剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ラリアント防衛戦

111話

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 再びのラリアント軍とガリンダミア帝国軍の戦端が開かれる。
 ラリアントはガリンダミア帝国と接する防衛の要として作られた都市だけあって、元からいたラリアント軍だけではなく、セレモーナが連れて来た援軍を収容しても、許容量を超えるようなことはなかった。
 ……それは、ガリンダミア帝国軍が来るからと、ラリアントから退避していた者が多かったのも、その理由の一つなのだろうが。
 それでも人数が多かったのだが、それは籠城をする上でいざというときの交代要員がいるということでもある。
 とはいえ……

「来たぞ、心核使いだ! セレモーナ将軍に知らせて、援軍を送って貰え! モンスターの種類は、巨大なムカデだ!」

 城壁の上にいた騎士の一人が、ガリンダミア帝国軍の心核使いを見つけると、素早く指示を出す。
 体長五メートルにも達するかという巨大なムカデは、当然のようにただ普通のムカデが巨大化したのではなく、モンスターらしく外骨格のような、一種の鎧に近い存在を身につけていた。
 元々ムカデというのはかなり頑丈だ。
 そのムカデが、さらに外骨格を身に纏っているのだから、少なくてもここにいる兵士や騎士では倒すことは不可能だった。
 元々、心核使いに生身で対抗するというのが、かなり無茶な話なのだが。

「分かりました! 伝令に行ってきます!」

 兵士の一人が、顔を厳しく引き締めながら本陣に向かう。
 だが……本陣に近づくにつれ、その兵士の顔は深刻さを増していく。
 何故なら、自分と同じような者が何人も本陣に向かっているのに気が付いたからだ。
 ……それだけではない。走っている途中でも、ガリンダミア帝国軍の心核使いが云々という話が、どこかから聞こえてくるし、城壁の外からはモンスターの声と思しきものが様々な場所から聞こえてくる、
 それを考えれば、とてもではないが自分たちのいた場所だけに敵の心核使いが現れたとは言えず、面倒なことになるのは確実だった。
 それでも、伝令の兵士が足を止めることはない。
 ここで足を止めれば、それだけ城壁で頑張っている仲間が被害を受けることになるのだから。

(くそっ、前の戦いではここまで心核使いを表に出すようなことはなかったのに、何で今回は……)

 前回の、セレモーナが援軍を連れてくる前の戦いでは、ガリンダミア帝国軍は心核使いを使いはしたが、それはあくまでもラリアント軍側が心核使いを出したときのカウンターとしてだ。
 普通に戦うときに、こうして心核使いが出て来ることはなかった。
 厄介。そして厄介。とにかく厄介。
 それが、兵士の内心にある正直な気持ちだった。
 今の状況は、控えめに言っても最悪だろう。
 これだけ大規模にガリンダミア帝国軍が心核使いを出してきたのは、当然のようにそれに足る理由があるためだ。
 そう、それは間違いなくガリンダミア帝国軍の援軍の中には心核使いが含まれていたという理由が。

(とにかく、今は心核使いを何とかしてこっちに呼び出して貰う必要がある)

 そう思っているのは、自分だけではない。
 この兵士も当然のようにそれは理解していたのだろうが、それでも今は自分たちの守っていた城壁を何とか死守する必要があると考え……やがて、本陣に到着するや否や、切羽詰まった状況で叫ぶ。

「城壁第五地区の三番に心核使いが出現! 相手は外骨格を持っている巨大なムカデです! 至急、心核使いの応援を!」

 その兵士の叫びに、本陣にいた者たち……セレモーナやモリク、それ以外にも参謀と呼ぶべき面々は、それぞれが厳しい表情を浮かべる。

「城壁二地区の四番にネズミのモンスターに変身した心核使いが出現! 至急応援を!」

 兵士から数秒遅れ、本陣に入ってきた別の兵士が叫ぶように報告する。
 本陣の中では、続けざまに持ってこられた報告によって、一瞬だけ静まるが……すぐに、どう対処するのかで意見が割れた。
 だが、それはどの心核使いを派遣するかという意見の違いでしかない。
 よほどの例外がない限り、心核使いに対抗出来るのはあくまでも心核使いだけだ。
 そうなると、出来るだけ相手に有利な心核使いを派遣する必要があった。
 また、こうも素早く心核使いを出してくるという事は、この先は間違いなく次から次へと心核使いが出て来る可能性が高い。
 その辺の事情を考えれば、強力な心核使いはいざというときのために温存しておきたいと参謀たちが考えても、おかしくはないだろう。
 中には、強力な心核使いを送って素早くガリンダミア帝国軍の心核使いを倒せば、それだけこちらに余裕が出ると主張する者もいる。

「ダージリナをムカデの方へ、ユイノスをネズミの方へ向かわせろ、急げ! 特にムカデの方は、城壁を容易に上ってくるぞ!」

 騒いでいる者たちを一括するように、セレモーナが叫ぶ。
 実際、ムカデというのは壁であっても普通に上ることが出来る能力を持っているので、籠城戦をやる上では非常に厄介な相手なのは間違いない。
 それだけに、今回の一件ではセレモーナの指示にすぐに従い、名前を呼ばれた心核使いにすぐに連絡がいく。
 命令された心核使いだけではなく、他の心核使いたちにもいつでも出撃出来るように命令が下された。
 ガリンダミア帝国軍がこうまで露骨に心核使いを出してきた以上、向こうは短期決戦を狙っているのだと、そう判断したためだ。
 いつ何があっても構わないように、すぐに出撃出来るようにと。

(どうする? このまま一方的にやられるだけだと、こっちの被害が大きくなりすぎる。そうなれば、当然のように士気にもかかわってくる。いっそ俺が出るか?)

