剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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辺境にて

054話

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 アランは時間が経つに連れて意識が朦朧とし、身体も酷く怠くなっていった。
 それでも、レオノーラとの会話から現在野営地が盗賊に襲われているとういのは理解しており、レオノーラに肩を貸して貰って移動をしようとしていたのだが……それに気が付いたのは、アランがあまり身体に力が入らず、結果としてレオノーラと歩いているときに顔が後ろを向いたからだろう。
 そんな状況でアランが見たのは、今にも長剣をレオノーラに向かって振り下ろそうとしている兵士の姿。
 ただ、その兵士もレオノーラを殺すつもりはないのか、持っている長剣は鞘に収まったままであり、長剣を長剣ではなく、鈍器として使おうとしていた。
 レオノーラは周囲……特に前方から盗賊がやって来ないかと警戒しているためか、背後で長剣を振りかぶっている兵士の姿に気が付いた様子はない。
 それを見た瞬間、アランは半ば反射的に自分に肩を貸していたレオノーラを真横に吹き飛ばす。
 レオノーラも、まさか自分が肩を貸していたアランがそのような真似をするとは思っていなかったのか、完全に意表を突かれた形で真横に吹き飛び……同時に、アランの身体に強い衝撃が走る。

「ぐがっ!」

 一撃でレオノーラの意識を失わせようとしていたためか、兵士が振るった一撃の威力は結構な強さだった。
 苦痛の悲鳴を上げつつ地面に叩きつけられながらも、半ば反射的に長剣を振るった兵士に体当たりをし、そのまま兵士諸共地面に転がる。
 幸運だったのは、よろけた拍子に何かに掴まろうとして振り回した手のうち、肘が兵士の喉に命中したことだろう。
 倒れながらだったので致命傷を与えるという訳にはいかなかったが、それでも兵士を気絶させる程度のことは出来た。

「ちっ、アランを確保をしろ! レオノーラの方は、抵抗するようなら殺しても構わん! アランは戦力にならないから、レオノーラを先に捕らえろ!」

 先程までは丁寧な口調で喋っていた騎士が、まさに一変したといった様子で鋭く叫ぶ。
 周囲にいる兵士たちは、上官の命令に従ってレオノーラに向かう。
 だが、レオノーラはアランに吹き飛ばされた次の瞬間にはすでに思考を戦闘状態に切り替えており、倒れた状態から片手を使って飛び上がりながら、腰の鞭に手を伸ばす。
 そうして鞭に触れた次の瞬間には、鞭の先端が空中を舞っていた。
 鞭というのは、熟練者が使えば容易にその先端が音速を超えると言われている。
 レオノーラも当然のようにその域に届いており……いや、すでにその域を通りすぎており、素早く振るわれていた鞭はまるで空中を蛇のように動き、襲ってきた兵士たちの顔面を鋭く叩く。
 先端が音速を超えた一撃は、兵士たちの顔に当たって悲鳴を上げさせる。
 いや、悲鳴を上げているだけの兵士は、まだ運が良いのだろう。
 運の悪い兵士は、それこそ鞭の一撃によって眼球を潰されており、悲鳴を上げながら顔を覆い、地面を転げ回っていたのだから。

「どうやら、貴方たちが盗賊と繋がっていたらしいわね」
「……俺たちが盗賊と? まさか、冗談を言って貰っては困るな」

 周囲にいた兵士の全てが、半ば戦闘不能となったのを見ながら、騎士はレオノーラに向けてそう告げる。
 本来ならこうして悠長に話している暇はないのだが、騎士は自分一人だけでレオノーラをどうこう出来るとは思えなかった。
 兵士が一緒ならどうにか出来ると思っていたのだが、その兵士も一瞬にしてほぼ全員が無力化されている。
 そうなると、今の騎士に出来るのは少しでも時間を稼ぎ、まだ傷の浅い兵士が戦えるようになるのを待つか、もしくは他の仲間たちがここにやって来るのを待つかするしかない。
 レオノーラたちに多少なりとも情報を与えるのはあまり面白くないものの、今の状況でレオノーラと戦うよりはそちらの方が勝算もあった。
 レオノーラもそんな相手の思惑は理解していたが、今は少しでも多くの情報を得る必要があったので、それを許容する。
 ……そもそもの話、最悪の事態になったらアランとレオノーラはそれぞれ心核を使ってこの場から退避すればいいだけ、という思いもあったのだが。

「盗賊の仲間じゃないの? なら、貴方たちは一体何がどうなって私たちに危害を加えているのかしら?」
「それは、もちろんそのように命令されたからだ」

 命令。
 そう聞かされたレオノーラは、視線を厳しくする。
 騎士に命令出来る立場の者というのは、それこそ限られている。
 そんな中で一番怪しいのは……そう考えれば、一人の名前が自然のレオノーラの口から紡ぎ出された。

「ザラクニア」

 その名前に、騎士は一瞬だけ反応する。
 普通であれば気が付かないだろう反応だったが、現在騎士の前にいるのはレオノーラだ。

「なるほど。当たり、ね。可能性としては半々くらいだったのだけれど」

 騎士団長がこの場にいるということは、もしかしたら騎士団長の独断かもしれない。
 そんな思いがあったのだが、どうやらレオノーラにとって事態は最悪と呼ぶしかない方に向かっているらしい。

