聖龍の勇者

むぎさわ

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第8話「幼青龍の勇者後編」

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「ゆ、ゆうしゃさま!?」

「へっ。さすがは勇者様ってとこか。そう簡単に死んではくれんか」

「くっ……おかしい。足が、腕が震える。それに剣も前持っていた時よりも何故か重い……」


 マリンがこちらに気付いたらしい。だが、そんなことを考えてる余裕も振り返ってる暇も今の俺にはなかった。

「なんだこいつ、震えてやがんのか? ハハッ、この前の威勢はどうしたよ? なぁ? 勇者様よぉッ!!」

「くっ。はっ!」

「こっちもあるぜ?」

「なっ! かはっ!?」

「ゆ、ゆうしゃさま!?」

 剣と斧は何とか防いだ。弓も避けた。だが槍の攻撃はまともに受けてしまった。

「血……? 嘘だろ? この前は一撃も喰らうことなく楽勝だったのに……」

「おいおいまさか、これで終わりじゃねぇだろうな? 立てよ勇者」

「そうだ立て。むしろこんな程度でやられちまうなんてお前、本当に勇者か?」

「いや、聖龍の勇者の実力は所詮この程度。我ら邪竜に勝てるわけがない。以前はマグレ勝ちだったのだ」

 俺は倒れた。倒れて初めて俺の身体から血が出てることがわかった。痛い、苦しい。でもこんなところでやられるわけにはいかない。俺はまだ戦わなければいけないんだ。俺は勇者なんだ。だからあいつらを、マリンを護らなければいけないんだ。

「くそ……うるせえええええっ!」

「はっ、遅い!」

「なっ……!?」

「ゆ、ゆうしゃさまあああああっ!!」

 立ち上がって走り、俺は剣を斬り裂くイメージを頭に浮かべながら振った。でもそんな俺の攻撃は軽々とかわされて、ドラゴンファイターの斧が肩口、脇腹を抉った。そしてその勢いある斬撃に俺はこの時、吹き飛ばされるという感覚を初めて味わった。


「くそっ……なんだよこれ、すげえ痛てえ……うっ!? おまけに目まで霞んで来やがった」

「ゆうしゃさまぁ!」

「マリン……か。悪い、俺の血なんかでこの場所を汚しちまって」

「そ、そんなこと……」

 吹き飛ばされて動こうとすると激痛が走った。おまけに出血が酷い。こんなこと聖龍界どころかここにいるマリンを護れるかも怪しい。マリンは涙に濡らした顔で俺のところまでやってきた。一度は見てくれたがやはり顔を逸らしてるところを見ると俺と顔を合わすのは辛いのか。


「おうおう、まだ生きてやがったか。最弱勇者様よぉ」

「くっ……邪竜……!」

「ま、待ってください! これ以上、ゆうしゃさまを傷付けないで!」

「ま、マリン……」

「おう。誰かと思えば泣きわめいていた水聖龍様じゃねぇか。なんだ? もう泣き飽きたのか? んん?」

 俺とマリンの前に邪竜のドラゴンファイターが再び姿を現した。そこにマリンは俺の前に両腕を広げて庇うようにして立っている。その小さな身体は微かに震えている。こんな小さな娘が俺を庇おうと、守ってくれようとしているのに俺はいったい、何をやっているんだよ……

「あぁ!? なんだてめぇ、オレたちとやろうってのか?」

「これ以上、ゆうしゃさまを傷付けるなら。マリンはあなたたちと戦います!」

「なっ……や、止めろ! マリ――ぐっ!?」

「ほぅ? 威勢の良い幼女だな。面白い。じゃあやってもらおうじゃねーか!」

「マリンだって守護聖龍なのです……だからゆうしゃさまをお守りします!」

 マリンの顔から、ふっと悲痛な表情が消える。
 代わりに現れたのは決意を秘めた顔。でもこのままマリンを、まだ幼いマリンを戦わせたくない。なのに身体が思った通りに動かない。必死に動こうとしても身体に激痛が走る。

「ならばやってもらうぞ。はあぁぁぁぁッ!!」

「や、やあっ! あたぁっ!」

「へっ……遅せえ遅せえ。遅いぞ! ガキがあああああッ!!!」

 互いに構え対峙するマリンとドラゴンファイター達。先に攻撃をしたのはマリン。マリンの放った拳からは風を切り裂くような音が聞こえてくる。しかしそんな強烈な拳でもドラゴンファイター達は素早い動きで躱《かわ》す。まるで奴らの速さはブーストでも掛かってるんじゃないか疑うくらい早かった。


「いあっ!? うぅ……あ、」

「弱い上に遅いとはな。やはり、聖龍族などは大したことなかったというわけか」

「まあいいだろう。そいつは縛っとけ。聖龍の勇者を亡きものにした後、我ら邪竜の奴隷にでもすればいいだろう」

「わかった」

 マリンの腹、背後から首を狙って殴って邪竜戦士達は気絶させた。どうやらマリンを殺すつもりはないらしい。そして弓を持った邪竜戦士が自らの尻尾を手刀で切り、その尻尾を伸ばしに伸ばしてマリンの身体に巻き付けるように縛った。

