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辺境にて
046話
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「うおおおおおおおっ!」
模擬戦用の長剣を勢いよく振るってきた兵士に、アランは後方に飛ぶ。
一瞬後、アランがいた場所を通りすぎていく長剣。
まだ数日しか訓練をしていないにもかかわらず、見て分かるほどに振るわれる武器の速度が素早くなっているのを見ながら、アランはつくづく才能の差というものを恨めしく思いながら一気に前に出て長剣を突き出し、相手の顔面の近くで止める。
「それまでっ!」
審判をしていた兵士の言葉に、アランは突きつけていた長剣を下ろす。
「あー、くそ。まだアランには勝てないか。畜生……」
悔しそうに兵士が呟くが、正直なところ不満を口にしたいのはアランの方だった。
自分にそこまで才能がないというのは分かっているが、それでもたった数日で……と。
今はまだ経験の分でアランが勝っているが、兵士たちに抜かれるのは、恐らくそう遠くないだろうという思いがあった。
「十分強くなってきているよ」
「そうか? なら、嬉しいんだけどな」
アランの言葉に、兵士の男は嬉しそうな笑みを浮かべてそう告げる。
アランよりも若干年上のその兵士は、自分よりも年下のアランに負けたというのに、ふて腐れた様子はない。
もちろん悔しくない訳ではなく、今の模擬戦でどこがおかしかったのかといったことをアランとそれぞれ話し合う。
「うおおおおおおおおおおっ!」
そんな中、ふと大きな声が聞こえてきたので、アランと兵士はそちらに視線を向ける。
そこでは、二メートル近い身長の男が、リアに向かってハルバードを振るっていた。
当然そのハルバードも模擬戦用の物ではあるのだが、重量そのものは実戦で重さの違いに戸惑わないようにと、通常と変わらない。
だからこそ、放たれる一撃は当たれば怪我をしてもおかしくはない。……当たれば、の話だが。
「残念ね」
ハルバードの一撃をあっさりと回避し、相手の懐に飛び込んだリアは、長剣の切っ先を突きつけて模擬戦が終わる。
「うわぁ……ダンガラスは兵士の中でも腕は上の方なのに、あそこまであっさりと……」
アランと模擬戦をした兵士がそう呟くが、そのような光景は訓練場のいたるところで繰り広げられていた。
雲海と黄金の薔薇の全員がここにいる訳ではないが、かなりの人数がここに揃っており、模擬戦を行っていたからだ。
武器の握り方や振り方、身体の動かし方といったことを教えつつ、それを馴染ませるための動きを、習うより慣れろといった具合で模擬戦が繰り返されているのだ。
探索者として一流の腕を持つ者たち――アランのような例外もいるが――の訓練だけに、その全てで探索者側の方が有利な戦いとなっている。
一応探索者側にも、補給の類を担当したり、交渉を担当するといった者たちもいるのだが、そのような者たちは現在ここにはおらず、自分たちの仕事に集中している。
もっとも、そのような面々であっても一定以上の実力は持っているのだから。
何しろ、モンスターや罠といった存在は、相手が戦闘技能を持っているかどうかといったことは全く気にしないのだから。
ともあれ、そんな風にアランは兵士たちとの訓練を行うのだった。
「ぷはぁっ! やっぱり仕事が終わったあとの一杯は格別だな!」
そう言い、兵士の一人がコップに入っていたエールを飲み干す。
アランもまた、そんな兵士に負けないようにエールを口に運ぶ。
日本にいるときは酒の類を飲んだことほとんどないアランだったが、この世界においては酒も飲めない者は馬鹿にされることがある。