「そうなると、もしかして今回の盗賊の件も……」

 レオノーラの言葉に、騎士は少しだけ驚きの表情を浮かべる。

「気が付いたのか。さすが一国の王女と褒めるべきか、それともクランを率いるだけの実力はあると感心するべきか。……迷うな」

 そう言いながら、騎士は鞘から大剣を引き抜く。
 普通の長剣よりも遙かに大きなそれは、もしその一撃が命中すれば、間違いなく致命傷になると判断出来るだけの迫力があった。
 そんな大剣を見ながら、聞こえてくる足音……鎧を着ているからだろう。金属の音が聞こえてくることにより、何故今まで話をして時間の稼いでいた騎士が己の武器を構えたのかを理解する。

(アランの調子が治るより、向こうの方が早かった、か。まぁ、ある程度の予想はしていたけど。それに、ある程度の情報も入手したし)

 レオノーラは騎士の動きに反応するように鞭を構えると、最後に一つ質問を口にする。

「アランの調子が悪いのは、貴方たちが何かしたからね?」

 先程、騎士はアランは戦力にならないと断言していた。
 レオノーラがアランに肩を貸していたというのもあるし、何よりアランの調子が良くないというのは直接口にしている。
 だが、それでも具体的にどのくらい動けるのか、もしくは動けないのかといったことは知らないはずなのに、戦力にならないと断言しているのだ。
 それは、明らかにアランが現在どのような状況なのかを知っているということを意味していた。
 そして、騎士はレオノーラの言葉に頷きを返す。

「そうだ。食事のときにちょっと薬を盛らせてもらった。安心しろ、その体調不良は一時的なもので、数日すれば薬の効果は消える」
「そう。……全く面倒なことをしてくれるわ……ねっ!」

 その言葉と共に、振るわれる鞭。
 聞きたい情報はすでに得た以上、いつまでも騎士の話に付き合う必要はなかった。
 すでに援軍の騎士や兵士と思われる者たちも、かなり近づいてきている。
 そのような者たちを纏めて相手にしても、レオノーラは負けるつもりはない。
 だが、だからといって相手が有利になるようにしてやる必要はなかった。
 しかし、騎士は持っていた大剣を使ってレオノーラの鞭を防ぐ。
 短い間ではあるが、レオノーラと接してきた経験や、自分の部下の兵士たちに攻撃したときの様子から、こうなることは予想出来ていたのだろう。

「この程度で、どうにか出来ると思ったか!」

 騎士も、出来れば援軍が到着するのを待ちたかったが、すでに戦闘が始まってしまった以上はそんな余裕はない。
 それでも、援軍が来れば自分に有利になるのだから、積極的に攻めるのではなく時間を稼ぐために防御を主軸とした戦い方となる。

「固いわね!」

 続けて振るわれた鞭の一撃を大剣で防いだ騎士に対し、レオノーラの口か苛立たしげな叫びが放たれ……

「ゾルゲン、待たせたな!」

 ちょうどそのタイミングで、兵士を引き連れた騎士が合流する。
 レオノーラと戦っていた騎士……ゾルゲンと呼ばれた騎士は、レオノーラと向かい合って大剣を構えたままで口を開く。

「気をつけろ、こいつは手強い。さすがクランを率いるだけの実力はある」

 ゾルゲンの言葉に、新たにやって来た騎士は顔面を押さえて地面に倒れている兵士たちを見回す。
 そこに倒れている兵士達こそが、レオノーラが手強い相手だということの、何よりの証拠だった。
 騎士も、自分たちの引き連れている兵士たちがどれだけの実力を持っているのかというのは、当然のように理解している。

「分かった。けど、それだけ手強いとなると厄介だな。出来れば生かしたまま捕らえたかったんだが」

 そう告げる騎士の目には、欲望に濁った色がある。
 レオノーラという希に見る美女を捕らえることが出来れば、自分の物には出来なくても、一度や二度その身体を蹂躙することは出来たかもしれないのだ。
 だが、それはあくまでも生きていればの話であって、騎士には死体を抱くような特殊な趣味はない。

「お前が何を考えてるかは分かるが、この女は迂闊に手を出すような真似をすればこっちが痛い目に遭ってしまう。いいか? 決して手を抜くような真似をするな。それと、あっちに転がっているアランは絶対に殺すな」
「分かってる。あいつの心核だろ?」

 駆けつけた騎士が口にした言葉に、それを聞いていたレオノーラはやはり、と納得する。
 アランを傷つけないようにしていることから、アランが目的であるのは明らかであり、そして今のアランにここまでの事態を引き起こして欲するようなものは、心核しかない。

(異世界から転生してきた……なんてことを知っていれば、心核よりもアラン本人に強い興味を抱いてもおかしくはないのだけれど)

 だが、アランが転生者であることを知っているのは、スタンピードのときに偶然それを知ることになったレオノーラしかない。
 両親にすら秘密にしている内容である以上、当然のように目の前にいる騎士たちがそれを知っているはずはない。
 日本で暮らしていたアランの記憶を体験したレオノーラにしてみれば、ゼオンもそうだが、その知識からアラン本人の方にこそ、大きな価値があると判断出来た。

(心核は……いえ、盗賊と戦っている兵士や騎士もいるということは、この連中とは別の存在がいるのも間違いないわ。そうなると、心核を使うのも難しい、か)

 レオノーラが心核で変身する黄金のドラゴンは、強力無比なモンスターではあるが、レオノーラ本人がまだ慣れていないということもあり、細かい作業は向いていない。
 つまり、今の状況ではやはり心核抜きでこの場を切り抜けなければならず……

「厄介ね」

 小さく呟き、鞭を握り直すのだった。
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