剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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辺境にて

047話

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 その日の訓練は、少しだけ特別だった。
 今までは、兵士たちの基礎的な訓練と模擬戦を主にしていたものではあったが、基本的に模擬戦の相手をするのは、あくまでも雲海や黄金の薔薇のクランの面々であり、生身の人だった。
 だが、今日は……

「ちょおおおおっ! 無理! 無理ですって!」

 兵士の一人が、自分の前に立っている存在を前に、そう叫ぶ。
 兵士の前に立っているのは、白い毛を持つ巨大な猿のモンスター。
 雲海に所属する心核使いの一人、カオグルが心核を使って変身したモンスターの姿だ。
 心核使いというのは、変身するモンスターにもよるが、一種の決戦兵器とでも呼ぶべき力を持つ。
 そんな相手の前に一人で立たされた兵士が悲鳴を上げるのは当然だった。
 だが、そんな兵士の叫びに対して、この訓練を全面的に任されているリアは、涼しい顔をして口を開く。

「いざ戦場で心核使いに会ったときも、そうやって無理だって言うの? そんな様子だと、それこそ生きるのが無理ね」
「ぐっ!」

 リアの言葉に、カオグルが変身した白猿の前にいた兵士が言葉に詰まる。
 実際、それは決して大袈裟でも何でもない、純然たる事実だったからだ。
 もし戦場において相手の戦力に心核使いがいた場合、その心核使いの前に出たとき、どうするべきなのか。
 それを考えれば、無理だと口にしてもそれは意味がない。
 であれば、目の前に存在する力の権化とも言うべき相手を前にして、どうにかする必要があるのは間違いなかった。

「くそっ、行くぞ! 心核使いを相手にしたって、俺たちなら何とか出来るってところを見せてやるんだ!」
『おおおおおおお!』

 兵士の一人が叫んだ声に、他の兵士たちが雄叫びを上げる。
 もっとも、その雄叫びは自分の中にある恐怖心を押し殺すためのものだったのだが。
 カオグルは、そんな兵士たちを黙って見ている。
 相手の準備が整うまでは待っており、相手が動かない限りは自分からも動かないということなのだろう。
 それを察した兵士は、何故か……そう、何故か訓練を付ける側であるにもかかわらず、兵士たちの方に組み込まれているアランに尋ねる。

「アラン、あの心核使いを相手に、気をつけることは何かあるか!?」
「まず、外見で分かると思うけど素早い。それと、あの白い毛はかなり高い防御力を持っている……どころか、毛針みたいな感じにして攻撃にも使える」
「厄介な」

 白猿の体毛は、まさに攻防一体の武器と言っても間違いないではない。
 であれば、有効な攻撃が出来る場所も限られてしまうということになってしまう。
 もちろん、心核で変身したモンスターである以上、それ以外にも色々と攻撃手段があるのを、アランは知っている。
 だが、さすがにそれを長々と説明している暇は、存在しなかった。

「よし、全員狙うのはあの白い毛で覆われていない場所だ。いいな? これだけの人数で戦うんだ。絶対に勝てる!」

 叫び、全員で一斉に攻撃を行うも……

『ぐはぁっ!』

 結局手も足も出ず、負けるのだった。





「がははははは!」

 心核を使ってオーガに変身したロッコーモは、豪快な笑い声を上げながら、その太い手足を振り回す。
 カオグルに続いて黄金の薔薇の心核使いジャスパーが変身したリビングメイルによって蹴散らされた兵士たち――アラン含む――は、心核使いの三戦目ということでロッコーモのオーガとの戦いを行っていた。
 素早い動きを得意とする白猿や、槍を使いこなすジャスパーと違い、ロッコーモの変身したオーガは、豪快と言えば聞こえはいいが、実際には脳筋と呼ぶべき力こそパワーとでも呼ぶべき戦い方だった。
 だからこそ、兵士たちも何とかその一撃を回避出来ているのだが。
 とはいえ、兵士たちのすぐ目の前を空気そのものを砕くかのような音を立てて振るわれるロッコーモの一撃は、当たられなければどうということはないと分かっていても、戦っている者の身体を恐怖に襲わせるには十分なものがあった。
 ロッコーモも当然のように手加減をしての一撃である以上、振るわれる攻撃の速度は普段よりも大分抑えたものだ。
 そのような一撃であっても、当たれば吹き飛ばされ、大きなダメージを負うのは確実である以上、兵士たちは必死に回避する。
 とはいえ、回避しているだけでは戦いに決着がつく訳もなく……

「ほら、どうしたの! 攻撃しないと、戦いは終わらないわよ!」

 そんな戦いを見ていたリアの、叱咤する声が兵士たちの耳に届く。
 ロッコーモの攻撃を回避することに集中しているにもかかわらず、戦いの場にいないリアの声が戦っている者たちに聞こえることに疑問を覚えてもおかしくはなかったが、戦いの中にいる兵士たちはそんな疑問を感じている暇はない。
 リアの言葉に言い返すようなことは出来ず、とにかくロッコーモの攻撃を回避することに専念する。
 心核使いを相手にするというのは、ここまで大変なものだったのかと、そんなことを思い……いや、思うような余裕すら持たずに。
 それでも、数分近くも攻撃を回避し続けていれば、ある程度その動きにも慣れてくる。
 ……実際には、その性格に似合わず、そうなるようにロッコーモが手加減をしているという点が大きいのだが。
 ともあれ、兵士たちは何とかしてロッコーモの攻撃を回避して接近しようとする。
 オーガというのは巨体なだけに、近づかれれば対処は難しいと考えてのことだろう。
 言ってみれば、槍のような長柄の武器を手にした相手との戦いを応用しての判断ではあったのだが……

