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第二話
しかし、このときは他に優先することがあったのか、顔に現れていた不機嫌さは、すっと消えてしまった。
貴公子の仮面の下には、冷酷非道なサディストが潜んでいるというのに。
そのことをまだ知らないあの新しい女に、少しだけ同情してしまうほどだった。
「まあ、いい。その話はこの場が終わった後にしよう。まだ学院の授業も終わっていない。いまは昼休みだしな。また今夜だ、アイナ。それで、彼女を改めて紹介しておこう。」
「ミザリーでございます、アイナ様。お初にお目にかかります。今後もよろしくお願いします」
スカートの裾をおり、中腰になって軽くしゃがみ込む。
この場に立つにふさわしい淑女としての、最低限のマナーは心得ているように見えた。
それならば、貴族の子女かと思い、あいさつ代わりに質問する。
「レイダー侯爵令嬢アイナ、です。ミザリー‥‥‥様は、どちらのご家族の方かしら?」
「は? どちらかって、どういう意味?」
「ですから、どちらの御家門。どちらの貴族様の御令嬢かと、そう質問しております」
「……ただの、ミザリーです。家名はございません」
周囲から失笑が漏れた。
それを聞いて、ただでさえ屈辱に顔を赤く染めた彼女は、さらに浅黒く顔色を変化させる。
面白い物笑いのネタができたと、同級生たちが小声で言っているのも、私の耳に飛び込んでくる。
そちらをにらんで黙らせる。
でも、ミザリーの機嫌は最高に悪かった。
「殿下! 馬鹿にされました!」
「ミザリー、ああ僕のミザリー。済まなかった、あんなに気が利かない女だと思わなかったのだ」
「悔しいですっ。どうにかしてください!」
周囲の在校生は、愚かしくも可愛らしいミザリーに苦笑を浮かべるしか出来なかった。
ここは学院。
王国内外の貴族子弟子女や王族、有力商人の子供たちや、学者の一族の子弟たちなど。
家名を持ち、家柄が悪くない出自のものばかりが、集う場所だ。
だから、質問してみたのだけれど。
「アイナ、彼女に恥をかかせたな! なんて、冷酷非道な女なんだ!」
「どういうこと? いきなりやってきて、当たり前の挨拶を交わしたのに‥‥‥」
「黙れ! この爬虫類のような女め!」
と、殿下の罵りが、私たちが会話をしている学院の建物の中央に位置する、大ホールの吹き抜けへと消えていく。
「申し訳ございません‥‥‥てっきり、どこかの貴族令嬢かと思いましたので‥‥‥」
「ひどいっ、そんな、二度もいって辱めるなんて!」
そう言うと、ミザリーの顔に屈辱の色が浮かんだように見えた。
礼儀作法からしても、喋り方からしても、どこか裕福な商人か、それとも学者の一族の娘か、貴族令嬢だと思ったのだけれども。
どうやら、そうではないようだった。
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