17 / 422
心核の入手
017話
しおりを挟む
『はあああああああああああああああああああああああああああああっ!?』
目の前に姿を現した存在を見て、その場にいた者全員――レオノーラ以外――の口から悲鳴が上がる。
その中には普段飄々とした態度のイルゼンや、アランの両親のリアとニコラスも混ざっており、それが目の前の光景の異常さを表していた。
雲海も黄金の薔薇も、ゴーレムという存在は当然のように知っている。
古代魔法文明の遺跡においては、かなりメジャーなモンスターだからだ。
一度命令すれば、その身体が壊れるまで……場合によっては身体が壊れても命令に従うのだから、雑用や警備といった仕事に非常に便利に使われていたのだ。
それがまだ遺跡に残っており、侵入者を排除するために戦闘になる……というのは、それこそ探索者なら誰でも経験したことがある。
だが……そんな者たちにしても、現在視線の先にあるゼオンはとてもではないが普通のゴーレムには見えなかった。
当然だろう。明らかに通常のゴーレムとは違う。
いや、それどころか普通のゴーレムとの共通点を見つける方が難しいのだから。
唖然、呆然。
そんな表情を浮かべており、未だにゼオンに目を奪われているその様子を、アランはコックピットの中の映像モニタで眺める。
「まぁ、驚くよな。……とはいえ、いつまでもこのままって訳にもいかないか」
呟き、ゼオンを動かす。
とは言っても空を飛ぶのではなく、一歩前に歩いただけだ。
だが、十八メートルもの全長を持つロボットが……それも、普通のゴーレムのようにのっぺりとした姿ではなく、相手に威圧感を与えるのに十分な偉容を持つゼオンだ。
そんなゼオンが歩けば、当然のように見ている者たちは数歩後退る。
ある程度の距離があってもこうなのだ。
もし何も知らない者がいきなりこのゼオンを見れば、一体どうなるのか。
それは、考えるまでもなく明らかだろう。
その結果が、今の状況なのだから。
とはいえ、せっかくゼオンを呼び出したのに、一方的に怖がられているのも色々と不味い。
そう判断したアランは、外部スピーカーのスイッチを入れる。
「あー、あー、聞こえてると思うけど、このゴーレムには俺が乗ってるんだ。別に遺跡で出て来るゴーレムのように、意味もなく襲ってくるとかはしないから安心して欲しい」
外部スピーカーによってアランの声が聞こえたのか、映像モニタに表示されている探索者たちの姿は大分落ち着いたように見える。
今なら機体を動かしても問題はないだろうと判断し、アランは再びゼオンを一歩歩かせた。
探索者たちは再び後ろに下がったが、それでも先程よりは大袈裟ではい。
「武器は……いや、今の状況だと使わない方がいいか」
ゼオンの姿だけでこれだけ驚いているのだから、ビームライフルやビームサーベルの類を使った場合、一体どうなるのか。
また、ここには雲海や黄金の薔薇以外の探索者の姿もあるのだから、わざわざそのような連中にそれらの武器を見せる必要もないだろうと判断し、コックピットの扉を開き、乗降ケーブルを使って地上に降りる。
ざわり、と。
アランの姿を見た者たちがざわめく。
その理由は、ゼオンのコックピットからアランが下りてきたことか、それともアランが離れたのに何故かゼオンがまだその場に残っているからか。
アランにもその理由は分からなかったが、恐らく後者なのだろうと考えた瞬間、まるでそれが合図だったかのようにゼオンを構成していた魔力が塵になって消えていく。
そうして最後に残ったのは、地面に落ちている心核のみ。
大勢からの視線を浴びつつ、アランは地面の心核を手に取る。
「ぴ」
「今は静かにしてろ」
心核……カロが鳴き声を上げたのを聞き、アランは素早くそう言う。
幸い今のカロの鳴き声は離れた場所で自分の行動を見守っている者たちには聞こえなかったのか、特に騒ぎになっている様子はない。
ただえさえゼオンというロボットを心核で生み出すというだけでも目立っているのに、そこにカロのように自我のある心核などという存在が知られれば、間違いなくいらない注目を浴びることになる。
そんな思いからの言葉だったが、幸いにもカロはアロンの言葉に従い、大人しく黙り込む。
(ペットロボット的な存在だから、俺の指示にはしっかりと従うのか?)