それこそ、アランが日本にいるときに読んでいた漫画や小説では、酒場でミルクを注文して酔っ払いに絡まれる……といったシチュエーションが多く見られた。
だからといって、それを心配している訳ではないが、ともあれアランもそこそこ普通には酒を飲むことが出来るし、それなりに美味いと感じない訳でもない。
もっとも、どちらかと言えばアランは酒よりも料理の方が好みだったが。
他の者たちが、酒を美味く飲むために料理を食べるとは違い、アランの場合は料理を美味く食べるために酒を飲む。
(こういうのって何て言うんだか……マリアージュ? うん、そんな感じだったと思う)
そう考えつつ、モンスターの肉を香辛料を使って炒めた、ピリ辛の肉を口に運ぶ。
脂身の多い部分を使っているのだが、上手く下処理をしていることと香辛料の効果によって、脂っぽさはしつこくなく、それでいて肉の旨みへと変化している。
「美味いな、この料理」
「だろ?」
アランの隣でエールを飲んでいた兵士が、その言葉を聞きつけて嬉しそうに告げる。
「この店は、俺たち兵士の行きつけの店なんだよ。いや、兵士だけじゃなくて……」
そこで言葉を切って周囲を見る兵士の視線を追いかけるように、アランも店の中を見回す。
そこには探索者や冒険者といった者もいれば、騎士の姿もあり、商人の姿もある。
多くの客が入っているのを見れば、この店が人気のある店であるというのは明らかだ。
また、その理由として料理や酒が美味く安価であることだけではなく、店員に顔立ちの整った女が多いというのもあるだろう。
……レオノーラという、とんでもない美人と行動を共にすることが多いアランにとっては、そこまで惹かれるものはなかったが。
「まぁ、言いたい事は大体分かった。それと、俺だけを連れてきたのもな」
今回兵士たちに触れたのは、アランだけだ。
年齢が近いというのが一番の理由なのだろうが、レオノーラのような女をこのような店に連れてくるのは避けるべきだと理解していたのだろう。
実際には、元王女であろうとなんだろうと、現在は黄金の薔薇というクランを率いているのだから、このような店に来ることも珍しくはないのだが。
「だろ? ちなみに、店員に気に入られて、運が良ければ……」
酒場の二階に繋がる階段に視線を向け、兵士は興奮した様子で言葉を続ける。
「極上の体験が出来るらしい。もっとも、あんな美人たちにそんな風に誘って貰えれば、それだけで嬉しいだろうけど」
「そう言えば、聞いたか? 二番隊のダラージュがミュージーちゃんと楽しんだらしいぜ?」
「嘘だろ!? ミュージーちゃん……」
一緒に来た兵士の言葉に、先程までアランに話しかけていた兵士は、かなりの衝撃を受けたらしい。
身体を震わせながら、同僚に対する恨みを口にする。
他の兵士たちも同様に、ダラージュという兵士について不満を口にし……そんな中、アランだけは特に気にすることもなく、料理を堪能していた。
そもそも、この店に来るのが始めてのアランにしてみれば、ミュージーという女がどのような女なのかも知らないし、ダラージュという人物のことも知らない。
そんな知らない相手のことをどうこうと考えるよりも、今は目の前にある美味い料理を堪能する方が先決だった。
(兵士たちの訓練の依頼を受けてから数日経つけど、特に何かがあるって訳じゃないな。てっきり、領主が何か手を出してくると思ってたんだけど)
パーティでゼオンを見せたときに浮かべいてた、ザラクニアの表情。
それを思い出せば、それこそ即座に何らかの行動に出てもおかしくはないというのが、アランの予想だった。
だが、その予想とは裏腹に、ザラクニアが特に何か動きを見せる様子はない。
(普通に考えれば、今はタイミングを計ってるってところか?)
