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Ceci n'est pas une rêve.(これは夢ではない)
幕間2-1
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「なんだあのオキツネサマは!」
不躾に部屋に入ってきた淡いストロベリーブロンドの男は。
チョコレートブラウンの髪の男をがなり立てる。
すると。
がなり立てられたほうの男の目は笑みの形をとり。
心底おかしそうに笑った。
「不躾にドアをノックしたあげく、返事も待たずに、開口一番それかい?」
「へぇへぇ。申し訳ございませんジェラード殿下」
「私は特段気にしていないけどね。教会の品位を落とすような言動は、どうかと思うよ」
「はたして、落ちるほどの品位なんて、教会にありましたかね?」
淡いストロベリーブロンドの男は皮肉げに笑う。
司祭の地位を得ているはずのこの男は。
教会に敬意をはらうつもりは微塵もないらしい。
チョコレートブラウンの髪の男―ジェラード―は。
自らの執務室の椅子から立ちあがりながら。
入り口近くの応接ソファーを見やった。
薄桃色の髪のがさつな男は。
席をすすめる前にもう座っていた。
長い足を優雅に組んでくつろいでいる。
それがいつものことなのか。
ジェラードは気にした様子もなく。
男の前に腰を下ろした。
それを待っていたように。
白い祭服の男が口を開いた。
「お前さ、部下に猊下って呼ばせんな。俺は、この教区を、牛耳るつもりはない」
大司教の座を狙うつもりはない。
とケーレブは言外に宣言する。
すると。
ジェラードは皮肉げに笑うと言った。
「手厳しいねケーレブ司祭は」
「その、名前で呼ぶってのもやめろ。あんたたちと違ってテンプルトンって苗字がある。テンプルトン司祭だ」
あんたたちと違う。
それを強調したケーレブに。
ジェラードの笑みが一瞬強張った。
けれども。
ジェラードはケーレブに向かって。
意味ありげにニコリとする。
まるで。
ケーレブの言うことは聞きたくない。
と言わんばかりに。
そこに。
ティーセットを持った侍従が到着する。
ジェラードの意を汲んだいいタイミングだ。
侍従は2人の前にティーセットを順にならべ。
双方のティーカップに暖かいお茶を注ぐ。
ティーカップからカモミールのいい香りがたちこめた。
「で。私が保護したオキツネサマがどうしたんだい?私が診察を指示したと思うんだが」
あからさまに話をそらしたジェラードに。
ケーレブは深いため息を一つ。
「あれはなんだ?知らずに魔法を使うは、ミコ様が教会でしかできないはずのカミオロシをやってのけるは。正直、教会から隠さないと、教会に飼い殺されるか、殺されるぞ」
「へぇ。こちらがアタリだったのか。それはマズいな」
ジェラードはマズいと思っていないような口調で言った。
実際にマズいとは思っていないのだろう。
そんな調子のジェラードを司祭が睨む。
「お前、あのオキツネサマをどうしようってんだ」
「あははっ。ケーレブ司祭。いくら君でも、オキツネサマの今後を教えるのは、ね?」
教会にオキツネサマの情報をもらす。
そんなマヌケだと思っているのか。
とジェラードはケーレブに笑みで返す。
すると。
ケーレブは目をそらして舌打ちする。
結局。
ケーレブは教会側の人間だ。
そう思われていることに苛だちを隠せない。
教会側でも王城側でも。
どちらでもないのに。
今ケーレブが口を開けば。
そんなことが口をついて出てくるだろう。
そんなことを口走るのはケーレブの本意ではないので。
カモミールティーとともに喉の奥へ飲み下した。
一拍あけて。
話題をもどした。
「あのぶっ飛んだ黒天使よかマシだが。あれはあれで爆弾だぞ。天下の第一大隊サマでも御せるかどうか」
倒れていた魔法使いの症状を勝手に判断して。
あやまった方法で治療しようとした黒い羽の天使。
アレがケガレを祓って回るよかマシだとケーレブは言う。
あのケーレブ司祭をして。
ぶっ飛んだと言わせるあの黒い羽の天使は。
相当なのだろう。
「あの黒天使はそんなにヒドいのかい?」
「ヒドいなんてもんじゃない。ケガレ中毒一歩手前で倒れた魔法使いに、魔力?だかなんだか知らんが、それが切れたとかなんとか言って、突っこもうとしやがった。なんだ?今までの黒天使もあんなんだったのか?」
ケーレブがひととおり文句を吐き捨てる。
それを聞いていたジェラードはゲラゲラ笑った。
「魔力が、切れる、なんて、アハハ、傑作だね。見てみたいよ、そんな現象。バカそうでいいじゃないか。囮にはちょうどいい。おだてて派手に目立たせておくべきだな。教会への報告は、黒天使のみが能力を持っていたと伝えよう」
「御意に。ジェラード様」
左胸に手をあてて礼をするという。
仰々しく慇懃無礼なしぐさでケーレブは応じた。
いたずらっぽく片目を閉じて。
そんなケーレブにジェラードはクスクスと笑う。
ケーレブが言った冗談がウケたようだ。
「ケーレブ。私のことはお兄様って呼んでくれてもいいんだよ」
