だから、私は彼女にアドバイスをする

秋津冴

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相談

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 いきなり現れて宣言するように言った彼女のその言葉は、とても鮮烈で困惑をもたらす一言だった。

「実は‥‥‥婚約破棄をしたいと思っているのです」

 私は――驚いてまともな返事を返せないでいた。


 ※


 私、伯爵令嬢フォンテが学院で同級生のリーディアと知り合ったのは、同じ同好会に入っていたからだ。
 貴族の令嬢が習う真似事にはいくつかあるが、私たちはちょうど、同じ趣味を持っていた。
 レースの刺繍を編み上げること。

 地味だが、嫁入りの際には有力な武器となる。
 刺繍、裁縫、詩歌、古い時代の言葉を覚えることなどは、良妻の条件とされていたから。
 私の場合、数年前に姉が結婚し、姪は五歳ほどになる。
 白の綿製品スカートに、緑色の刺繍を施してやれば喜ぶかと思い、作成に勤しんでいただった。
 同じ部室で彼女が話しかけてきたのは。

「ごきげんよう」
「……どうも」
「実は相談がありまして」
「はい?」
「フォンテ様。わたし、実は‥‥‥婚約破棄をしたいと思っているのです」
「はあ?」

 ちょっと唐突過ぎて、なにを言っているのかわからなった。
 こちらが呆けた顔で彼女を見ると、あちらはどうやら相談に乗ってくれると勘違いしたらしい。
 いきなり席を立ち、私が座る長椅子の隣に腰を下ろしてきたから、こちらも慌てた。
 婚約破棄は貴族社会において、個人間ではなく、家同士の約束の元に行われるもの。
 そんな秘密を他人にばらしていいのか、おい‥‥‥。

「ご自分だけの意思ですか?」
「それはもちろん」
「あー……自分だけの意志で婚約破棄を語り出すのは、なんだかおかしくない?」

 そう言ったら、彼女は編み物セットを取り出して黙々とそれを手繰り始めた。
 こちらの質問に興味はないらしい。
 どう語りだすかを考えているようだった。
 自分勝手な令嬢だという印象が強い。

「恋をすることは罪でしょうか」
「罪とは言わないけれど。相手がいらっしゃるなら、心に秘めておくのが礼儀かと」
「そうですわね」

 リーディアは、ふっと寂しそうに笑った。
 でもちょっとだけ興味が湧かないかと言われたら、それは嘘になる。
 自分にも覚えがある事柄だからだ。
 だから、つい彼女の話に耳を傾けてしまっていた。


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