「うわあああああああっ!」

 回避に失敗した兵士の一人が、ロッコーモの振るう腕の一撃によって悲鳴を上げながら吹き飛ばされていく。
 本来のロッコーモの実力であれば、兵士が着ている金属鎧がひしゃげるくらいの一撃を放つことが出来る。
 だが、ロッコーモが手加減をしているおかげで、金属鎧に特に被害の類はない。
 ……もっとも、その金属鎧を着ている兵士の方は、一撃で気絶させられてしまったが。
 その後も何とかロッコーモの間合いに内側に入ろうと兵士たちは頑張るのだが、それに成功する者は誰一人としておらず……最終的には、今までと同じく兵士たちの負けとなるのだった。





「じゃあ、アラン。お願いね」

 リアのその言葉に、アランは若干不満を抱きつつも了承する。
 子供として、母親からの命令には逆らえないということを残念に思いながら。
 兵士たちの心核使いとの模擬戦が一通り終わり、ある意味で当然ではあるが兵士側の全敗という結末になったところで、不意にリアが言ったのだ。
 アランもまた心核使いであるけど、それがどのような代物なのか見たいか、と。
 兵士の中には、アランが心核使いであると知っている者もいれば、知らない者もいた。
 だが、そんなのは関係なく、アランの心核を見たいと主張する者が多く……結果として、アランは現在のようにリアからの指示によって兵士たちにゼオンを見せることになったのだ。

(ここの領主がゼオンに対して何らかの思いを、それも良からぬ思いを抱いているのはほぼ確定なのに、そんなときにゼオンを見せびらかすような真似をしてもいいのか?)

 そんな疑問を抱かない訳ではなかったが、アランが心配しているようなことは、当然のように想定ずみなのだろうと判断し、取りあえず兵士たちから離れて懐からカロを取り出す。

「話は聞いてたな? ゼオンを呼ぶけど、構わないか?」
「ぴ!」

 アランの言葉に、カロは嬉しそうに鳴く。……ただし、兵士たちには聞こえないような声で。
 探索者の面々の中には、古代遺跡に潜るという行為の関係上、常人以上の聴力を持っている者もおり、そのような者はカロの声が聞こえはしたが、カロの正体を知っている以上、何も言ったりはしない。
 そんな中で、アランはカロに魔力を流し……ゼオンを呼び出す。

『おおおおお』

 突然自分たちの視線の先に現れたゼオンの姿に、兵士たち全員の口から驚きの声が上がる。
 ゼオンを見せたときのパーティに護衛として参加していた兵士もおり、その兵士はこれが二度目のゼオンということになのだが、二度目だからといってゼオンを見て驚かない訳がなかった。

「あれは……一体、何だ? ゴーレムか?」
「いや、けど……俺が知っているゴーレムってあんな優美な姿はしていないぞ?」
「うーん、ゴーレムと言ったって、別に普通のゴーレムじゃないんだろ? それこそ、アランの心核で呼び出した代物だと考えれば、普通のゴーレムじゃなくても納得出来ないか?」
「まぁ、アランより弱い俺たちが言うのもなんだけど、俺たちとそう大差ない実力で探索者としてクランに入ってるのはおかしいと思ってたんだよ。けど、心核使いなら納得だ」
「でも、あのゴーレムはでかいよな? さっきのオーガよりもよっぽど強そうに見えるし。遺跡に入るのって無理じゃないか?」
「……なるほど」

 何人もの兵士たちが、それぞれにゼオンを見ながら言葉を交わす。

「……全部聞こえてるんだけどな」

 ゼオンのコックピットの中で、アランはそう呟く。
 ゼオンの集音性能は非常に優秀で、兵士たちが話している言葉は当然のように聞くことが出来た。
 兵士たちはある程度の大声で話しているが、ゼオンをちょっと特殊なただのゴーレムだと思っているためか、まさか自分たちの会話が聞かれているとは全く思っていなかったのだろう。

(この機能があれば、何か後ろ暗い連中がしている密談とかを……いや、ゼオンの大きさを考えれば、すぐに見つかってしまうか)

 そのことを少しだけ残念に思いつ、アランはゼオンの腕を動かして軽く手を振る。

『おおお』

 そんな仕草にも、何人もの兵士たちがそれぞれ驚愕の声を上げる。
 いや、その声の中には驚愕だけではなく喜びの色すら混ざっていた。
 心核使いそのものは、今日だけで何人も見た。
 だが、その全ては戦うべき相手であって、こうして友好的――と表現してもいいのかどうかは分からないが――に接することが出来たという相手はいなかった。
 また、ゼオンが非常に珍しいゴーレムであると兵士たちが認識している点でも違うだろう。
 レオノーラが心核を使ったらどうなるのか。
 そんな風に思いながら、アランはゼオンを動かすのだった。
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