実際にアランだけが狙いであれば、即座に何らかの行動を起こしてもおかしくはなかったが、幸いなことにアランは雲海に所属する探索者だ。
そして雲海は、現在黄金の薔薇と共に行動しており、その戦力は非常に高い。
もちろん、ザラクニアの部下にも心核使いはいるだろうし、それこそ騎士団という本当の意味で戦闘が得意としている存在もいる。
正面から戦えば、二つのクランを相手にしても負けることはないだろう。
だが、負けることがないからといって、それは勝てるということでもない。
それこそ、雲海と黄金の薔薇が本気になれば、ここから逃げるといったことは難しくはないのだ。
……いや、ゼオンと黄金のドラゴンという、極めて強力な心核の戦力を持っていることを考えれば、下手をするとその二つのクランに負けるという可能性だって否定は出来ない。
(そうならないといいんだけど……無理だろうな)
パーティのときのザラクニアの様子を思えば、アランはいずれ何かが起きるだろうということに、半ば確信を持っている。
「おい、アラン。どうしたんだ? せっかくこの店に連れて来てやったんだから、もっと食って飲んで、騒ごうぜ!」
アランの様子に気が付いた兵士の一人が、すでに半ば酔っ払ったような状態でそう言ってくる。
せっかくの場所なのだから、楽しく騒いだ方がいいというのは、アランも当然理解し、その言葉にエールの入ったコップを口に運び、飲む。
(エールってビールと同じようなものなんじゃなかったっけ? まぁ、どうやって作ってるのかとか、具体的にどう違うのかは分からないけど)
エールを飲みながらそんな風に思うが、日本にいたときは高校生だったアランに酒の知識などあるはずもない。
あるのは、TVの類で特集をやっているときに見た酒蔵の特集程度であり、それだって詳細に作り方を教えている訳ではなかった。
「うん、美味いなこの料理は。パンとかも欲しくなるけど」
酒のツマミとして用意された料理だけに、基本的に味の濃い料理が多い。
エールと一緒に食べるのはともかく、出来ればパン……もしくはご飯が欲しくなる味だった。
(そう言えば、そろそろ米をどうにかしたいよな)
この地域の主食は、基本的にはパンだ。
ずっとそれで育ってきたのだから、パンが嫌いな訳ではない。
……身体作りも重要ということで、探索者は美味い料理、栄養のある料理といったものを好んで食べるから、というのもあるだろうが。
それでも、やはり元日本人としては米が食いたくなるのは当然だった。
とはいえ、この世界に転生して十年以上。未だに米の類を見たことがないので、半ば諦めていたのだが。
「ほら、飲め飲め! 今日は吐くまで飲むぞぉっ!」
そう叫ぶ兵士の言葉に、出来れば吐きたくはないなぁ、というのがアランの正直な感想だった。
模擬戦用の長剣を勢いよく振るってきた兵士に、アランは後方に飛ぶ。
一瞬後、アランがいた場所を通りすぎていく長剣。
まだ数日しか訓練をしていないにもかかわらず、見て分かるほどに振るわれる武器の速度が素早くなっているのを見ながら、アランはつくづく才能の差というものを恨めしく思いながら一気に前に出て長剣を突き出し、相手の顔面の近くで止める。
「それまでっ!」
審判をしていた兵士の言葉に、アランは突きつけていた長剣を下ろす。
「あー、くそ。まだアランには勝てないか。畜生……」
悔しそうに兵士が呟くが、正直なところ不満を口にしたいのはアランの方だった。
自分にそこまで才能がないというのは分かっているが、それでもたった数日で……と。
今はまだ経験の分でアランが勝っているが、兵士たちに抜かれるのは、恐らくそう遠くないだろうという思いがあった。
「十分強くなってきているよ」
「そうか? なら、嬉しいんだけどな」
アランの言葉に、兵士の男は嬉しそうな笑みを浮かべてそう告げる。
アランよりも若干年上のその兵士は、自分よりも年下のアランに負けたというのに、ふて腐れた様子はない。
もちろん悔しくない訳ではなく、今の模擬戦でどこがおかしかったのかといったことをアランとそれぞれ話し合う。
「うおおおおおおおおおおっ!」
そんな中、ふと大きな声が聞こえてきたので、アランと兵士はそちらに視線を向ける。
そこでは、二メートル近い身長の男が、リアに向かってハルバードを振るっていた。
