剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
150 / 422
逆襲

149話

しおりを挟む
 砂嵐に晒され続けたのは、一体どれだけの時間だったのか。
 残念ながら、アランにはそれは分からなかった。
 アランにとっても砂漠で砂嵐に遭遇するというのは、これが初めての経験だったのだ。
 それだけに、ゼオンであれば大丈夫だという思いを抱きつつも不安になっても仕方がなかった。
 だが、幸いにして今回の砂嵐においてゼオンにとって致命的な何かが起きるということはなく、気が付けば砂嵐は通りすぎていた。
 砂嵐がこれから一体どこに向かうのかは、アランにも分からない。
 だが、それでも今回の一件で自分たちが……そして砂のドームが助かったというのは間違いなかった。

「レオノーラ、無事か?」
『ええ、何とかね。……大丈夫だとは思ってたけど、それでもあの砂嵐は愉快な存在じゃなかったわ』

 外部スピーカーで心配するアランだったが、あっけらかんとした様子のレオノーラの言葉がアランの頭の中に響く。
 その声の調子から、本当に全く何の問題もないのだと理解したアランは、さすがドラゴンと納得する。

(モンスターの中でも頂点に位置するドラゴンが、砂嵐でどうにかなるとは思ってなかったが。……それでも、ここまで平気だというのはさすがに予想外だったな)

 レオノーラが全く問題ない様子を見せていることに、アランは納得すると同時に若干呆れの色を見せる。

『どうかしたのかしら?』

 ゼオン越しであってもアランの視線を感じたのか、レオノーラが若干不満そうな色を見せてそう尋ねてくる。

(視線を感じるのはともかく、その視線の意味を理解するって、一体どういうことだよ)

 女の勘というのは恐ろしい。
 そう思いながらも、アランは何でもないとゼオンの首を横に振る。
 そんなアランの様子に、またレオノーラが何か言おうとしたとき……ゼオンと黄金のドラゴンが庇っていた砂のドームが崩れ、中から何人かが武器を構えて注意深く姿を現す。
 最初はかなり周囲を警戒していた様子だったが、そこにいたのがゼオンと黄金のドラゴンだと知ると、その人物は安心した表情を見せる。

「レオノーラ様、ご無事だったんですね!」

 黄金の薔薇に所属する探索者の男が、自分たちのリーダーを見て嬉しそうに叫ぶ。
 そんな探索者に、黄金のドラゴンは頷く。
 本来なら声をかけたいのだろうが、変身しているレオノーラの声は、アランにしか聞こえない。

『アラン、お前も……庇ってくれたのか!?』

 雲海の探索者が、ゼオンに向かってそう声をかける。
 こちらはレオノーラと違って普通に声を発することが出来るので、特に困るようなことはなく、ゼオンに頷かせて外部スピーカーで答える。

「砂嵐が来ているのが見えたので。無事で何よりです」
『ああ。いきなりあんな砂嵐に襲われたときはどうしようかと思ったけどな。イルゼンさんがすぐに指示してくれたおかげで何とかなった。……オアシスの方は、結構な被害が出たみたいだけど』

 そう言い、残念そうな様子で男はオアシスに視線を向ける。
 オアシスの周辺に生えていた木々の多くは折れたり、吹き飛ばされたりしており、オアシスも砂で埋められたという訳ではないが、それでもかなりの部分が埋まっていた。
 ここで野営をしたのは昨夜だけだが、砂漠という場所でようやく到着したオアシスだけに、そこが砂嵐によって荒らされたというのは、ここにいる者たちにとっては面白くないのだろう。
 それは、アランもまた同様だったが、だからといってここの場所をどうにかするような時間的な余裕はない。
 あの巨大な鷲が、いつ地下九階に続く階段の近くにやって来ないとも限らないのだから。
 それを思えば、ここにいる全員を可能な限り早く地下九階に続く階段まで運ぶ必要があった。

「色々と思うところはあるでしょうけど、今はとにかく行きましょう。ここで時間を費やせない理由もありますから」

 砂のドームから出て周囲の様子を確認していたイルゼンが、そう告げる。
 イルゼンにとっても、このままここにいるのは危険だと、そう判断したのだろう。
 その言葉に、他の者たちも同意する。
 今のままここにいれば、まだ砂嵐がやって来ないとも限らない。
 であれば、なるべく早くここを離れ……砂漠からも離れて、地下九階に向かった方がいいだろうと。
 そんな訳で、ここに残っていた者たちは急いでゼオンと黄金のドラゴンの身体に乗る。
 幸いなことに、前回、前々回の探索者たちの運搬によって、荷物の類はほぼ片付けられていたので、荷物を纏めたりといったことは必要ない。
 砂のドームに避難するときに持ち込めない……いや、持ち込まない荷物もいくつかあったが、それらは砂嵐によってどこかに吹き飛ばされてしまっている。
 そんな訳で、一行は素早く移動を開始したのだが……

