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キャント・ヘルプ・フォーリン・イン・ラブ【SIDE: ヴァレンチン】二年前
俺たちの正体
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「我々は、そこからさらに一歩進めてみようと考えた。どのバンパイアに尋ねてみても、パック詰めの配給血液を摂取するより、実際に人間から吸血した方が『力が湧いてくる』という答えが返ってくる。もちろん、血液の鮮度という問題が大きいのだろうが。他にも要因が存在するのかもしれない。
[エンハンスト]バンパイア・ソルジャーに、最適なゲノムを持つ[造血器官]の血を与える代わりに――最適なゲノムを持つ人間から直接吸血させれば、より効果があがるのではないか?
それを研究するのが、我らがゼウスプロジェクトだ。二十年ごしのビッグプロジェクトだからね。軍部からの期待も大きいんだよ」
「……!」
ぼんやり窓の外を眺めていないで、もっとよくリュボフ博士の話を聞いておけばよかった、と俺は後悔していた。いつの間にか聞いたことのない話題へ移っていたからだ。
博士は俺たち生徒を見渡し、人の悪そうな顔でにっこり微笑んだ。
「成功の確率を上げるために我々は、遺伝子操作によってバンパイア候補を作るところから始めた。バンパイア・ウィルスに特に強い体質の人間を、毎年四十人作り出した。バンパイア化の過程で被験者に死なれてしまっては実験の意味がなくなるのでね。……感染者の生存率は九割程度まで上がるのではないかと期待している。
その四十人は、日々鍛錬に励み、最強の兵士となるのにふさわしい健康と肉体を維持しながら、実験の日に備えている。
その一方で我々は、その四十人のバンパイア候補のゲノム情報に基づき、彼らのバンパイアとしての能力を最高に発揮できる血液のゲノムを推定した。そしてそれらのゲノムを持つ人間を四十人作り出した。血液提供者候補だ。
これから、バンパイア候補たちにバンパイア・ウィルスを感染させる。
それによって生まれたバンパイアたちが、自分に最も合ったゲノム情報を持つドナーから直接吸血し続けた場合――[造血器官]の血に頼っている従来の[エンハンスト]バンパイアと比べて、能力の向上値にどれだけの差が出るのか。あるいは差は出ないのか。そのデータを収集・分析していく作業が始まる」
凍りついたような静けさの中で、博士の声は、雷鳴のように響きわたった。
「もう予想がついた子もいるんじゃないかな。……そう。君らがその、ドナー候補だ。
君らの一人一人に、ペアとなるバンパイア候補がいる。君らの血液は、ペアとなるバンパイアの身体能力を最高に向上させる。君らはそのように作られているんだ。
君らが、バンパイアによる定期的な吸血に耐えうる年齢に達するまで、十八年待たなければならなかった。
喜んでくれ。君らは壮大な国家プロジェクトの被験者であると同時に観測者だ。刻々と変化する状況を実地に観察し、データを克明に記録してほしい。そのために君らには研究助手としての訓練と知識を授けてある。人類史上例を見ないこの意欲的なプロジェクトに当事者として参加できることを、誇りに思ってほしい――!」
喜んでくれ、と言われたって、そんなことを言われて喜ぶ奴なんかいるはずもない。
俺の最初の衝動は、リュボフ博士の襟首をつかんで思いきり締め上げたい、ということだった。俺はその衝動を実行するため席を立ち、教壇へ向かって進み始めた。同じように感じたらしく、他にも数名の男子が教壇へ向かおうとしていた。
そのとき教室のドアが開き、灰色の制服を着た警備員たちがなだれ込んできた。
こんなに大勢の警備員たちが集まるのを初めて見た。
警備員たちは俺たち一人一人をつかまえた。そして教室から引きずり出し、無人の廊下を連行していった。
目的地は実験棟の最上階だった。廊下の両側に、ものものしい雰囲気の金属製の扉が規則正しく並んでいる。
俺をつかまえている警備員は扉の一つを開け、俺をその中へ放り込んだ。
けたたましい音をたてて、俺の背後で扉が閉まった。それと同時に、廊下に響きわたっていたクラスメイトの女子たちの絶叫がぴたりと聞こえなくなった。
扉に錠が下りる音がした。
室内は薄暗かったが。
部屋の真ん中で、こちらを向いて立っている人間がいることを見分けられるぐらいの明るさはあった。
その人間の目が、白く光った。
文字通り、光を放ったのだ。
――こいつは人間じゃない!
