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第十話
彼らを見て、紳士‥‥‥こちらは名乗ったのに、まだ名乗りもしない彼は「ほう?」と面白そうなものを見つけた子供みたいな声を上げた。
それは決して小さなものではなく、距離からしても男たちに充分、届くだけの大きさだった。
ミザリーとチンピラまがいの貴族子弟たちは、それを煽られたと感じたのだろう。
「あ?」
「なんだよ、オッサン」
「怪我しないうちに消えたらどうだ? 騎士様の真似事かよ?」
「そうそう。老人はさっさと墓場に入って、二度と出てくんなよ」
なんて汚い言葉を次々と投げつけてくる。
彼らの手には短い棒だの、そこいらで手に入れた手ごろな石が握られていたり、足元にいくつも積まれていた。
まるで、こういった荒事を得意としているグループにしか見えない。
命までは取らないだろうけれど、身体の清らかさは守れないかもしれない。
そう思うと、足が小刻みに震えだしていた。
「先ほどはどうも、アイナ様。殿下の意識はまだ戻りませんわ‥‥‥まったく、なんてことをしでかして下さったの? そんな危険人物を学内に引き入れて、王族を危険に晒すなんて、制裁が必要だと思いません?」
「そうだ、そんなジジイ、さっさとやっちまおうぜ!」
「こっちの人数見てビビってんじゃね? 可哀想!」
などと、私刑。つまり、リンチにかける気満々で、彼らはこちらに向かい近づいてくる。
紳士をどう巻き込まないようにしたものだろうかと、考えを巡らすも、良い案は浮かばない。
そして、彼は‥‥‥この状況にまったく動じていなかった‥‥‥。
「老人? まだ二十七だぞ、俺は」
「いまはそのような状況ではありません! あなただけでも、早く逃げてくださいッ!」
「ご婦人を置き去りにして逃げるような腰抜けでもないんだよなあ、俺は‥‥‥」
と、彼のぼやきを聞いて、私は初めて彼という人の切れ端を掴んだ気分に陥った。
二十七‥‥‥やっぱり、どう考えても、お父様とは縁もゆかりもないと考えた方がただしい気がする。
などと考えていたら、私は歩みを止めてしまっていた。
こちらのそんな様子を見て、ミザリーは私たちが敵の人数の多さにおじけづいたとでも思ったのだろう。
さらに頬を耳まで捻じ曲げ、まるで魔女のような陰惨な顔つきで叫んだ。
「あらどうしたの? そこのおじ様に守ってもらわなきゃ、あなた一人じゃ何もできないのね。情けない王太子妃補様‥‥‥殿下が嫌気をさして離れたいっておっしゃった理由がわかるような気がするわ」
「うるさいわね‥‥‥」
「なにかしら? か弱いか弱いアイナ侯女様は、男の後ろに隠れていなきゃなにもできないようですわね」
彼女はこれから仕掛ける勝負に、もう勝ったも同然と考えているようだった。
自信満々に、外観だけは素晴らしいその胸を張り、教養のない眼差しで敵意をむき出しにして挑んでくる様は滑稽なものだった。
少なくとも、貴族令嬢はあんな物言いも、こんなあからさまな行動も取ることはない。
彼女たちには、無数の従者がいるからだ。
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