「さあて、勇者。覚悟は良いか?」

「くそ……こうなったら――形態変更《モードチェンジ》・レティシア!」

「な、なんだと!?」

「…………」

 追い詰められた俺は何とか立ち上がり、力をレティシアに貰った力を叫んだ。確かに視界は、ぐにゃりと歪んだ。


「フッ……ふはははははっ!! 何も起きねぇじゃねーか! ビビらせやがって!」

「そ、そんな……どうして、どうして……形態変更《モードチェンジ》出来ないんだ?」

「知るか。だがもう打つ手はなさそうだな。一気に終わらせるぞ」

「う、嘘だろ……? 形態変更《モードチェンジ》・レティシア! 形態変更《モードチェンジ》・レティシアっ!! 形態、変更……レティシ――」

 俺は確かにそう叫んだ。間違えたのかと何度も叫んだ。だが視界が歪むだけで聖龍姫の形態にはなれなかった。俺に飽きたのか邪竜戦士共は武器を構え始めている。

「惨めだな。もういい。死にな」

「っ!?」

「ちぃっ! なんだこいつ、往生際が悪いぞ! この死に損ないが!」

「くっ、うおおおおおッ!!!」

「そこまでして、聖龍を護りたいか!」

「だが、それももう終わりだ」

「な……に……!?」

 惨めだなんだと聞こえた気がした。斧や剣が俺を殺そうと迫ってくる。今はもう身体の自由が利かない。それでも俺は剣を振るって身体を激痛が走ろうが無理矢理にでも動かして足掻いて足掻いて抗った。


「さよならだな、聖龍の勇者。? な、なんだあれは……」

「せ、青龍!?」

「く、来るなああああ!!」

 俺は剣に槍に斧という三つの武器に腹を貫かれてどのくらいの時間が経ったのだろう。時間が経ったせいなのかもはや痛みがあるのかないのかも判らない。一つ解るのは貫かれた後は少し気絶していたことくらいか。

「さま……ゆうしゃさま! マリンの声、聞こえる!?」

「まりん……マリン。ああ、マリンか」

 誰かが俺を呼ぶ声がする。思えばさっきからずっと呼ばれていた気がする。そうか、マリンだったのか。

「よかった……ゆうしゃさま、しっかり! 今、マリンが治癒魔法をかけるから!」

「もういい……もう良いんだ」

「ど、どうしてそんなこと言うの!? マリン、頑張るから。頑張って治癒するからっ! だから、だから……っ」

 何と健気なのかと思う。俺なんかのために、俺のせいで、花畑は滅茶苦茶にされたというのに涙声で必死に語りかけながらも治癒をして俺を救おうとしてくれている。だけど、それが徒労に終わると何故か俺には解った。死ぬからなのか、消えるからなのか、今はただ穏やかな気持ちで俺は、自分は助からないと確信する。

「嫌……死なないでゆうしゃさまぁ!」

「ごめん。護れなくて、勇者なのに何一つ役に立たなくてごめんな」

「そんなことない! ゆうしゃさまはマリンを護ってくれたもん! ゆうしゃさまは初めてなのにこのお花畑を見て怒ってくれたもん!」

「マリン……」

 儚くも愛らしい姿。俺は霞む視界の中、マリンに対してそう思った。手を伸ばす。マリンの涙を拭おうと手を伸ばす。何とか一度は拭き取れる。それでもマリンの涙は止まることを知らない。決壊しているのか、出会ったばかりの俺にそんなに泣いてくれるのかとこんな状況なのに嬉しさすら湧く。

「ゆうしゃ、さま?」

「マリン……俺は――!?」

 俺はここで死ぬ、逝く、消える。そう言うつもりだった。なのに突然、口が塞がれた。何に? マリンの口に俺の口が塞がれた。目の前にはマリンの顔があった。なんだ、これ……どういう状況だよ?



「ゆうしゃさま一人を逝かせたりなんかしないから……ねぇ、知ってる? 守護聖龍と守護勇者は二つで一つなんだよ?」

「二つで一つ? 何を言って――」

 マリンが全身で乗っかるように抱き着いてきて意味深いことを言ったかと思えばまた口をマリンの口で塞がれた。だが不思議と悪い気はしなかった。むしろ心が温かい気持ちで満たされる。いや、別に幼女にキスされたからとかそういうのではないと思う。

「ま、マリン……?」

 そんなことを考えているとマリンの肌の暖かみというか感覚がスーッと消える。余韻みたいなものは残っている。それでもマリンが近くにいるような感覚がある。

「マリン、どこに行ったんだ?」

 そして不思議なことが起こった。さっきまで霞んでいた視界が綺麗に開けてきた。それどころか俺は何故か立ち上がっていた。それに死ぬはずなのに活力が溢れてくる感じさえする。おかしい。

