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第十八話
しおりを挟む殿下と呼ばれた彼、ロイデンとは王宮ではなく、王都の貴族街に彼が持っていた別邸でいつもあっていたから、王宮に上がるのは、婚約を祝ったあの夜会から数えて四年ぶりになる。
しかし、罪人として私を王宮に連れていくのも、なにかおかしい気がした。
罪人は牢獄と処刑場のすぐそばにある、王国騎士たちの務める塔に護送されるはずだ。
病床にある陛下に直接、謝罪というのも意味が通らない。
となると、貴族の最後にはありがちな神殿での服毒だろうか。
女神様の像の前で罪を認めた貴族に連なる者は、そういった高貴な死に方を与えられるのだと聞いたことがある。
神殿は王宮の隣にあるし、その意味では筋が通っている。
「そんな顔をするな。すぐに終わる」
「……申し訳ございません」
自分でも驚くほど、虚ろな返事になってしまった。
お父様の怒りは時間を経てすこしは落ち着いたのか、それともまだ静かにその炎を燃やし続けているのか。
言葉には抑揚がなく、その意味では、互いに相手の感情を推し量ることが出来ない状況だった。
こんな会話が最後の挨拶になるなんて嫌だな。
継母に弟とあの双子ちゃんたち。
彼らとは今朝交わした挨拶が、最後のものになるのだろう。
もう一度、異母弟妹たちを抱きしめて言いたかった。
姉としてまともな公務をできなくて、ごめんなさい、と。
「うっ、ううっ‥‥‥」
「アイナ、泣く奴があるか!」
「ごめんなさい、お父様。やっぱり、死ぬのは怖いの‥‥‥」
これまで尽くしてくれた家人たちともこれでさよならだと思うと、胸の奥からあふれ出すその想いを止める術を私は知らなかった。
侍女たちがせっかく綺麗にほどこしてくれた化粧も、やまない涙で崩れて流れてしまう。
すると父はどこか呆れた顔をして私に言ったのだ。
「死ぬ? どういう意味だ、それは」
「へ? だって、いま王宮に向かっていると」
「ああ、それはそうだが、どうして死ぬことになる?」
「王族侮辱罪‥‥‥」
「なにを馬鹿なことを!」
「えっ、えっ、え?」
「そんなことが許されるはずがないだろう!」
と、父は叫ぶように言った。
そのまま「なんていう誤解をするんだ、我が娘は」と悲しそうに天を仰ぎ見る。
誤解? いい加減にしてください、と叫びたいのはこっちの方だった。
まったく状況を理解できないでいる私に、これはきちんと説明した方がいいのだろうと父は感じたらしい。
「どこから話したものか‥‥‥」と、ぼやくように言うと、言葉を続けた。
「三日前だ。陛下の容態が回復した」
「……それは、おめでとうございます。でも、それがどうした、と‥‥‥?」
「お前も知っているだろう。聖教国のことを。そこの盟主たる聖女様が訪れて下さり、奇跡を授けて下さったのだ」
「はあ……それで」
今一つ、要領を得ない話だ。
国王陛下が病床にあったのは知っていたし、ロイデンがそれを良いことに好き勝手していることも彼がいつものように吹聴してくるから、知っていた。
「国王陛下の容態は、先月から悪くなるばかりでな。宮廷魔導師たちも、こちらの神殿の神官長たちの神聖魔法も、大して効果を為さない。おまけに、宮廷医師たちの薬も一時的な回復には向かっても、また悪くなるばかりだ」
「ロイデン様から耳にしてはいました。陛下もそう長くはない、と」
「そうだな。そこで、だ」
お父様はどこか自慢げに胸を張って言った。
自分の知縁が役に立つときが来たのだ、と。
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