 指揮官が最前線で戦うというのは、普通に考えれば愚策でしかない。
 だが、セレモーナにはその愚策を愚策ではなくするだけの実力があるのも事実。
 心を決め、口を開こうとしたその瞬間、モリクが口を開く。

「セレモーナ将軍、今はまだ出るのが早いかと。まだ、こちらには多くの戦力が残されています」

 セレモーナの行動を牽制するかのような一言。
 モリクもセレモーナと同様に自分も前線で戦いながら指揮をするタイプだけに、セレモーナが何をしようとしていたのかを理解しての言葉だったのだろう。
 もっとも、モリクはセレモーナが来るまではラリアントを治めていたが、実際には騎士団の小隊長でしかない。
 そういう意味では、セレモーナよりもさらに実戦向けの能力をしていると言ってもいいだろうが。

「こちらの戦力? それは……アランか?」
「はい。心核使いとしては屈指の……それこそ、常識では計れないほどの能力を持っています。実際、セレモーナ将軍たちが来る前には、アランがゼオンで戦場に出れば、すぐにガリンダミア帝国軍も多数の心核使いを迎撃に出してきましたし」
「アランか。だが、もしアランを出せば、向こうもまた新たな心核使いを出すのではないか? そうなればこちらもさらに心核使いを……モリク、お前まさか……」

 言葉の途中で、セレモーナはモリクが言いたいことに気が付いたのだろう。
 驚愕の視線をモリクに向ける。
 その視線を受けたモリクは、その通りだといったように頷く。

「はい。敵の心核使いがそこら中に散らばっていられると、こちらとしては非常に迷惑です。そうである以上、いっそ心核使いを一ヶ所に集めてしまった方が、こちらとしては楽に戦えるかと」
「だが、それは……危険も大きいのではないか?」
「そうですね。ですが、このまま手をこまねいていればいれば、結局ガリンダミア帝国軍に抵抗は出来なくなるのでは? こちらにさらに援軍が来るのなら、被害を最小限に押さえて籠城するという選択肢もありますが……」

 そう言われれば、セレモーナも口を噤まざるをえない。
 ラリアントに対する援軍は自分だけだ。
 少なくても、出撃する前にはそのようなことになっていたし、実際にガリンダミア帝国軍に援軍が来なければそれで十分に相手を倒すことは出来たのだ。
 それが出来なかったのは、やはり敵の援軍……それも心核使いが含まれた援軍の存在が大きい。
 これがまだ、心核使いを含まないただの敵であれば現在の戦力でも何とかなったのだが。
 しかし、それは今の状況で悩んでいても仕方がない。
 とにかく、今はどうにかして現状に対処する必要があるのは、間違いなかった。

「仕方がない。雲海に連絡を。心核使いのアランに出撃するように要請してくれ。ただし、敵の心核使いの全てをアランに任せたりはしないで、遠距離攻撃が得意なモンスターに変身出来る心核使いは、アランの援護に回るようにしろ」

 一度決断を下してしまえば、セレモーナの行動は早い。
 すぐに伝令が雲海のいる方に向かって走り出し、他の者たちも最善の行動を取るために動き出す。

(くそっ、まさかガリンダミア帝国軍に援軍が来るとはな。……一応この件は王都に伝えたが、新たに援軍を編成して送り出すとなると、相当な時間がかかる。特に指揮官が問題だろうな)

 セレモーナが援軍を率いるときは、多くの貴族や軍人が手柄を欲して指揮官になろうとしたり、セレモーナの指揮下でもいいので、援軍に協力しようとした。
 だが、それはあくまでもラリアントに向けて出撃した援軍が勝てると、そう思っていたからこその行動だった。
 援軍に参加しようとした者たちは、ガリンダミア帝国は本気でラリアントを占領しようとしているのではなく、ある程度戦ったら撤退すると、そう思っていたからだ。
 しかし、今回のガリンダミア帝国軍は違った。
 最初に送ってきた侵略軍に、さらに援軍を出したのだ。
 それは、ガリンダミア帝国軍が本気でラリアントを占領しようとしているということを示している。
 そんな状況で援軍に参加しても、自分たちが思ったような手柄を挙げることは難しい。
 それだけではなく、援軍に参加した者が死んでしまう可能性すらあった。
 その辺りの事情を考えれば、援軍が集まらないという可能性は十分にある。

(つまり、今ここにある戦力でどうにかする必要がある訳だ)

 セレモーナは自分に言い聞かせるように、そう内心で呟くのだった。
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