そんな疑問を抱きつつ、アランはイルゼンやリア、ニコラスといった面々のいる場所に向かう。
「まぁ、こんな訳で、俺は心核を手に入れたんだけど……遺跡の中では使いにくそうだっただろ?」
「そうね。あそこまで大きいと……もちろん、遺跡の中には通路が広い場所もあるけど、そういう場所は大抵かなり難易度の高い遺跡だしね」
いち早く我に返ったリアが、アランの言葉にそう呟く。
ゼオンの大きさでも入れるような遺跡もあるにはあるが、当然そのような場所は非常に少なく、同時に難易度の高い遺跡として知られていた。
それだけの、見るからに強力なゴーレム――という表現が相応しいのかはリアにも分からなかったが――を持っていても有効に使えるかどうかというのは、非常に難しい。
それこそ、普通に冒険者として活動した方が、討伐や移動、護衛といったように、色々と使い勝手がいいのでは? と思うほどに。
「そうですね。このゴーレム……ゼオンでしたか。かなり特殊な存在ですが、それでも使えないという訳でもありません。ですが、それはあとで話しましょう」
イルゼンがリアの言葉に割り込むようにして強引にそう言ったのは、やはりここに黄金の薔薇やそれ以外に元からここにいた探索者たちが近くにいるからだろう。
ゼオンの姿を見せるのはともかく、それをどのように運用するのかといったことまでは、出来れば知られたくはなかった。
だからか、イルゼンは話を逸らす意味も込め、レオノーラに視線を向ける。
「レオノーラさん、アラン君のゼオンは見せて貰いましたが、貴方の心核は見せて貰えないのですか?」
半ば挑発的な言葉に、レオノーラ本人ではなく黄金の薔薇の面々の方が、不愉快そうな表情を浮かべる。
だが、そんな部下たちを落ち着かせるように、レオノーラは優雅と呼ぶに相応しい動きで軽く腕を振るう。
「落ち着きなさい。アランの心核も見せて貰った以上、こちらも見せる必要があるわ。……そうよね?」
尋ねるようなレオノーラの言葉に、イルゼンは満面の笑みを浮かべて頷く。
そんなイルゼンに、レオノーラも笑みを浮かべてからその場を離れる。
それこそ、アランがゼオンを呼んだときと同じくらい……いや、それよりも遠くまで。
そうして十分に離れたところで、レオノーラは心核を起動する。
瞬間、周囲には眩い光が放たれ……
「あれ?」
ふと、アランが疑問を抱いて呟く。
現在レオノーラから発している光は、たしかに眩しい。
だが、それでも遺跡で見たときの方が、より眩しかったように思えたのだ。
(気のせいか? あの時は初めてレオノーラが心核を使ったし、こうした太陽の下じゃなくて空間の中だったからそんな風に感じたとか?)
眩く輝くレオノーラの姿を見てそんな風に考えるアランだったが、完全に納得するようなことは出来ない。
ただ、アランにとっては若干違和感があっても、それはあくまでもアランにとっては、の話だ。
レオノーラが初めて心核を使う光景を見ている者たちにしてみれば、その光量は十分感動すべきものに思えた。
そして……次の瞬間、黄金のドラゴンがその場に姿を現す。
全高という点では、アランの呼び出すゼオンよりも小さい。
だが、全長……そして純粋な質量という点で考えれば、明らかにゼオンよりも上だった。
『ふぅ。……どう?』
以前と同様、アランの頭の中にレオノーラの言葉が響く。
ドラゴンの顔だというのに、不思議とどこか得意げに見えるその様子に、アランは何かを言おうとして……ふと、周囲の様子に疑問を抱く。
しん、とした静寂に包まれており、誰も何か言葉を発するようなことがなかったためだ。
そうして改めて周囲の様子を見ると、皆が唖然とした様子で……それこそ、ゼオンを見たときよりもさらに驚いたといったように、黄金のドラゴンを眺めている。
総質量ではゼオンよりも明らかに上なんだから仕方がないかと思ったアランは、少しだけ拗ねた様子を見せながら口を開く。
「ほら、レオノーラも自慢げにどう? って聞いてるんだから、答えてやった方がいいんじゃないか?」
『え?』
アランの言葉を聞いていた者たちが、揃ってそう声を上げる。
そう、それはまるでアランが何を言っているのか理解出来ないと、そう言いたげな様子で。
当然のように、そんな相手の様子を見ればアランだって疑問を抱く。
