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聖杖と旅立ち
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「なりたいやつはなればいい。聖女様がそうなされると決めたなら、俺はその一翼になろう。だが俺はそうは思わない。あの方のお側で、俺の子供たちがこの呪いから解放されるなら‥‥‥それが、グレイスター辺境伯家の悲願でもある」
「不器用なやつだ」
「なんとでも」
大神官の嫌味を肩で受け止めて背中に流した。
後ろにいた女官が食らったらごめんと思いながら。
「ならせめて、杖になって差し上げろ。元々、お前の領地だしな」
「杖?」
耳慣れない単語が、鼓膜を打つ。
誰かを支えるという意味に取ればよいのか、判断に迷った。
「王の杖、と書いて、王杖と呼ぶ」
「はあ。まあ、そういう見方もあるか。宰相のことだよな」
そうだ、とポーツマスは頷いた。
「ならば、お前は聖人の杖になれ」
「……それって大神官の役割では?」
違う、と否定された。
「大神官は神殿を統べる。聖人の俗世間における支えは、別の者が必要だ。枢機卿、教皇、法王。いろいろな役職があるが、どれもすべて教会組織を統治するためのものだ。聖人の支えになるものではない」
「だから、聖人の杖‥‥‥つまり、聖杖、か。王杖ならぬ」
「そういうことだ。それくらいの大任、背負ってもいいだろう? お前が言い出したのだから」
「間違いない‥‥‥」
代理権を持つ、聖杖。
つまり、聖人の身代わりもまた、務めなければならない。
世間から聖女が非難の嵐に晒されたときなどは、自分がその命を費やして、責任を負えばいい。そういうことだ。
「では、拝命すると致しましょう。グレイスター辺境伯アレクセイ。その聖杖とやらに、生涯をかけることを誓います」
「うん。まあ、それでいい。ところで」
「は?」
せっかく恰好よく一礼をして見せたのに。
ポーツマス大神官は緊張感をぶち壊して、のんきにお茶を啜り始めた。
「お前とマルゴットの間を取り持つなんてことは、絶対に! 絶対にわしはせんからな! あの子をどれだけ大事に育てて来たと思っておるんだ。鷲の目の黒いうちは――」
「あ、はいはい。俺も願いが全部かなうなんて思ってないから。大丈夫だよ」
そう言い、ポーツマスをいなすとアレクセイは来たときのように、また掻き消えていなくなってしまった。
聖なる杖。
世にも珍しいその職位を後の人々はこう呼んだ。
西の大陸を統一した偉大なる戦女神の聖女の杖。
統一国家となったのちに改名した国の名を取り、聖教国メイブリースの聖なる杖。
メイブリースの聖杖、と。
それから二週間。
アレクセイは寝る間を惜しんで、各地の有力者や同盟国の盟主の元を訪れては、聖女を擁する国の勃興に協力するように、彼らを説いて回った。
国内だけと言わず、国外や海外の知人たちにも尽力を願った。
その範囲はあの新興貴族、レゾンド伯爵がやってきたという南の大陸にまで及んだ。
もちろん、聖女を巻き込んだその伯爵が、この事件から数ヶ月したときには、この世のどこにも存在しないようにしたのもアレクセイだ。
正しくは大神官とパルシェスト国王、そして、アレクセイの尽力だったが。
そして、聖女を迎え入れた辺境伯領は聖教国と名を変える。
アレクセイがそのままの勢いでプロポーズを申し込んだら、半年ほど時間がかかったが聖女マルゴットはいろいろと条件付きで受け入れてくれた。
二人は結婚式を挙げ、しかし、アレクセイは聖杖のままで奢ることなく、妻にその愛を注ごうとしていた。
そんな矢先のことだ。
かつて幼年時代を過ごし、魔法と古代文字に揉まれて研鑽した資源国家ロイデン。
そこの兄弟子にあたるある貴族から、病床に伏せっているロイデン国王をどうか救って欲しいと聖女宛てに書状が届いたのは。
「不器用なやつだ」
「なんとでも」
大神官の嫌味を肩で受け止めて背中に流した。
後ろにいた女官が食らったらごめんと思いながら。
「ならせめて、杖になって差し上げろ。元々、お前の領地だしな」
「杖?」
耳慣れない単語が、鼓膜を打つ。
誰かを支えるという意味に取ればよいのか、判断に迷った。
「王の杖、と書いて、王杖と呼ぶ」
「はあ。まあ、そういう見方もあるか。宰相のことだよな」
そうだ、とポーツマスは頷いた。
「ならば、お前は聖人の杖になれ」
「……それって大神官の役割では?」
違う、と否定された。
「大神官は神殿を統べる。聖人の俗世間における支えは、別の者が必要だ。枢機卿、教皇、法王。いろいろな役職があるが、どれもすべて教会組織を統治するためのものだ。聖人の支えになるものではない」
「だから、聖人の杖‥‥‥つまり、聖杖、か。王杖ならぬ」
「そういうことだ。それくらいの大任、背負ってもいいだろう? お前が言い出したのだから」
「間違いない‥‥‥」
代理権を持つ、聖杖。
つまり、聖人の身代わりもまた、務めなければならない。
世間から聖女が非難の嵐に晒されたときなどは、自分がその命を費やして、責任を負えばいい。そういうことだ。
「では、拝命すると致しましょう。グレイスター辺境伯アレクセイ。その聖杖とやらに、生涯をかけることを誓います」
「うん。まあ、それでいい。ところで」
「は?」
せっかく恰好よく一礼をして見せたのに。
ポーツマス大神官は緊張感をぶち壊して、のんきにお茶を啜り始めた。
「お前とマルゴットの間を取り持つなんてことは、絶対に! 絶対にわしはせんからな! あの子をどれだけ大事に育てて来たと思っておるんだ。鷲の目の黒いうちは――」
「あ、はいはい。俺も願いが全部かなうなんて思ってないから。大丈夫だよ」
そう言い、ポーツマスをいなすとアレクセイは来たときのように、また掻き消えていなくなってしまった。
聖なる杖。
世にも珍しいその職位を後の人々はこう呼んだ。
西の大陸を統一した偉大なる戦女神の聖女の杖。
統一国家となったのちに改名した国の名を取り、聖教国メイブリースの聖なる杖。
メイブリースの聖杖、と。
それから二週間。
アレクセイは寝る間を惜しんで、各地の有力者や同盟国の盟主の元を訪れては、聖女を擁する国の勃興に協力するように、彼らを説いて回った。
国内だけと言わず、国外や海外の知人たちにも尽力を願った。
その範囲はあの新興貴族、レゾンド伯爵がやってきたという南の大陸にまで及んだ。
もちろん、聖女を巻き込んだその伯爵が、この事件から数ヶ月したときには、この世のどこにも存在しないようにしたのもアレクセイだ。
正しくは大神官とパルシェスト国王、そして、アレクセイの尽力だったが。
そして、聖女を迎え入れた辺境伯領は聖教国と名を変える。
アレクセイがそのままの勢いでプロポーズを申し込んだら、半年ほど時間がかかったが聖女マルゴットはいろいろと条件付きで受け入れてくれた。
二人は結婚式を挙げ、しかし、アレクセイは聖杖のままで奢ることなく、妻にその愛を注ごうとしていた。
そんな矢先のことだ。
かつて幼年時代を過ごし、魔法と古代文字に揉まれて研鑽した資源国家ロイデン。
そこの兄弟子にあたるある貴族から、病床に伏せっているロイデン国王をどうか救って欲しいと聖女宛てに書状が届いたのは。
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