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第五話
そんなやりとりを交わしている間にも、ロイデンの誰何の声は幾度となく彼に投げつけられては、無視されていく。
とうとう、第二王子はしびれを切らしたらしい。
傍らに抱いていたミザリーを押しのけると、その足で私達の前までドスドスと近づいてきた。
その無遠慮な腕が、私の肩にかかろうとすると、彼は「無作法だ」と短く吐き捨てて、王子の二の腕をねじり上げる。
騎士団を率いている者とは思えない鈍重さの、私を罵倒した男は、やすやすと紳士によって押さえつけられてしまった。
「ぐあ―ーっ!」
「情けない声を出すな。それでも王族か? それでも次期国王候補か?」
私は人体の構造になんて明るくない。
それでも、紳士の捻り上げた腕の角度は、どうみても第二王子の腕をへし折ってしまいそうに見えて、青ざめる。
もし、怪我でもさせたら‥‥‥そう思うと、先に待っている未来が見えてしまい、空恐ろしい想像をしてしまった。
「ぐっ、ぐぎっいいい――‥‥‥っ、きさま、どこの――ぎゃあっ、者、だ!」
「おやおや、痛いと叫びながら、同時に質問までできるのか。これは便利な口をお持ちだな」
ひぎいいいいっうううっ、とだらしのない声が大ホールの天井にこまだする。
見ているだけで痛々しそうで、さらに声まで耳にしたら、こっちまで痛みが湧き起こりそうな、情けないロイデンの悲鳴だった。
「このっ、おのれッ! 僕をこんな目に遭わせるなんて、あとで‥‥‥!」
「あ? 後でなんだ。酒でもおごってくれるのか。それとも、闇討ちでもしようとでもいうのか? おまえの気まぐれで女に暴力を振るっておいて、自分が酷い目に遭ったらやり返すのか。それがこの国の王族のやり方か?」
「いぎっ‥‥‥ァ」
ぎりっと。
再度、紳士が腕をねじ上げたらしい。
彼は笑顔でそれをこなしてしまう人だった。
そこには情けとか、容赦するとか。そういった優しさは一辺も見当たらない。
第二王子とはまた別の意味で、恐ろしい人だと感じてしまった。
もしかしたら‥‥‥笑顔で人を殺せる人。そんな人種かもしれないと。
「だらしない奴め。気絶してしまった」
「へ? そんなっやり過ぎです!」
彼がなんの驚きもなく、さも当たり前のように言うものだから、こちらもああ、そうなんだー。と平然と受け流してしまうところだった。
当たり前どころではない。
これはれっきとした、王族侮辱罪の現行犯だ。
こんなところにいたら‥‥‥私まで。我が侯爵家まで累が及んでしまう。
助けてもらったくせに、そんな自分勝手な心配がさいしょに頭に浮かんだ自分を、礼儀知らずだと思う。
「やり過ぎ? あちらがやり過ぎだろう。それに俺には無関係だ」
「あなたには関係が無くても、私には! ‥‥‥大きく関係致します。でも、助けて頂いたことは忘れません、感謝いたします‥‥‥」
そう言い、俯いて謝辞を述べるしかできなかった。
振り向くと、あの男の新しい婚約者候補とやらが、ロイデンに駆け寄って金切声をあげて叫んでいた。
「殿下? 殿下ーっ! 誰かきて、王族に暴力を振るったのよ、あの男が! 誰かーっ!」
しかし、周囲の人の輪から誰かが寄ってこようという素振りをする者はいない。
それどころか、時間を追うにつれて、静かにみんな、どこかへと去って行こうとしていた。
誰もこんなことの関係者になりたくないのだ。
やってくるとしたら、衛兵か。
近衛衛士だろう。
そうして、私は逮捕される。
気絶して泡を吹いている、ロイデンの顔周りをハンカチで拭きながら、それでもミザリーは彼のことを心底、心配しているようだった。
そんな彼女を見下ろして、私の人生終わったなーと考えていたら、いきなり視界がぐらりと斜めに歪んだ。
いよいよ、衛士が到着して問答無用で床に押し倒され、捕縛されたのかと思ったら、違った。
「おい、逃げるぞ」
「へ? えええ――っ!?」
視界が傾いた原因。
それは、私をお姫様抱っこして、さっさとその場から駆け出していく、紳士のせいだった。
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