「えっと……レオノーラの言葉、聞こえてるよな?」
一応、といったように恐る恐ると尋ねるアランだったが、その視線を向けられた者たちは揃って首を振る。……縦ではなく、横に。
「アラン、一応聞くけど……彼女の声が聞こえているの?」
リアが尋ねる言葉に、アランは当然といったように頷く。
「聞こえないか? 直接声を発してるんじゃなくて、頭の中に響く感じで」
「私には聞こえないわ。……貴方は?」
ニコラスに視線を向けるリアだったが、そのニコラスも首を横に振る。
「いや、俺も聞こえないな。そうなると、魔力云々の問題じゃなく……相性?」
そんなニコラスの言葉に、アランは微妙な感じがする。
アランにとって、レオノーラという相手は傍から見ているだけなら文句なしの美人で目の保養と言えるのだが、その性格はアランとは合わない。
少なくても、アラン本人はそう思っていた。
取りあえず、相性云々という話は横に置き、アランは目の前で戸惑っている様子の黄金のドラゴン……レオノーラに向ける。
「レオノーラ、取りあえず元に戻ったらどうだ? どうやら、お前の言葉は俺にしか聞こえてないらしいし」
そう言いながらも、レオノーラが自分の、そして他の面々の言葉を理解出来るのは、せめてもの救いだろうと思う。
そんなアランの視線の先で、やがて黄金のドラゴンの身体が塵となって消えていき……最終的に、そこにはレオノーラの姿だけが残っていた。
そのレオノーラは、太陽に煌めく黄金の髪を掻き上げ……やがて、アランの方に近づいてくると、一言呟く。
「アラン、黄金の薔薇に入りなさい」
「え? 嫌だ」
半ば反射的に、アランはそう返事をするのだった。
目の前に姿を現した存在を見て、その場にいた者全員――レオノーラ以外――の口から悲鳴が上がる。
その中には普段飄々とした態度のイルゼンや、アランの両親のリアとニコラスも混ざっており、それが目の前の光景の異常さを表していた。
雲海も黄金の薔薇も、ゴーレムという存在は当然のように知っている。
古代魔法文明の遺跡においては、かなりメジャーなモンスターだからだ。
一度命令すれば、その身体が壊れるまで……場合によっては身体が壊れても命令に従うのだから、雑用や警備といった仕事に非常に便利に使われていたのだ。
それがまだ遺跡に残っており、侵入者を排除するために戦闘になる……というのは、それこそ探索者なら誰でも経験したことがある。
だが……そんな者たちにしても、現在視線の先にあるゼオンはとてもではないが普通のゴーレムには見えなかった。
当然だろう。明らかに通常のゴーレムとは違う。
いや、それどころか普通のゴーレムとの共通点を見つける方が難しいのだから。
唖然、呆然。
そんな表情を浮かべており、未だにゼオンに目を奪われているその様子を、アランはコックピットの中の映像モニタで眺める。
「まぁ、驚くよな。……とはいえ、いつまでもこのままって訳にもいかないか」
呟き、ゼオンを動かす。
とは言っても空を飛ぶのではなく、一歩前に歩いただけだ。
だが、十八メートルもの全長を持つロボットが……それも、普通のゴーレムのようにのっぺりとした姿ではなく、相手に威圧感を与えるのに十分な偉容を持つゼオンだ。
そんなゼオンが歩けば、当然のように見ている者たちは数歩後退る。
ある程度の距離があってもこうなのだ。
もし何も知らない者がいきなりこのゼオンを見れば、一体どうなるのか。
それは、考えるまでもなく明らかだろう。
その結果が、今の状況なのだから。
とはいえ、せっかくゼオンを呼び出したのに、一方的に怖がられているのも色々と不味い。
そう判断したアランは、外部スピーカーのスイッチを入れる。
「あー、あー、聞こえてると思うけど、このゴーレムには俺が乗ってるんだ。別に遺跡で出て来るゴーレムのように、意味もなく襲ってくるとかはしないから安心して欲しい」
外部スピーカーによってアランの声が聞こえたのか、映像モニタに表示されている探索者たちの姿は大分落ち着いたように見える。
今なら機体を動かしても問題はないだろうと判断し、アランは再びゼオンを一歩歩かせた。
探索者たちは再び後ろに下がったが、それでも先程よりは大袈裟ではい。
「武器は……いや、今の状況だと使わない方がいいか」