「マリンはここにいるよ?」

「え? マリン?」

 俺の声が届いたのかマリンの声がした後ろを向く。
 が、いない。だが不思議と姿は見えないのにマリンが隣に居てくれてる。そう思えて勇気が湧いてくる。

「な、なんだったんだ。さっきの風は幻か?」

「そんなわけねぇ……確かに青龍が、」

「ん? 邪竜のドラゴンファイター……?」

「な、聖龍の勇者!? 何故、生きてるんだ……確かに貴様は我らが仕留めたはずだ!」

 視界が開けてきたおかげか何故か寝ていたらしい邪竜戦士達が俺の前に姿を見せる。しかも何故か俺を見て驚いている。当たり前か。

「俺も何故、生きてるのか解らない。もしかしたら俺はまたマリンに助けられたのかもしれない」

「……何を訳の解らんことを」

「つまりだ。さっきのガキにこいつは治癒で助けられたってことだろ? 奴は治癒が得意らしいからな」

「へっ……なるほど、生き返りやがったってことか。だが生き返ったなら生き返ったでもう一度ぶっ殺せば良いだけの話だ!」

「……。せいっ!!」

 邪竜戦士達が一斉に俺をもう一度殺そうと斬りかかってくる。しかし奴らの動きは視認出来てボーッと見てる余裕があるくらい遅かった。俺は奴らの動きの遅さを感じながら邪竜戦士達の身体を斬りつける。


「ぐがあっ!?」

「な、なんだ……奴の動き、全く見えなかった……」

「なのに何故、あいつは俺達の後ろにいるんだよッ!?」

「しかもきっちりと我らに攻撃を仕掛け、それを見事的中させている……そんな余裕がいったい何処に」

 邪竜戦士達が見るからに焦っている。なんだか解らないが、ブーストが切れたのか? それともマリンのキスで俺がパワーアップしたのか? いや、まさかな。

「ど、どうせマグレ当たりだろ……もう一度……もう一度だ。もう一度仕掛けるぞ!」

「おう! 今度は、今度こそは外さんぞ」

「かかれえぇぇぇッ!!」

「せいっ! やぁっ! っ!!」

 眼を血走らせながら再び襲いかかってくる。こいつらやべぇ……

「がはっ!?」

「うっ! あ、足をやられた……」

「ぐっ!? ば、バカな! また見えなかっただと!?」

「どうやら、終わらせるのは今度は俺の番らしいな」

「くっ」

 今度は出来るだけ的確に頭、足、腹と狙って剣を振るう。先程よりも明らかに邪竜戦士達の動揺が広がっている。俺はチャンスとばかりに構える。今なら魔法を撃つことも出来るかもしれない。そのくらい、俺の中の力が溢れていた。

「こうなったら空中から攻めるしかない。この手はあまり使いたくないが」

「こうなったら仕方ねぇ……一気に終わらせるならあれが一番だからな」

「勇者は飛べんようだしな」

 俺の構えを警戒してか地上に居た邪竜戦士達は全員が全員、空中に飛び上がった。俺に斬りかからんと構えを取る。俺もさっきとは別の違う奴らを突きで仕留めるつもりで突きの構え方を取る。イメージは鯉が青龍に成り変わり、奴らを喰らう姿。

「かかれッ!!」

「死ねや! 勇者ぁぁぁぁぁッ!!」

「いくぜ、マリン……」

「うんっ、ゆうしゃさま!」

「いけっ! 滝登り。吹っ飛べええぇぇッ!!」

「な、なにっ!? ぐわああああっ!!」

 邪竜戦士達が俺に一斉に殺気を全開に斬りかかろうとしたその時、俺は全てを解き放つつもりで解き放った。だが俺が思い描いたイメージとは違った。実際に出たのは幼い龍が成龍となって喰らおうとする姿。その姿は眩しくも鮮やかな青。その水の龍が奴らを吹き飛ばした。多分、あれで落下していったなら命は……そして気になることがある。解き放つ寸前にマリンの声がしたのは俺の気のせいなのか?



「はぁ……はぁ……それにしても、やったんだな、俺が。って、え? 剣が折れた!?」

「やったね。ゆうしゃさま……!」

「ちょ、マリン、剣が――ってそういえば今までどこにいたんだ?」

「えへへ。どこに居たかはねー、ないしょっ」

「な、内緒って……まあいいか」

 俺は奴らを倒せたんだと改めて思う。そしてそんな余韻に浸る暇もなく剣が折れた。というか砕けた。どうすんだこれと思い悩んでいたら急に現れたマリンに抱き着かれて何故か恥じらいながら笑顔で内緒などと言われてしまった。なんかすげえ可愛いし、嫌われてたのが嘘みたいだった。嘘みたいだからこそ、出来るならこの笑顔を、マリンを守りたいと俺は思った。
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