剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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辺境にて

065話

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 アランは一瞬、目の前の光景を理解出来なかった。
 当然だろう。本来は、何とかザラクニアに捕らえられた両親や仲間たちを助けるために行動しようとしていたのに、その行動に移すよりも前に何故かその救出対象者たちが姿を現したのだから。

「えっと、父さん? 母さん? イルゼンさん? ザラクニアに捕まったてたんじゃ?」

 アランの口から、当然の疑問が出る。
 ちなみに、そんなアランの側では黄金の薔薇の面々もまた、同じような視線を突然現れた面々に向けている。
 何故なら、イルゼンたちの中には黄金の薔薇の者たちの姿もあったためだ。

「ああ、もちろん捕まっていましたよ。けど、いつまでも捕まってる訳にもいかないからね。逃げ出してきたんです」
「……いや、そんなにあっさり」

 イルゼンの口から出た言葉に、アランは唖然とした様子を隠さずにそう告げる。
 言葉には出さなかったが、レオノーラを含めて他の者たちもアランと同じような表情を浮かべていた。

「ほら、アラン。イルゼンさんのことだから。……正直、捕まっていた俺もこんなことになるとは思ってなかったけど」

 イルゼンたちと一緒に逃げてきた雲海のメンバーの一人が、同情するようにアランに告げる。
 実際、自分たちでもこのようなことになるとは思っていなかったからだ。
 イルゼンが一緒に捕まっていた他の仲間たちを助けたのか。その理由と方法は分かっているのだが……一体、どのようにしてそのようなことになったのかも分かるのかと言われれば、答えは否だ。

「あのですね、何でもかんでも私が悪いみたいな風に言わないで下さいよ。……私たちが助かったのは、モリクさんによるものです」
『え?』

 イルゼンの口から出た予想外の名前に、アランは……いや、アランだけではなく、他の者たちも同様に驚きの声を上げる。
 当然だろう。モリクはラリアントに所属する騎士で、その上、アランとレオノーラを騙し討ちするためだった盗賊の討伐にも同行した人物だ。
 それだけに、アランの中ではモリクは完全に敵だと認識されていた。
 にもかかわらず、何故そのモリクがイルゼンたちを助けるのか。
 それを疑問に思っても当然だろう。
 そして、アランを含めて他の面々が何故そのように思っているのかを理解したイルゼンは、いつもの飄々とした笑みを浮かべながら口を開く。

「驚いているようですが、別に騎士だからといって主に盲目的に従う訳ではありません。それこそ忠誠を誓ったからこそ、間違った道に進もうとしている主を止めるのも、また騎士です。……残念ながら、その人数は少ない上に、盗賊の件で多くの者が殺されてしまったようですが」
「あー……なるほど」

 それは、アランにとっても納得出来ることだった。
 あの野営地では、盗賊が夜襲をしてきたのはともかく、それ以外でも戦いが起こっていた。
 つまり、騎士同士、兵士同士で戦っていたのだ。
 何故そのようなことになったのかというのは、アランにも疑問だったが、イルゼンの説明で納得した。

「つまり、ラリアントの兵士や騎士全員がザラクニアに従っている訳ではなかった、ということですか?」
「その通り。……ザラクニアにとって今回の一件は、自分に従わない相手を始末するのと、アラン君の持つ心核を、アラン君諸共手に入れるため。その両方が狙いだったのでしょう」
「……ちょっと待って」

 イルゼンの説明を聞いていたレオノーラは、ふと疑問を抱いて口を開く。

「モリクが捕まっていた人たちを助けたという話だけど、どうやって? 今の話を聞く限りでは、モリクもザラクニアに邪魔と思われていて、野営地に送られたんでしょう? なのに……」
「そこから逃げ出して、ラリアントに戻ってきたんだよ。そして、仲間と合流して、私たちを助けてくれたんだ」

 何だか出来すぎているような気がするレオノーラだったが、実際にこうしてイルゼンたちが自由になっているのは事実だ。
 そこまで怪しむとなると、それこそ今回の一件にイルゼンたちまでもが加わっているという可能性すら考えなければならない。
 ……一瞬だけ、イルゼンならそんな真似をしてもおかしくないと思ってしまったのは、それだけレオノーラもイルゼンという人物について理解が深まったということなのだろう。

(イルゼンはともかく、アランの両親を含めてそんな真似をする奴はいない……と、そう思いたいところね)

 もし何かあったら、すぐに対処しよう。
 そう思いながら、レオノーラは口を開く。

「それで、これからどうするの? 黄金の薔薇を率いる身としては、このような真似をされて黙っている訳にはいかないのだけれど」
「それは私も賛成だね。このままにしておくと、絶対に面倒なことになるだろうし」

 この場合の面倒というのは、自分たちが侮られて妙な相手にちょっかいを掛けられるというのもあるが、この国が戦争になってしまった場合のことも含まれる。
 戦争になれば当然のように物価の類も上がるだろうし、場合によってはクランが戦争に参加させられる可能性も高い。
 また、雲海と黄金の薔薇は、その戦争が引き起こされた事情に深く関係している以上、事情聴取といったものもあるだろう。
 その理由は様々だが、とにかく現在分かっていることは、このままにしておけないということだった。