ゼオンの姿だけでこれだけ驚いているのだから、ビームライフルやビームサーベルの類を使った場合、一体どうなるのか。
また、ここには雲海や黄金の薔薇以外の探索者の姿もあるのだから、わざわざそのような連中にそれらの武器を見せる必要もないだろうと判断し、コックピットの扉を開き、乗降ケーブルを使って地上に降りる。
ざわり、と。
アランの姿を見た者たちがざわめく。
その理由は、ゼオンのコックピットからアランが下りてきたことか、それともアランが離れたのに何故かゼオンがまだその場に残っているからか。
アランにもその理由は分からなかったが、恐らく後者なのだろうと考えた瞬間、まるでそれが合図だったかのようにゼオンを構成していた魔力が塵になって消えていく。
そうして最後に残ったのは、地面に落ちている心核のみ。
大勢からの視線を浴びつつ、アランは地面の心核を手に取る。
「ぴ」
「今は静かにしてろ」
心核……カロが鳴き声を上げたのを聞き、アランは素早くそう言う。
幸い今のカロの鳴き声は離れた場所で自分の行動を見守っている者たちには聞こえなかったのか、特に騒ぎになっている様子はない。
ただえさえゼオンというロボットを心核で生み出すというだけでも目立っているのに、そこにカロのように自我のある心核などという存在が知られれば、間違いなくいらない注目を浴びることになる。
そんな思いからの言葉だったが、幸いにもカロはアロンの言葉に従い、大人しく黙り込む。
(ペットロボット的な存在だから、俺の指示にはしっかりと従うのか?)
そんな疑問を抱きつつ、アランはイルゼンやリア、ニコラスといった面々のいる場所に向かう。
「まぁ、こんな訳で、俺は心核を手に入れたんだけど……遺跡の中では使いにくそうだっただろ?」
「そうね。あそこまで大きいと……もちろん、遺跡の中には通路が広い場所もあるけど、そういう場所は大抵かなり難易度の高い遺跡だしね」
いち早く我に返ったリアが、アランの言葉にそう呟く。
ゼオンの大きさでも入れるような遺跡もあるにはあるが、当然そのような場所は非常に少なく、同時に難易度の高い遺跡として知られていた。
それだけの、見るからに強力なゴーレム――という表現が相応しいのかはリアにも分からなかったが――を持っていても有効に使えるかどうかというのは、非常に難しい。
それこそ、普通に冒険者として活動した方が、討伐や移動、護衛といったように、色々と使い勝手がいいのでは? と思うほどに。
「そうですね。このゴーレム……ゼオンでしたか。かなり特殊な存在ですが、それでも使えないという訳でもありません。ですが、それはあとで話しましょう」
イルゼンがリアの言葉に割り込むようにして強引にそう言ったのは、やはりここに黄金の薔薇やそれ以外に元からここにいた探索者たちが近くにいるからだろう。
ゼオンの姿を見せるのはともかく、それをどのように運用するのかといったことまでは、出来れば知られたくはなかった。
だからか、イルゼンは話を逸らす意味も込め、レオノーラに視線を向ける。
「レオノーラさん、アラン君のゼオンは見せて貰いましたが、貴方の心核は見せて貰えないのですか?」
半ば挑発的な言葉に、レオノーラ本人ではなく黄金の薔薇の面々の方が、不愉快そうな表情を浮かべる。
だが、そんな部下たちを落ち着かせるように、レオノーラは優雅と呼ぶに相応しい動きで軽く腕を振るう。
「落ち着きなさい。アランの心核も見せて貰った以上、こちらも見せる必要があるわ。……そうよね?」
尋ねるようなレオノーラの言葉に、イルゼンは満面の笑みを浮かべて頷く。
そんなイルゼンに、レオノーラも笑みを浮かべてからその場を離れる。
それこそ、アランがゼオンを呼んだときと同じくらい……いや、それよりも遠くまで。
そうして十分に離れたところで、レオノーラは心核を起動する。
瞬間、周囲には眩い光が放たれ……
「あれ?」
ふと、アランが疑問を抱いて呟く。
現在レオノーラから発している光は、たしかに眩しい。
だが、それでも遺跡で見たときの方が、より眩しかったように思えたのだ。
(気のせいか? あの時は初めてレオノーラが心核を使ったし、こうした太陽の下じゃなくて空間の中だったからそんな風に感じたとか?)
