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第二十一話
ロイデンは王子らしい気品も、あの不遜さも失って、その場にしゃがみ込む。
膝はがくがくと震えていて、立つ気力すら失ったらしい。
自分がこれから裁かれようとしていることに、絶望の色さえ浮かべていた。
「……陛下、違うのです。これは、何かの間違いだ‥‥‥」
「我が息子ながら情けない。怯えるだけか、立ち向かう気迫も、己がしたことに対する罪を認める器もない。おまけに自ら責任を取ろういという、気概すらない。なんと情けない男だ‥‥‥」
「父上! 助けてくださいっ、これはそうだ。あの女が、ミザリーが言い出したことです、そう。そうなんだ! 僕は悪くない!」
傍から聞いているとそれはまるで喜劇の一幕のようだった。
誰か陥れこれまでさんざん私のことを殴ってきたあのロイデンは、もうどこにもいない。
ただ己の命を守ろうともがいてあがいてそれでもどうしようもなくなって、無様に命乞いをする。
そんなただの愚者が、そこにはいた。
「お前から聞く言葉がそれしかないとはな。王妃のたっての頼みを聞き入れ、その命だけは救うことになるだろうが‥‥‥。一人の父親としてあまりにも情けない。お前のような息子を育ててしまった責任を感じずにはいられない」
国王陛下は悲しみに染まったその顔を左右に振り、一人の父親として息子を救うのか。
それとも国の長として、彼をさばくのか。
そのどちらかに重きを置くのかを、とても迷っておられた。
「陛下」
「だめよ。行ってはダメ」
「でも、聖女様‥‥‥」
一族のことが許されるならば。
婚約破棄を認めてもらえるのならば。
もう二度と彼の干渉を私が受けることがないようにしてくれるのならば。
私は、それ以上を望まないように、国王陛下に伝えようとしていた。
そうしたら、聖女様が私の言葉を遮るようにして、静かに首を振り、駄目だと告げられた。
「それだけの傷を与えられてあなたは本当に我慢できるの? 貴族の女だからという理由だけで己を殺してまで生きなければいけない理由がどこにあるの」
「でも、聖女様。今ここで彼を裁いてしまったら、王族の恥が国内外に知れ渡ってしまいます」
「いいじゃない。そうすれば」
「だって、それは王国の恥に‥‥‥ああ」
そこまで言って私は思い出してしまった。
この聖女様も約半年ほど前に同じような目にあったのだと。
彼女は気丈にも、元婚約者だった王太子を、どこかの塔に投獄させたのだと噂で耳にした。
それは死ぬまで許されることのない、死罪にも等しい罪だと聞く。
だけどそれは聖女という大いなる力があってこそ、許される我がままだ。
もし、今この場所でロイデンを同じような目に合わせたとしても、国王陛下が亡くなられた後に、また彼が解放されないとも限らない。
現に王妃様の嘆願で助命することにしたと、ついさっき、陛下がおっしゃられたばかりだ。
「ここはあなたが出る幕ではないわ、侯女様」
「はい‥‥‥聖女様」
今や、我が国の元首を助けた国の恩人にまでそう言われては、何もすることができない。
私は私で、自分の安全を考えるのか。
それとも一族全体の安全を考えるのか。
その二択を迫られている気がした。
そんな時だ。
声をあげたのは、この国の誰でもない。
あのアレクセイだった。
膝はがくがくと震えていて、立つ気力すら失ったらしい。
自分がこれから裁かれようとしていることに、絶望の色さえ浮かべていた。
「……陛下、違うのです。これは、何かの間違いだ‥‥‥」
「我が息子ながら情けない。怯えるだけか、立ち向かう気迫も、己がしたことに対する罪を認める器もない。おまけに自ら責任を取ろういという、気概すらない。なんと情けない男だ‥‥‥」
「父上! 助けてくださいっ、これはそうだ。あの女が、ミザリーが言い出したことです、そう。そうなんだ! 僕は悪くない!」
傍から聞いているとそれはまるで喜劇の一幕のようだった。
誰か陥れこれまでさんざん私のことを殴ってきたあのロイデンは、もうどこにもいない。
ただ己の命を守ろうともがいてあがいてそれでもどうしようもなくなって、無様に命乞いをする。
そんなただの愚者が、そこにはいた。
「お前から聞く言葉がそれしかないとはな。王妃のたっての頼みを聞き入れ、その命だけは救うことになるだろうが‥‥‥。一人の父親としてあまりにも情けない。お前のような息子を育ててしまった責任を感じずにはいられない」
国王陛下は悲しみに染まったその顔を左右に振り、一人の父親として息子を救うのか。
それとも国の長として、彼をさばくのか。
そのどちらかに重きを置くのかを、とても迷っておられた。
「陛下」
「だめよ。行ってはダメ」
「でも、聖女様‥‥‥」
一族のことが許されるならば。
婚約破棄を認めてもらえるのならば。
もう二度と彼の干渉を私が受けることがないようにしてくれるのならば。
私は、それ以上を望まないように、国王陛下に伝えようとしていた。
そうしたら、聖女様が私の言葉を遮るようにして、静かに首を振り、駄目だと告げられた。
「それだけの傷を与えられてあなたは本当に我慢できるの? 貴族の女だからという理由だけで己を殺してまで生きなければいけない理由がどこにあるの」
「でも、聖女様。今ここで彼を裁いてしまったら、王族の恥が国内外に知れ渡ってしまいます」
「いいじゃない。そうすれば」
「だって、それは王国の恥に‥‥‥ああ」
そこまで言って私は思い出してしまった。
この聖女様も約半年ほど前に同じような目にあったのだと。
彼女は気丈にも、元婚約者だった王太子を、どこかの塔に投獄させたのだと噂で耳にした。
それは死ぬまで許されることのない、死罪にも等しい罪だと聞く。
だけどそれは聖女という大いなる力があってこそ、許される我がままだ。
もし、今この場所でロイデンを同じような目に合わせたとしても、国王陛下が亡くなられた後に、また彼が解放されないとも限らない。
現に王妃様の嘆願で助命することにしたと、ついさっき、陛下がおっしゃられたばかりだ。
「ここはあなたが出る幕ではないわ、侯女様」
「はい‥‥‥聖女様」
今や、我が国の元首を助けた国の恩人にまでそう言われては、何もすることができない。
私は私で、自分の安全を考えるのか。
それとも一族全体の安全を考えるのか。
その二択を迫られている気がした。
そんな時だ。
声をあげたのは、この国の誰でもない。
あのアレクセイだった。
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