「冗談言わないでくれジェラード殿下。首が飛ぶ」
心底嫌そうな顔でケーレブは応じた。
「残念」
ジェラードは本当に残念そうに言った。
不躾に部屋に入ってきた淡いストロベリーブロンドの男は。
チョコレートブラウンの髪の男をがなり立てる。
すると。
がなり立てられたほうの男の目は笑みの形をとり。
心底おかしそうに笑った。
「不躾にドアをノックしたあげく、返事も待たずに、開口一番それかい?」
「へぇへぇ。申し訳ございませんジェラード殿下」
「私は特段気にしていないけどね。教会の品位を落とすような言動は、どうかと思うよ」
「はたして、落ちるほどの品位なんて、教会にありましたかね?」
淡いストロベリーブロンドの男は皮肉げに笑う。
司祭の地位を得ているはずのこの男は。
教会に敬意をはらうつもりは微塵もないらしい。
チョコレートブラウンの髪の男―ジェラード―は。
自らの執務室の椅子から立ちあがりながら。
入り口近くの応接ソファーを見やった。
薄桃色の髪のがさつな男は。
席をすすめる前にもう座っていた。
長い足を優雅に組んでくつろいでいる。
それがいつものことなのか。
ジェラードは気にした様子もなく。
男の前に腰を下ろした。
それを待っていたように。
白い祭服の男が口を開いた。
「お前さ、部下に猊下って呼ばせんな。俺は、この教区を、牛耳るつもりはない」
大司教の座を狙うつもりはない。
とケーレブは言外に宣言する。
すると。
ジェラードは皮肉げに笑うと言った。
「手厳しいねケーレブ司祭は」
「その、名前で呼ぶってのもやめろ。あんたたちと違ってテンプルトンって苗字がある。テンプルトン司祭だ」
あんたたちと違う。
それを強調したケーレブに。
ジェラードの笑みが一瞬強張った。
けれども。
ジェラードはケーレブに向かって。
意味ありげにニコリとする。
まるで。
ケーレブの言うことは聞きたくない。
と言わんばかりに。
そこに。
ティーセットを持った侍従が到着する。
ジェラードの意を汲んだいいタイミングだ。
侍従は2人の前にティーセットを順にならべ。
双方のティーカップに暖かいお茶を注ぐ。
ティーカップからカモミールのいい香りがたちこめた。
「で。私が保護したオキツネサマがどうしたんだい?私が診察を指示したと思うんだが」
あからさまに話をそらしたジェラードに。
ケーレブは深いため息を一つ。
「あれはなんだ?知らずに魔法を使うは、ミコ様が教会でしかできないはずのカミオロシをやってのけるは。正直、教会から隠さないと、教会に飼い殺されるか、殺されるぞ」
「へぇ。こちらがアタリだったのか。それはマズいな」
ジェラードはマズいと思っていないような口調で言った。
実際にマズいとは思っていないのだろう。
そんな調子のジェラードを司祭が睨む。
「お前、あのオキツネサマをどうしようってんだ」
「あははっ。ケーレブ司祭。いくら君でも、オキツネサマの今後を教えるのは、ね?」
教会にオキツネサマの情報をもらす。
そんなマヌケだと思っているのか。
とジェラードはケーレブに笑みで返す。
すると。
ケーレブは目をそらして舌打ちする。
結局。
ケーレブは教会側の人間だ。
そう思われていることに苛だちを隠せない。
教会側でも王城側でも。
どちらでもないのに。
今ケーレブが口を開けば。
そんなことが口をついて出てくるだろう。
そんなことを口走るのはケーレブの本意ではないので。
カモミールティーとともに喉の奥へ飲み下した。
一拍あけて。
話題をもどした。
「あのぶっ飛んだ黒天使よかマシだが。あれはあれで爆弾だぞ。天下の第一大隊サマでも御せるかどうか」
倒れていた魔法使いの症状を勝手に判断して。
あやまった方法で治療しようとした黒い羽の天使。
アレがケガレを祓って回るよかマシだとケーレブは言う。
あのケーレブ司祭をして。
ぶっ飛んだと言わせるあの黒い羽の天使は。
相当なのだろう。
「あの黒天使はそんなにヒドいのかい?」
「ヒドいなんてもんじゃない。ケガレ中毒一歩手前で倒れた魔法使いに、魔力?だかなんだか知らんが、それが切れたとかなんとか言って、突っこもうとしやがった。なんだ?今までの黒天使もあんなんだったのか?」
ケーレブがひととおり文句を吐き捨てる。
それを聞いていたジェラードはゲラゲラ笑った。
「魔力が、切れる、なんて、アハハ、傑作だね。見てみたいよ、そんな現象。バカそうでいいじゃないか。囮にはちょうどいい。おだてて派手に目立たせておくべきだな。教会への報告は、黒天使のみが能力を持っていたと伝えよう」
「御意に。ジェラード様」
左胸に手をあてて礼をするという。
仰々しく慇懃無礼なしぐさでケーレブは応じた。
いたずらっぽく片目を閉じて。
そんなケーレブにジェラードはクスクスと笑う。
ケーレブが言った冗談がウケたようだ。
「ケーレブ。私のことはお兄様って呼んでくれてもいいんだよ」
「冗談言わないでくれジェラード殿下。首が飛ぶ」
心底嫌そうな顔でケーレブは応じた。
「残念」
ジェラードは本当に残念そうに言った。
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