眩く輝くレオノーラの姿を見てそんな風に考えるアランだったが、完全に納得するようなことは出来ない。
ただ、アランにとっては若干違和感があっても、それはあくまでもアランにとっては、の話だ。
レオノーラが初めて心核を使う光景を見ている者たちにしてみれば、その光量は十分感動すべきものに思えた。
そして……次の瞬間、黄金のドラゴンがその場に姿を現す。
全高という点では、アランの呼び出すゼオンよりも小さい。
だが、全長……そして純粋な質量という点で考えれば、明らかにゼオンよりも上だった。
『ふぅ。……どう?』
以前と同様、アランの頭の中にレオノーラの言葉が響く。
ドラゴンの顔だというのに、不思議とどこか得意げに見えるその様子に、アランは何かを言おうとして……ふと、周囲の様子に疑問を抱く。
しん、とした静寂に包まれており、誰も何か言葉を発するようなことがなかったためだ。
そうして改めて周囲の様子を見ると、皆が唖然とした様子で……それこそ、ゼオンを見たときよりもさらに驚いたといったように、黄金のドラゴンを眺めている。
総質量ではゼオンよりも明らかに上なんだから仕方がないかと思ったアランは、少しだけ拗ねた様子を見せながら口を開く。
「ほら、レオノーラも自慢げにどう? って聞いてるんだから、答えてやった方がいいんじゃないか?」
『え?』
アランの言葉を聞いていた者たちが、揃ってそう声を上げる。
そう、それはまるでアランが何を言っているのか理解出来ないと、そう言いたげな様子で。
当然のように、そんな相手の様子を見ればアランだって疑問を抱く。
「えっと……レオノーラの言葉、聞こえてるよな?」
一応、といったように恐る恐ると尋ねるアランだったが、その視線を向けられた者たちは揃って首を振る。……縦ではなく、横に。
「アラン、一応聞くけど……彼女の声が聞こえているの?」
リアが尋ねる言葉に、アランは当然といったように頷く。
「聞こえないか? 直接声を発してるんじゃなくて、頭の中に響く感じで」
「私には聞こえないわ。……貴方は?」
ニコラスに視線を向けるリアだったが、そのニコラスも首を横に振る。
「いや、俺も聞こえないな。そうなると、魔力云々の問題じゃなく……相性?」
そんなニコラスの言葉に、アランは微妙な感じがする。
アランにとって、レオノーラという相手は傍から見ているだけなら文句なしの美人で目の保養と言えるのだが、その性格はアランとは合わない。
少なくても、アラン本人はそう思っていた。
取りあえず、相性云々という話は横に置き、アランは目の前で戸惑っている様子の黄金のドラゴン……レオノーラに向ける。
「レオノーラ、取りあえず元に戻ったらどうだ? どうやら、お前の言葉は俺にしか聞こえてないらしいし」
そう言いながらも、レオノーラが自分の、そして他の面々の言葉を理解出来るのは、せめてもの救いだろうと思う。
そんなアランの視線の先で、やがて黄金のドラゴンの身体が塵となって消えていき……最終的に、そこにはレオノーラの姿だけが残っていた。
そのレオノーラは、太陽に煌めく黄金の髪を掻き上げ……やがて、アランの方に近づいてくると、一言呟く。
「アラン、黄金の薔薇に入りなさい」
「え? 嫌だ」
半ば反射的に、アランはそう返事をするのだった。
0
あなたにおすすめの小説
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
氷弾の魔術師
カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語――
平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。
しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を――
※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる