”オマケ”の狐はお暇したいと思います

雨宮天音

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Ceci n'est pas une rêve.(これは夢ではない)

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ケーレブさんは床にブン投げた黒いトランクを開ける。
中身は医療器具らしきものが大量に詰まっていた。

そのうちの1つ。
竹か木でできた薄ひらべったい板をケーレブさんは手に取った。
スノーボードを手の平大より少し大きめにしたような形だ。

「口を開けろ」

言われたとおり口を開く。
すると。
木の板でペタペタ舌を押さえられた。

「口腔内に炎症はない。あー」

ケーレブさんは木の板で俺の舌を根本まで押さえて。
あーと言えという。

あー。
やっぱり声は出ない。

ケーレブさんが木の板を折ってポケットに入れた。
そのまま俺の首の横をさわる。

扁桃へんとうの色も綺麗でれもなし」

ケーレブさんがまたトランクをあさった。
そこから黒いチューブ状のなにかを出す。
親指ぐらいの太さのチューブだ。

それから。
モニターみたいな四角い箱を取り出した。

「飲みこめ」

おえっ。
冷たいチューブを喉に差しこまれる。

ぐいっとつっこまれたチューブのせいで。
夕飯の鮭と梅干しとツナマヨと期間限定のエビチリ。
4種類のおにぎりがごちゃ混ぜになったのが出てきそうだ。

「んー。咽頭いんとうれもない。はい、あー」

じーっ。
とモニターを睨むケーレブさんに声を出せと言われた。

あー。
うぇ。
喉にもの入れたまま声出すもんじゃない。

声帯せいたい、はー、と。れもなさそうだし赤くもないようだ。でも動かない」

チューブを取り出したケーレブさんは怪訝そうに顔をゆがめる。

「なにが問題なんだ?」

あ。
そういえば。

【先ほど少し声が出てました】

そう紙に書くとケーレブさんは目をむいた。

「いつだ!どうやって声を出した!」
「お止めください猊下げいか!トヨミ様が驚いておいでです」

ぐぇっ。
ケーレブさん俺の胸ぐらをつかんでゆすってくる。

ギブギブ。
助けてセコンド。

プロレスじゃないけど。
ベッドをバシバシ叩いて助けを求める。

そしたら。
ドーソンさんが助け船を出してくれた。

次の瞬間。
パッと手を離されて。
反動で壁に頭をぶつけた。

痛い。
地味に痛い。

あーもー。
なんだこの夢。
痛いことばかりじゃないか。

ぶつけた辺りをなでていると。
突然頭という急所をさわられた。
思わずその手から逃げる。

手の正体を見ると。
ケーレブさんだった。

ケーレブさんは空中をさ迷わせていた手を引っ込める。
頭にたんこぶがないかてくれようとしたんだろうか?

それなら。
ないから大丈夫。

「失礼します」

と硬い声で言うと。
ドーソンさんが俺とケーレブさんの間に割ってはいった。

そのまま。
布団の上にちらばった紙と万年筆を拾ってくれる。
さっき胸ぐらをつかまれたときに散らばったみたいだ。

万年筆はカバーにシミを作っていた。
あーあ。
歯磨き粉歯ブラシで叩いてぬったら取れるかな?

ありがとう。
ドーソンさんに一礼して受けとる。

「トヨミ様、痛みは?」

俺の額をなでるように前髪をかき上げながら。
ドーソンさんは俺に頭の痛みの有無をたずねた。

首を横にふって否定する。
ちょっと痛いけどたいしたことないから。

「チッ」

舌打ちしたよこのチンピラ司祭しさい
あんたに胸ぐらつかまれなきゃこんなことなってないんだよ。
人の胸ぐらつかむとか司祭のやることか?

いろいろ言いたいけど。
それは心の中にしまって。
さっき声が出てたときの状況を紙に書く。

書いていると。
耳を軽く引っ張られた。

何事かとチンピrごほん。
ケーレブさんの方を見た。

なにやらいろんな方向に引っぱられて。
それから耳を解放された。

耳の形が変わったからか。
さわられると変な感じだ。
自分の耳じゃないみたい。

今度は。
髪を軽く引っぱられる。

そのまま。
ぶつけたあたりを撫でられて。

「耳にケガはなし。タンコブもない」

なるほど。
ケガの確認か。

いいって言ったのに。
あ。
言えてないか。

書きあがったので。
万年筆の裏側でトントンと紙を叩く。
ケーレブさんはやっとこちらを見た。

【鼻歌を歌っていた時には声が出ていました】
「鼻歌?なんで鼻歌なんか」

歌いたい気分だったんです。
どーでもいーでしょう。
鼻歌歌う理由なんて。

「今歌えるのか?」

歌えるか歌えないかで言えば。
たぶん歌えるはず。
だからうなずく。

どれがいいだろう?
ケーレブさんは司祭しさいだし。
教会音楽がいいだろう。

すっと息を吸って歌い出す。
クリスマスキャロルの1つ。
《我らはきたりぬ》という曲だ。

東方三賢者がキリストの元をおとずれ。
キリストの誕生を祝った。
その時のことを歌ったキャロルだ。

「おい!待て!ヤメロ!」

え?
そんなオンチだった?
鼻歌レベルの歌をうたうのをやめる。

『トヨミ』

ドーソンさんが。

『ヒョウ』

群青君が。

『貴方が』

ワイン君が。

『『『ケガレを祓う方法は、これではないでしょう?』』』

言った。

『『『正しい方法で、ケガレを祓いなさい』』』

3人が3人。
目はこちらを向いたまま。
まばたきをせず。

直立不動で。
まるで機械が自動でうごいて話しているような。
そんな異様な光景だった。

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