16 / 30
16
しおりを挟む「水竜の好む食材……で、ございますか」
イリヤはわたしの質問に、困ったような顔をする。
片方の眉尻を下げて、瞳は宙をさまよい出す。
どうやらわたしにとっての常識は、侍女にとっての非常識らしい。
うーん、と悩むとよく分かりませんと首を傾げた。
こちらに向かいティーカップが差し出される。淹れたてのお茶はほんのりと甘い香りがした。
「知らなくても無理はないけれど、知っておいて欲しかったな。わたしの侍女なら」
「申し訳ございません」
謝罪しつつも彼女の両手は止まらない。
陛下とお会いした後に、わたしの周りで侍女たちは世話しなく働いていた。
見る見る間に離宮の玄関へと荷物が用意されていく。
そう、ベネルズの街に向かうための旅支度を彼女たちはやっているのだ。
わたしはそれを横目に、玄関横のテラスに設えたテーブル席で、のんびりとイリヤを相手にお茶を飲み、竜に関する会話を楽しんでいた。
「竜にはその種族ごとに好きな食材があるの。飛竜は美味しい風を追いかけるし、地竜は魔素の濃厚な地下を好むのよ」
「人や動物が食するように動植物ではないのですね」
「そうでもないわよ。地竜の種類は地上にもたくさんいるし、騎馬代わりになる騎竜の類は狼や虎と同じように雑食だしね」
「それではあの港町を騒がせている海竜? あれ、水竜?」
わたしの話し相手をしながら、イリヤはおかしいなと片眉を上げた。
左上に視線を向け、過去の記憶を探るような仕草をして見せる。
海竜と水竜は棲息地が違うだけで、種族は変わらない。
帝国の竜騎士ならみんな知っていることなのだけれど……。
「種類は同じなのよ。外観は変わらないしね。貴方もみたことあるはずよ、イリヤ」
「……竜と言えば姫様、いいえ。奥様が帝国で可愛がっておられた、飛竜しか知りませんよ」
「フィンのことね」
「え? あの蒼い飛竜……ですよね? あれが水竜? 空を飛ぶのに?」
「基本的に竜種は空を飛ぶわよ?」
「えええっ」
「だって飛ばないと――」
水竜が空を飛ぶ。
空のような蒼、緑の瞳のフィンが脳裏に思い浮かんだ。
レジーとの間にできた子供たちと上手くやっているかな、と心で彼らを懐かしむ。
そういえば、フィンは水竜にしては人を嫌わない存在だった。
もしかしたら人と共に生きる妻のレジーに気を遣っているだけだったのかもしれない。
「飛ばないと、冬を越せない? でも竜なのに、渡り鳥のようなことをする必要、あるのかしら……」
「東にある公国の更に向こうに、竜の住む大地があるのよ。人が行き着けない場所らしいけれど、詳しくは分からないかな」
「はあ。でも奥様。そうだとしましたら、冬になればあの騒動も収まるのでは?」
と、イリヤは不思議そうに訊いてくる。
そうね、冬になれば王国の一部は深い雪に閉ざされるけれど、問題の起きている地方はその一部に含まれない。
竜には竜の習慣があって、けれど、冬場でも港の外洋に水竜が現れて悪さをする。
「もしかしたら、戻るべき場所を見失った迷子なのかもね」
「迷子? 竜がですか?」
「だって人だって迷うでしょ? 特に若かったり、年老いたりしたらそれは言わずもがな。餌の豊富な猟場から離れなくなってもおかしくないわ」
「そういう……あれ、でも奥様。水竜の好むものって何ですか」
それはね――、とわたしは茶菓子を選り分けるための、フォークを持ち上げた。
10
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
契約婚しますか?
翔王(とわ)
恋愛
クリスタ侯爵家の長女ミリアーヌの幼なじみで婚約者でもある彼、サイファ伯爵家の次男エドランには愛してる人がいるらしく彼女と結ばれて暮らしたいらしい。
ならば婿に来るか子爵だけど貰うか考えて頂こうじゃないか。
どちらを選んでも援助等はしませんけどね。
こっちも好きにさせて頂きます。
初投稿ですので読みにくいかもしれませんが、お手柔らかにお願いします(>人<;)
殿下の御心のままに。
cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。
アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。
「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。
激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。
身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。
その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。
「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」
ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。
※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。
※シリアスな話っぽいですが気のせいです。
※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください
(基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません)
※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。
華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。
嫌な予感がした、、、、
皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう?
指導係、教育係編Part1
[完]僕の前から、君が消えた
小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』
余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。
残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。
そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて……
*ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました
みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。
ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる