偽りの愛など必要ありません。さっさと消えてください。

秋津冴

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愛情

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 神、エルリオは楽しそうにそう言った。
 一つの家族の危機も、創造主にかかれば単なる娯楽になるらしい。
 そこはかとなく漂うもて遊ばれている感覚に、怒りを覚えるミリアだった。
 エルリオはそのことに気づいたのか、手を一振りする。
 そこには、燭台に似た何かがあった。
 それはチェスの駒にもよく似ている。
 王の、キングの駒の用だった。

「何? 蠟燭を点す……」
『剣だよ。そうは見えないかもしれないが、きちんとした剣だ。それで打ち下ろせば、魔は祓える。退治できる。やり方わかるだろ?』
「夫が私にしたように……?」
『そうその通り。よくわかってるじゃないか。そうすれば妖精は哀れ焼け焦げた肉片となるだろう。魔女が悲鳴を上げてどこかに消えるだろうね。そして、二度とやってこない』
「なぜそう言い切れるのですか。悪魔のような相手なら執念深いはず」
『それほどの力を残さないからだよ。後はウジ虫のように這いつくばりどこかで悶え死ぬばかり。あの牢獄の中で君がそうされたように――今度は、分かるな、ミリア』

 エルリオの言葉にミリアは静かに肯く。
 手のひらの中に収まるそれを、そっと手にした。
 これならばポケットに入れとけば持ち運びも楽だと思えた。
 でもどこで使えばいいのかな、と眉根を寄せる。
 魔女と呼ばれたあの娘。
 彼女と初めて顔を合わせたのは、鉄格子の向こう側だ。
 何も手出しができない状況に陥っているそんな時。これを振りかざして魔女を打ち祓うのは、随分と難しい気がした。

「どうすれば、いいのですか」
『そこは自分で考えてくれよ、と言いたいのだけれど。まあ時間も短い、特別だよ』
「こんな切羽詰まった状況に陥っていなければ神に助けを乞うことなどありません」
『それは確かに正論だ。まあ、君の敬虔な信徒ぶりに免じて……知恵を与えるとするか』
「いえそれだけでは」
『うん?』

 エルリオはミリアの言葉に得心がいかなかったらしい。
 どういうことだ、と問いかけてきた。

「私のことはどうでもいいのです。子供達に祝福を与えていただきたい……。あの子達が迷うことなく人生を全うできるよう、創造主の加護をいただきたいと思います」
『贅沢な望みだな』
「心得ております」
『なぜ自分を大事にしようとしない。それほどまでに子供が大事かい』
「……この命に賭けても。あの子たちを守り抜きたい。母親ならば誰でもそう思うところです。母ならば」
『不思議な感情だ。世界を作り人間を作って多くのものを見てきたけれど、僕は知らない感情だ』

 納得のいかない顔をするエルリオに、ミリアは今度は逆に諭すように言った。
 いつかこの不憫な孤独の神々の王様にも、その女性が現れて欲しいと、そう願う。
 それはどんな想いよりもエルリオに届く、愛のささやきだった。

「あの子達を守っていただけるでしょうか」
『子供という意味であれば妖精だって魔女の子供だ』
「え……?」
『同じ胎を痛めて産んだ、そんな存在だよ』
「……」

 その後に続くエルリオの神託に耳を傾けながら、ミリアの心には複雑な想いが渦巻いていた。
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