剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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心核の入手

019話

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 心核を入手し、ほとんど成り行きで一緒に行動することになった雲海と黄金の薔薇という二つのクランは、出発前に立ち寄った街……カリナンまで戻ってきた。
 二つのクランが一緒に行動しているということもあって、多少人目を引きはしたが……それでも、カリナンの周囲にはいくつものダンジョンや遺跡があるということで、冒険者や探索者の数はそれなりに多い。
 そのような者たちは、二つのクランが一緒に行動をしていても、すぐに気にせずに自分の用事に戻る。
 一つのクランで攻略が難しい遺跡があった場合、複数のクランが協力してそれに当たるというのは、決して珍しい話ではない。
 ……もっとも、それはあくまでも友好的なクランでの話であって、雲海と黄金の薔薇はそれとは少し違うのだが。

「さて、それでこれからどうするの? カリナンの周辺にはまだいくつか遺跡があるという話だし、そっちに挑むの?」

 レオノーラの問いに、イルゼンは少し考える。
 なお、現在レオノーラやイルゼンを始めとして、二つのクランがいるのは酒場だ。
 料理が美味いというこの酒場を貸し切り、遺跡探索が成功した祝いの打ち上げを行っていた。
 とはいえ、アランとレオノーラ以外の者たちにとっては、それこそ遺跡に到着したと思ったらすぐに街まで戻ってきたのだから、遺跡探索が成功したという実感はない。
 片道一日ちょっとの距離がある以上、完全に遺跡で探索をするよりも移動の時間の方が長かったのだ。
 それでもこうして酒場を借り切っているのは、やはりこれからのことを考えれば、雲海と黄金の薔薇の仲を少しでも良好にしておきたいということだからだろう。
 一応遺跡から戻ってくる途中の野宿でも、一緒に行動して出来るだけ打ち解けるようにはしてきた。
 とはいえ、全く違う二つのクランがそれだけですぐに友好的な関係になる訳もない。
 もちろん、個人的に仲が良くなった者たちはいるので、全くの無駄でもないのだろうが。

「そうですね。心核を手に入れたという点では大きな利益ですが、それを売るといった真似が出来ない以上、出来れば何かで稼ぎたいところなんですが……そちらはどうです?」

 クラッシェンド王国の王女である以上、何らかの資金源を持っているのでは? と視線で尋ねるイルゼンだったが、レオノーラは首を横に振る。

「このような真似をしてるのよ? 誰が支援してくれると思ってるの? もちろん、ある程度は実家から自分の財産を持ってきた人もいるけど、それを当てに出来ないのは当然でしょう。黄金の薔薇は、クランとして稼いだお金で運営してるのよ」
「そうでしたか。……そうなると、やっぱり色々と厳しいことになりそうですね。……そこで、一つ提案があります」
「提案?」

 イルゼンの態度に何か不審なものを感じたのか、少しだけ警戒した表情を向けるレオノーラ。
 だが、イルゼンはそんなのは知ったことかと言わんばかりに、笑みを浮かべて言葉を続ける。

「レオノーラさんが私たちと一緒に行動することにしたのは、アラン君がその理由でしょう? であれば……どうでしょう? 少し小さめですが、まだ攻略されていない遺跡があります。そこを、アラン君と二人で攻略してみるというのは」
「二人で?」

 そう尋ねるレオノーラだったが、実際には二人と一匹――心核の数え方としては不適切かもしれないが、自我を持つカロのことを考えると匹という数え方が正しいと思えた――での探索になるのだろうという思いがある。

「ええ。何だかんだと、レオノーラさんとアラン君はまだ付き合いが短いでしょう? いえ、ほとんどないと言ってもいい。であれば、これから一緒に行動する以上はその辺りをしっかりとして貰いたいと思いましてね」

 イルゼンの言葉は、レオノーラにとっても願ってもないものだ。
 レオノーラにとってアランという人物は、性格はあまり合わないように思えるが、その能力は格別だ。
 心核を使って呼び出すゼオンというゴーレムや、黄金のドラゴンとなった自分の声を聞くことが出来るのだから。
 ……それ以外の、純粋に探索者としての能力という点で見れば、正直なところ見るべきものはないのだが。
 ただ、心核関係に限って言えば、他の者たちと隔絶していると言ってもいい。
 黄金の薔薇にも心核を持つ者は数人いるが、石の騎士との戦いを見る限り、黄金のドラゴンになれる自分でなければ恐らく太刀打ちは出来ないだろうと思えるほどに。
 だからこそ、アランという人物をしっかり理解するという意味では、今回のイルゼンの提案は渡りに船と言ってもいい。

「分かったわ」
「おや、てっきりもう少し悩むかと思ったんですが……まぁ、いいでしょう。ではアラン君!」

 イルゼンの言葉に、雲海の仲間たちと話しながら料理を食べていたアランはテーブルを立ち、イルゼンとレオノーラという、お互いのクランを率いる立場にいる席へとやってくる。