「でも、まさか街中で戦闘をする訳にはいかないでしょ? どうするの?」
「モリクさんたちが脱出する準備をしているから、そちらに合流しましょう。領主に逆らう以上、戦力は多い方がいいでしょう?」

 イルゼンの言葉には、強い説得力があった
 だが、同時にこの場にいる多くの者は、それれだけではないということも理解出来る。
 何故なら、この場にいる者の多くは黄金の薔薇……元貴族なのだから。

「それで、今回の一件が終わった後の面倒なことは、全部モリクに任せるのね」
「……さて。私たちが合流するのはモリクさんたちですが、その勢力を率いるのがモリクさんになるとは限りませんしね」

 モリクは結局のところ、騎士団の中でも小隊長でしかない。
 反乱軍――という表現が相応しいかどうかは分からないが――を率いるのに、格というものが足りていないのは間違いない。
 そういう意味では、もっと地位が上の人物が反乱軍を率いるのが相応しい。

「でも、否定はしないのね」
「そうですね」

 レオノーラの言葉に、イルゼンはあっさりとそう返す。
 もし今回の一件が成功したとしても、その反乱軍のトップにいる人物は非常に面倒な立場となる。
 イルゼンはそれを避けるため、あえて自分たちは協力者であるという立場にしたかった。
 レオノーラもそれは分かっていたが、だからといって自分がその立場になるのも遠慮したい以上、イルゼンの言葉に異を唱えることはない。

「そうなると、モリクたちとこれから一緒に行動することになる訳よね? ここに集まっている面々はともかく、まだ合流してない人たちもいるようだけど、そっちはどうするの?」
「残念ながら置いていくことになるでしょうね。……もっとも、私たちはもう二度とここに戻ってこないという訳ではありません。ザラクニアと決着を付けるとなると、当然のようにこのラリアントの近くで戦うことになるでしょう」
「つまり、そのときに後方攪乱をして貰う、と?」

 レオノーラの言葉に、イルゼンが頷く。
 イルゼンにしても、長年を共にしてきた仲間をこの場に置いていくといったことをしたくはない。
 だが、今は時間が全てなのだが。
 ここで無駄に時間を使ってしまえば、最悪ガリンダミア帝国の軍が国境を越えてきてもおしくはない。
 そうなれば、雲海や黄金の薔薇としても面白くはないし、何よりゼオンに強い執着を持ったザラクニアを放置しておけば、間違いなく面倒なことになるという確信があった。

「そうなると……問題なのは、現在外に出ている人たちかしら」

 ゼオンがラリアントに突入してきたことにより、アランの存在を察した者たちが現在宿の外にいる。
 ゼオンの件もあって、外に出ている者は雲海の者たちが大半だった。

「そちらも問題はありません。ここに来る途中で接触して、すぐにラリアントから脱出するるように指示を出しておきました」
「随分と手回しがいいわね。……もしかして、今回の一件は全てイルゼンの掌の上の出来事なのかしら?」
「いやいや、まさか。そんなことはないですよ。あくまでも偶然です」

 そう告げるイルゼンに疑惑の視線を向けるレオノーラだったが、そのような視線を向けられた本人は全く気にした様子がない。
 だが、イルゼンを知っている者であれば、そのような言葉を完全に信用出来るはずもない。
 ……これが雲海に所属している者であれば、イルゼンと共にすごしてきた時間があるので、ある程度信じることは出来るのだろうが。
 黄金の薔薇の面々は、まだイルゼンと一緒に行動するようになってから、そう時間は経っていない。
 それでもスタンピードのときは一緒に戦ったということもあって、ある程度は信頼しているのだが。

「取りあえず話は分かったわ。出来るだけ早めに今回の件を収めるために行動するのはいいと思う。けど……戦い、それもある程度大規模な戦いともなれば、当然のように色々と物資の類も必要となってくるはずよ。それはどうするの? もしくは、そこまでの規模の戦いではないと考えているの?」

 レオノーラの口から出た質問は、決して軽んじていいようなものではなかった。
 戦いをするのには、予備の武器や食料、ポーションのような治療薬。それ以外にも様々な物が必要となる。
 戦いの規模が大きければ大きいほどに、それらの物資も必要となるのだ。
 それがない状態での戦いとなれば……戦えないという訳でもないだろうが、それでも短期間だけで、戦いが長引けばそれだけ不利になってしまう。
 それらの補給物資をどうするのかと心配するのは、黄金の薔薇を率いるレオノーラとしては当然だった。

「そちらも問題ありません」

 だが、イルゼンの口からあっさりと出て来たその言葉に、レオノーラの整った眉が顰められる。
 そんなレオノーラを見たイルゼンは、慌てて口を開く。

「こちらにかんしては、私ではありません。モリクさんのお手柄ですよ」

 そう、告げるのだった。
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