当然そのハルバードも模擬戦用の物ではあるのだが、重量そのものは実戦で重さの違いに戸惑わないようにと、通常と変わらない。
だからこそ、放たれる一撃は当たれば怪我をしてもおかしくはない。……当たれば、の話だが。
「残念ね」
ハルバードの一撃をあっさりと回避し、相手の懐に飛び込んだリアは、長剣の切っ先を突きつけて模擬戦が終わる。
「うわぁ……ダンガラスは兵士の中でも腕は上の方なのに、あそこまであっさりと……」
アランと模擬戦をした兵士がそう呟くが、そのような光景は訓練場のいたるところで繰り広げられていた。
雲海と黄金の薔薇の全員がここにいる訳ではないが、かなりの人数がここに揃っており、模擬戦を行っていたからだ。
武器の握り方や振り方、身体の動かし方といったことを教えつつ、それを馴染ませるための動きを、習うより慣れろといった具合で模擬戦が繰り返されているのだ。
探索者として一流の腕を持つ者たち――アランのような例外もいるが――の訓練だけに、その全てで探索者側の方が有利な戦いとなっている。
一応探索者側にも、補給の類を担当したり、交渉を担当するといった者たちもいるのだが、そのような者たちは現在ここにはおらず、自分たちの仕事に集中している。
もっとも、そのような面々であっても一定以上の実力は持っているのだから。
何しろ、モンスターや罠といった存在は、相手が戦闘技能を持っているかどうかといったことは全く気にしないのだから。
ともあれ、そんな風にアランは兵士たちとの訓練を行うのだった。
「ぷはぁっ! やっぱり仕事が終わったあとの一杯は格別だな!」
そう言い、兵士の一人がコップに入っていたエールを飲み干す。
アランもまた、そんな兵士に負けないようにエールを口に運ぶ。
日本にいるときは酒の類を飲んだことほとんどないアランだったが、この世界においては酒も飲めない者は馬鹿にされることがある。
それこそ、アランが日本にいるときに読んでいた漫画や小説では、酒場でミルクを注文して酔っ払いに絡まれる……といったシチュエーションが多く見られた。
だからといって、それを心配している訳ではないが、ともあれアランもそこそこ普通には酒を飲むことが出来るし、それなりに美味いと感じない訳でもない。
もっとも、どちらかと言えばアランは酒よりも料理の方が好みだったが。
他の者たちが、酒を美味く飲むために料理を食べるとは違い、アランの場合は料理を美味く食べるために酒を飲む。
(こういうのって何て言うんだか……マリアージュ? うん、そんな感じだったと思う)
そう考えつつ、モンスターの肉を香辛料を使って炒めた、ピリ辛の肉を口に運ぶ。
脂身の多い部分を使っているのだが、上手く下処理をしていることと香辛料の効果によって、脂っぽさはしつこくなく、それでいて肉の旨みへと変化している。
「美味いな、この料理」
「だろ?」
アランの隣でエールを飲んでいた兵士が、その言葉を聞きつけて嬉しそうに告げる。
「この店は、俺たち兵士の行きつけの店なんだよ。いや、兵士だけじゃなくて……」
そこで言葉を切って周囲を見る兵士の視線を追いかけるように、アランも店の中を見回す。
そこには探索者や冒険者といった者もいれば、騎士の姿もあり、商人の姿もある。
多くの客が入っているのを見れば、この店が人気のある店であるというのは明らかだ。
また、その理由として料理や酒が美味く安価であることだけではなく、店員に顔立ちの整った女が多いというのもあるだろう。
……レオノーラという、とんでもない美人と行動を共にすることが多いアランにとっては、そこまで惹かれるものはなかったが。
「まぁ、言いたい事は大体分かった。それと、俺だけを連れてきたのもな」
今回兵士たちに触れたのは、アランだけだ。
年齢が近いというのが一番の理由なのだろうが、レオノーラのような女をこのような店に連れてくるのは避けるべきだと理解していたのだろう。
実際には、元王女であろうとなんだろうと、現在は黄金の薔薇というクランを率いているのだから、このような店に来ることも珍しくはないのだが。
「だろ? ちなみに、店員に気に入られて、運が良ければ……」
酒場の二階に繋がる階段に視線を向け、兵士は興奮した様子で言葉を続ける。
