。

でもよくよく考えてみれば今の処遇しょぐうに未練はない。
うん。
呼ばれたんだし開けよう。

俺はその純白の取っ手に手をかけた。
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