俺の本能が瞬時にそう判断。アドレナリンが全身に一気に広がる。体が逃走体勢に入る。
しかし、逃げ道はない。前には怪物。後ろには閉ざされた扉。
駆け出したいのに動けなくて、俺の脚の筋肉が激しくひきつる。
次の瞬間、怪物が俺に飛びかかってきた。
首筋に噛みつかれ、激痛が走った。
目が廻る。気分が悪い。
意識が急速に遠のいた。
[エンハンスト]バンパイア・ソルジャーに、最適なゲノムを持つ[造血器官]の血を与える代わりに――最適なゲノムを持つ人間から直接吸血させれば、より効果があがるのではないか?
それを研究するのが、我らがゼウスプロジェクトだ。二十年ごしのビッグプロジェクトだからね。軍部からの期待も大きいんだよ」
「……!」
ぼんやり窓の外を眺めていないで、もっとよくリュボフ博士の話を聞いておけばよかった、と俺は後悔していた。いつの間にか聞いたことのない話題へ移っていたからだ。
博士は俺たち生徒を見渡し、人の悪そうな顔でにっこり微笑んだ。
「成功の確率を上げるために我々は、遺伝子操作によってバンパイア候補を作るところから始めた。バンパイア・ウィルスに特に強い体質の人間を、毎年四十人作り出した。バンパイア化の過程で被験者に死なれてしまっては実験の意味がなくなるのでね。……感染者の生存率は九割程度まで上がるのではないかと期待している。
その四十人は、日々鍛錬に励み、最強の兵士となるのにふさわしい健康と肉体を維持しながら、実験の日に備えている。
その一方で我々は、その四十人のバンパイア候補のゲノム情報に基づき、彼らのバンパイアとしての能力を最高に発揮できる血液のゲノムを推定した。そしてそれらのゲノムを持つ人間を四十人作り出した。血液提供者候補だ。
これから、バンパイア候補たちにバンパイア・ウィルスを感染させる。
それによって生まれたバンパイアたちが、自分に最も合ったゲノム情報を持つドナーから直接吸血し続けた場合――[造血器官]の血に頼っている従来の[エンハンスト]バンパイアと比べて、能力の向上値にどれだけの差が出るのか。あるいは差は出ないのか。そのデータを収集・分析していく作業が始まる」
凍りついたような静けさの中で、博士の声は、雷鳴のように響きわたった。
「もう予想がついた子もいるんじゃないかな。……そう。君らがその、ドナー候補だ。
君らの一人一人に、ペアとなるバンパイア候補がいる。君らの血液は、ペアとなるバンパイアの身体能力を最高に向上させる。君らはそのように作られているんだ。
君らが、バンパイアによる定期的な吸血に耐えうる年齢に達するまで、十八年待たなければならなかった。
喜んでくれ。君らは壮大な国家プロジェクトの被験者であると同時に観測者だ。刻々と変化する状況を実地に観察し、データを克明に記録してほしい。そのために君らには研究助手としての訓練と知識を授けてある。人類史上例を見ないこの意欲的なプロジェクトに当事者として参加できることを、誇りに思ってほしい――!」
喜んでくれ、と言われたって、そんなことを言われて喜ぶ奴なんかいるはずもない。
俺の最初の衝動は、リュボフ博士の襟首をつかんで思いきり締め上げたい、ということだった。俺はその衝動を実行するため席を立ち、教壇へ向かって進み始めた。同じように感じたらしく、他にも数名の男子が教壇へ向かおうとしていた。
そのとき教室のドアが開き、灰色の制服を着た警備員たちがなだれ込んできた。
こんなに大勢の警備員たちが集まるのを初めて見た。
警備員たちは俺たち一人一人をつかまえた。そして教室から引きずり出し、無人の廊下を連行していった。
目的地は実験棟の最上階だった。廊下の両側に、ものものしい雰囲気の金属製の扉が規則正しく並んでいる。
俺をつかまえている警備員は扉の一つを開け、俺をその中へ放り込んだ。
けたたましい音をたてて、俺の背後で扉が閉まった。それと同時に、廊下に響きわたっていたクラスメイトの女子たちの絶叫がぴたりと聞こえなくなった。
扉に錠が下りる音がした。
室内は薄暗かったが。
部屋の真ん中で、こちらを向いて立っている人間がいることを見分けられるぐらいの明るさはあった。
その人間の目が、白く光った。
文字通り、光を放ったのだ。
――こいつは人間じゃない!
俺の本能が瞬時にそう判断。アドレナリンが全身に一気に広がる。体が逃走体勢に入る。
しかし、逃げ道はない。前には怪物。後ろには閉ざされた扉。
駆け出したいのに動けなくて、俺の脚の筋肉が激しくひきつる。
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