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涙の断ち切り方
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帰宅してボートを船着き場に係留すると、レイダーに集金してきた金貨の袋を手渡した。
いつになく元気がない娘に、父親は不思議そうな顔をする。
なにかあったのか、と問いかけたら、ぽつり、ぽつりとマーシャはさっきの出来事を話し出した。
可哀想に、ずっと我慢して溜め込んでいたのだろう。
その瞳には普段の勝ち気な彼女らしくない、大粒の涙がこぼれだしていた。
「おいおいどういうことだよ。あいつは浮気なんてしない男だろう?」
「嘘じゃないってば! 漁師仲間のフレッド、ライオネル。それにルクスもいたんだから」
「だから行くべきじゃないって言ったじゃないか。太陽が出てから行けば出くわすことなんてなかったのに」
「どういう意味よ!」
あまりの唐突な出来事に、父親のレイダーは急にもうろくしたらしい。
意味不明なことをつぶやいて両手で顔を覆ってしまった。
「知らなきゃいいことだってあるんだよ」
「ふざけないでよ! 結婚した後にこんなことが分かったら離婚だけじゃ済まないのよ? 結婚してしまったら夫婦それぞれに責任があるって教会は判断するんだから!」
「……わかってるよ。お前の母親もそう言って出ていった」
「なんで親子揃って、大事な人に浮気をされて……」
「俺もお前もそういう運命だってことだ。それよりどうする」
母親は商売に熱心になりすぎて彼女にかまうことを疎かにした父親に愛想を尽かし、当時、上顧客だった貴族の愛人になった。
まだこの街の中に住んでいて、マーシャと歳の離れた異父兄弟がいる。
彼女との交流は今でもまだ細々と続いてはいるが、そのことを父親には言っていない。
もう数年前に終わった仲だと、レイダーは思っているはずだ。
「どうするもなにも! 向こうの親にお父さんからちゃんと話ししてよ! 私から話をしにいっても、親同士が先に話をする慣習に外れるって相手にされないのは目に見えてるわ」
「片親だけだと相手が強気に出てくるからな……お前ちょっと母さんに」
「はあ?」
「だから。ティムのやつに連絡とってくれよ。今どこにいるか俺は知らないんだ」
「どうして私がお母さんの居場所を知ってるって思うのよ」
「会ってるだろ? 何年前から……俺が知らないと思ったのか?」
「……ごめんなさい。隠すつもりはなかったんだけど、なんだか言い出しづらくて……」
まさかバレてると思わなかった。
レイダーは仕方ない、と肩を竦める。
「お前は悪くないよ。離婚してしまった父さんと母さん双方に責任があるんだ。お前は子供だった。なにも悪くない……俺だけで話ができるようになんとかやってみるよ」
「うん……」
父親の腕の中に逃げ込んだ。
しばらくすすり泣いた。
それから泣いている自分に腹が立って、悲しみを断ち切るように顔を上げる。
負けているのは悔しかった。
そう思ったら、怒りの波が途絶えた。
一旦治まり、また荒々しく、うねるような感情の激流が、頭の片隅から生まれてくる。
同時に気分が悪くなり、吐き気を催してから、ようやく自分が朝から何も口にしていないことに気づく。
朝から何も食べてなくて胃の中が空腹で揺れていた。
いつになく元気がない娘に、父親は不思議そうな顔をする。
なにかあったのか、と問いかけたら、ぽつり、ぽつりとマーシャはさっきの出来事を話し出した。
可哀想に、ずっと我慢して溜め込んでいたのだろう。
その瞳には普段の勝ち気な彼女らしくない、大粒の涙がこぼれだしていた。
「おいおいどういうことだよ。あいつは浮気なんてしない男だろう?」
「嘘じゃないってば! 漁師仲間のフレッド、ライオネル。それにルクスもいたんだから」
「だから行くべきじゃないって言ったじゃないか。太陽が出てから行けば出くわすことなんてなかったのに」
「どういう意味よ!」
あまりの唐突な出来事に、父親のレイダーは急にもうろくしたらしい。
意味不明なことをつぶやいて両手で顔を覆ってしまった。
「知らなきゃいいことだってあるんだよ」
「ふざけないでよ! 結婚した後にこんなことが分かったら離婚だけじゃ済まないのよ? 結婚してしまったら夫婦それぞれに責任があるって教会は判断するんだから!」
「……わかってるよ。お前の母親もそう言って出ていった」
「なんで親子揃って、大事な人に浮気をされて……」
「俺もお前もそういう運命だってことだ。それよりどうする」
母親は商売に熱心になりすぎて彼女にかまうことを疎かにした父親に愛想を尽かし、当時、上顧客だった貴族の愛人になった。
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もう数年前に終わった仲だと、レイダーは思っているはずだ。
「どうするもなにも! 向こうの親にお父さんからちゃんと話ししてよ! 私から話をしにいっても、親同士が先に話をする慣習に外れるって相手にされないのは目に見えてるわ」
「片親だけだと相手が強気に出てくるからな……お前ちょっと母さんに」
「はあ?」
「だから。ティムのやつに連絡とってくれよ。今どこにいるか俺は知らないんだ」
「どうして私がお母さんの居場所を知ってるって思うのよ」
「会ってるだろ? 何年前から……俺が知らないと思ったのか?」
「……ごめんなさい。隠すつもりはなかったんだけど、なんだか言い出しづらくて……」
まさかバレてると思わなかった。
レイダーは仕方ない、と肩を竦める。
「お前は悪くないよ。離婚してしまった父さんと母さん双方に責任があるんだ。お前は子供だった。なにも悪くない……俺だけで話ができるようになんとかやってみるよ」
「うん……」
父親の腕の中に逃げ込んだ。
しばらくすすり泣いた。
それから泣いている自分に腹が立って、悲しみを断ち切るように顔を上げる。
負けているのは悔しかった。
そう思ったら、怒りの波が途絶えた。
一旦治まり、また荒々しく、うねるような感情の激流が、頭の片隅から生まれてくる。
同時に気分が悪くなり、吐き気を催してから、ようやく自分が朝から何も口にしていないことに気づく。
朝から何も食べてなくて胃の中が空腹で揺れていた。
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