「極上の体験が出来るらしい。もっとも、あんな美人たちにそんな風に誘って貰えれば、それだけで嬉しいだろうけど」
「そう言えば、聞いたか? 二番隊のダラージュがミュージーちゃんと楽しんだらしいぜ?」
「嘘だろ!? ミュージーちゃん……」
一緒に来た兵士の言葉に、先程までアランに話しかけていた兵士は、かなりの衝撃を受けたらしい。
身体を震わせながら、同僚に対する恨みを口にする。
他の兵士たちも同様に、ダラージュという兵士について不満を口にし……そんな中、アランだけは特に気にすることもなく、料理を堪能していた。
そもそも、この店に来るのが始めてのアランにしてみれば、ミュージーという女がどのような女なのかも知らないし、ダラージュという人物のことも知らない。
そんな知らない相手のことをどうこうと考えるよりも、今は目の前にある美味い料理を堪能する方が先決だった。
(兵士たちの訓練の依頼を受けてから数日経つけど、特に何かがあるって訳じゃないな。てっきり、領主が何か手を出してくると思ってたんだけど)
パーティでゼオンを見せたときに浮かべいてた、ザラクニアの表情。
それを思い出せば、それこそ即座に何らかの行動に出てもおかしくはないというのが、アランの予想だった。
だが、その予想とは裏腹に、ザラクニアが特に何か動きを見せる様子はない。
(普通に考えれば、今はタイミングを計ってるってところか?)
実際にアランだけが狙いであれば、即座に何らかの行動を起こしてもおかしくはなかったが、幸いなことにアランは雲海に所属する探索者だ。
そして雲海は、現在黄金の薔薇と共に行動しており、その戦力は非常に高い。
もちろん、ザラクニアの部下にも心核使いはいるだろうし、それこそ騎士団という本当の意味で戦闘が得意としている存在もいる。
正面から戦えば、二つのクランを相手にしても負けることはないだろう。
だが、負けることがないからといって、それは勝てるということでもない。
それこそ、雲海と黄金の薔薇が本気になれば、ここから逃げるといったことは難しくはないのだ。
……いや、ゼオンと黄金のドラゴンという、極めて強力な心核の戦力を持っていることを考えれば、下手をするとその二つのクランに負けるという可能性だって否定は出来ない。
(そうならないといいんだけど……無理だろうな)
パーティのときのザラクニアの様子を思えば、アランはいずれ何かが起きるだろうということに、半ば確信を持っている。
「おい、アラン。どうしたんだ? せっかくこの店に連れて来てやったんだから、もっと食って飲んで、騒ごうぜ!」
アランの様子に気が付いた兵士の一人が、すでに半ば酔っ払ったような状態でそう言ってくる。
せっかくの場所なのだから、楽しく騒いだ方がいいというのは、アランも当然理解し、その言葉にエールの入ったコップを口に運び、飲む。
(エールってビールと同じようなものなんじゃなかったっけ? まぁ、どうやって作ってるのかとか、具体的にどう違うのかは分からないけど)
エールを飲みながらそんな風に思うが、日本にいたときは高校生だったアランに酒の知識などあるはずもない。
あるのは、TVの類で特集をやっているときに見た酒蔵の特集程度であり、それだって詳細に作り方を教えている訳ではなかった。
「うん、美味いなこの料理は。パンとかも欲しくなるけど」
酒のツマミとして用意された料理だけに、基本的に味の濃い料理が多い。
エールと一緒に食べるのはともかく、出来ればパン……もしくはご飯が欲しくなる味だった。
(そう言えば、そろそろ米をどうにかしたいよな)
この地域の主食は、基本的にはパンだ。
ずっとそれで育ってきたのだから、パンが嫌いな訳ではない。
……身体作りも重要ということで、探索者は美味い料理、栄養のある料理といったものを好んで食べるから、というのもあるだろうが。
それでも、やはり元日本人としては米が食いたくなるのは当然だった。
とはいえ、この世界に転生して十年以上。未だに米の類を見たことがないので、半ば諦めていたのだが。
「ほら、飲め飲め! 今日は吐くまで飲むぞぉっ!」
そう叫ぶ兵士の言葉に、出来れば吐きたくはないなぁ、というのがアランの正直な感想だった。
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