「何です?」
「レオノーラさんと二人で、ちょっと遺跡を攻略してきて下さい」

 あっさりと告げられたその言葉に、アランは最初何を言われているのかが分からなかった。
 二人だけで遺跡を攻略する。
 それは有り体に言って、無理無茶無謀という言葉が相応しいものだったからだ。
 そんなアランの様子に、イルゼンは小さく笑みを浮かべて口を開く。

「別に、深い遺跡を攻略してこいとはいいませんよ。あまり大きくない遺跡で大丈夫です」
「でも、イルゼンさん。俺は……」

 アランが何か言おうとしたのを、イルゼンは手を振って言葉を止める。

「分かっています。アラン君は探索者としてはまだ未熟で、心核を入手しても、それを完全に使いこなせている訳でもありません。ですが、だからこそレオノーラさんと一緒に行動して貰うのです。……それに、君たち二人はあまり人に言えないことがあるのでしょう?」

 どくん、と。
 イルゼンの言葉を聞いた瞬間、アランは自分の心臓が強く鼓動したのを感じた。
 その原因は、現在アランが持っている心核。
 自我を持つペットロボット的な存在である、カロだった。
 イルゼンがカロのことを知っているのかどうかは分からないと判断したレオノーラは、咄嗟にアランに視線を向ける。
 アランもレオノーラの視線の意味は理解したのだろう。すぐに首を横に振る。
 現状、カロのことを知っているのはあくまでもアランとレオノーラの二人だけで、両親にすらそのことは話していない。
 二人が視線を交わしていることには、イルゼンも当然気が付いていた。
 だが、今はその一件に対して特に何か口に出すようなことはなく、ただ笑みを浮かべて二人を見るだけだ。

「どうやら、私の勘も捨てたものではないですね。……ともあれ、恐らく二人はこれからも色々と付き合いが出来るでしょう。そのため、今のうちにしっかりとお互いを理解しておいた方がいいですよ。そういう意味では、二人で遺跡探索をするというのは間違っていないでしょう」

 そんなイルゼンの言葉に、アランとレオノーラの二人が出来るのは、ただ黙って頷くだけだった。
 イルゼンはそれを確認してから、嬉しそうに頷く。
 そんなイルゼンの様子を見れば、アランとしても断るなどということは出来なくなる。
 また、自分が手に入れた心核、カロにかんしても、どうするべきかレオノーラと相談したいという思いがあったのは間違いない。
 遺跡から出たあとは、何だかんだとレオノーラと二人で話をするような時間がなかったということもある。
 アランの心拍数か何かから気持ちを読んだのか、ポケットの中でカロが微かに動いたのをアランは感じた。
 少し大人しくしていてくれと、ポケットの上から軽く叩く。
 アランが見たところ、カロは言葉こそまともに話せないが、それなりに高い知性は持っているように思えた。
 そのおかげで、現在までカロのことはレオノーラ以外は誰にも知られていないと、そう思っていたのだが……

(イルゼンさんは、何気に底知れないところがあったりするからな。……普段はともかく)

 自分たちを率いる人物を一瞥したあとで、アランはレオノーラに視線を向け、口を開く。

「それで、遺跡に行くってことだけど……本当にいいのか? 俺は助かるけど」
「構わないわ。イルゼンが言ってるように、色々と話しておくことがある。……でしょう?」
「そう言われると、俺も否定は出来ないんだけどな」

 そうして、アランはレオノーラと一緒にどの遺跡を攻略するのかといったことを相談することになる。
 当然ながら、宴会をやっている場所でそのような真似は出来ないので、部屋を借りてそこで話すことになったのだが……
 アランは、知っていた。
 こういう酒場の上にある部屋というのは、いわゆる連れ込み宿の類だということを。
 酒場の給仕や歌手、場合によってはそのまま娼婦がいたりすることもあり、そのような人物を口説いたり、もしくは金を払って客となったりした場合に使う宿なのだ。
 もちろんレオノーラもそのようなことを考えている訳ではないが、アランも年頃の男だ。
 レオノーラという年上の美人とそのような部屋に入るとなれば、そういう経験がないだけに緊張してしまう。

「……どうしたの? ほら、早く入りなさいよ。ここで無駄に時間を使う余裕はないんだから」

 部屋の前で動きを止めたアランを、レオノーラは強引に引っ張り込む。
 緊張で動くことが出来なかったアランは、そのまま特に抵抗することもなく部屋に入り……そして、レオノーラの手によって扉が閉められる。
 こうして部屋で二人きりになったのだが、レオノーラは特に気にした様子もなく椅子に座り、椅子が一つしかない以上、当然のようにアランはベッドに腰を下ろす。

「さて、それでどの遺跡に行くかだけど……」

 そう言いながら、レオノーラは少し考える。
 この街に来ると決めたとき、当然のように周辺にある遺跡やダンジョン、あるいは出て来るモンスターといったことは調べており、それを思い出しているのだろう。

「そうね。いくつか候補はあるけど、難易度が簡単だけど得られる金額があまり期待出来ない場所と、そこそこの難易度だけどそれなりに儲けられる場所。どっちがいい?」
「後者だな。……ただ、出来れば俺のゼオンやレオノーラの黄金のドラゴンが動けるような場所がいい」

 アランとレオノーラは、遺跡の件で遅くまで話し合うのだった。
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