『ほう、それは本当ですか? ですが、この遺跡で砂漠にはずっと誰も来なかったのですよ? 少なくても、ギルドの方ではそうなっています。だというのに、言葉を喋れる者がいるというのは……興味深いですね』

 イルゼンは、アランから巨大な鷲と、その背に乗っていた者のことを聞くと、知的好奇心が刺激されたのだろう。かなり興味深そうな様子を見せる。
 実際にその巨大な鷲と遭遇したアランにしてみれば、出来ればもう二度と会いたくない存在だったのだが。

「興味深いって言われても、正直なところ俺としてはもう会いたくはないんですけどね。向こうも決して友好的な雰囲気じゃなかったですし」
『だが、アラン君の方から攻撃したんでしょう? なら、最初は友好的に振る舞えば、もしかしたら有益な情報を聞き出せる可能性が高いですよ』
「それは……まぁ、そうかもしれませんけど」

 実際、この砂漠についてアランたちは来たばかりだということもあり、知っている情報は決して多くはない。
 そうである以上、何らかの情報を知っている者がいるのなら、その者から情報を聞き出した方が得策だというのは、間違いのない事実なのだ。
 アランもイルゼンに説明されれば納得は出来る。
 出来るのだが、だからといって素直に巨大な鷲に乗っていた相手と友好的に接することが出来るのかと言われれば、首を傾げるしかない。

「なら、次に出て来たら交渉はイルゼンさんに任せますよ。イルゼンさんなら、口でどうとでも相手を翻弄出来るでしょうし」

 結局アランに出来るのは、そう告げることだけだ。
 もし本当にあの巨大な鷲が出て来たら、完全にイルゼンに任せるだろう。
 普通に考えれば、明らかに自分たちに対して敵対的な言葉を発してきた以上、友好的な関係を築けるとは思えない。
 だが、イルゼンならもしかしたら……と、そんな風に思ってしまうのも事実なのだ。

『そうですね。出来るかどうか分かりませんが、やってみましょう。もし話すことが出来れば、多少なりとも何らかの情報は得られるでしょうし』

 自信満々といった訳ではないが、それでもある程度なら何とか出来るだろうと判断してか、そう告げる。
 そんな様子に、アランは若干の呆れを抱きつつ……

「見えてきましたよ」

 地下九階に続く階段と、その階段の周辺で待機している仲間たちの姿が映像モニタに表示され、アランはそう呟く。
 とはいえ、それが確認出来るのはあくまでも映像モニタを使えるアランや黄金ドラゴンに変身しているレオノーラだけで、それ以外の面々にはまだ見ることは出来ないだろうが。

「取りあえず、敵に襲われるとかそういうことにはなっていないようです」
『そうですか。それは何より』

 アランの言葉に、イルゼンはそう答える。
 アランが知らないようなことを知っており、様々な情報についても詳しいイルゼンだったが、だからといって全てを……それこそ、先に地下九階の階段に運ばれた者たちについて詳しく知っている訳ではない。
 そうである以上、アランのその言葉には安堵するのは当然だった。
 やがてゼオンや黄金のドラゴンに乗っている者たちからも、階段の近くにいる者たちの姿が見えてくると、それを見た皆が喜ぶ。
 結局のところ、皆が無事なのが一番だと、そういうことなのだろう。
 それは待っている方も同様だったらしく、ゼオンと黄金のドラゴンが砂漠の上に着地すると、皆が喜びの声を上げながら集まってくる。
 巨大な鷲に遭遇した者たちからの話を聞いていたから、余計に安全を心配していたのだろう。
 アランがゼオンから降りてカロに戻し、レオノーラが黄金のドラゴンから人の身体に戻ると、騒動についても少しは落ち着いていた。
 この辺りは、イルゼンの口の巧さが影響しているのだろう。

(取りあえず、もう砂漠はごめんだな)

 ゼオンのコックピットは空調が効いていたので、砂漠の暑さを感じることはなかった。
 だが、ゼオンから降りるとコックピットの中が涼しかった分、余計に砂漠の暑さは堪える。
 気温差が大きいので、特に酷い。
 急速に汗が顔に、背中に、腕に浮かんでくる。

「さて、では地下九階に進みましょうか。皆、準備はいいですか?」

 周囲にいる探索者たちに声をかけるイルゼン。
 そんなイルゼンは汗を掻いてはいるが、暑さに堪えたようには思えない。
 イルゼンの様子に羨ましい思いを抱きつつ、皆と一緒に階段に向かう。

「アラン、ちょっといいか?」

 不意にアランに声がかけられ、そちらに視線を向けると、そこにいたのはロッコーモ。
 普段は豪快な表情を見せることが多い人物なのだが、今は少し心配そうな表情を浮かべている。
 一体何があったのか。
 そんな疑問を浮かべたアランが頷くと、ロッコーモは空を見上げながら口を開く。
 本来なら、ダンジョンの中で存在しないはずの空を見上げながら。

「巨大な鷲はともかく、それに乗っていた奴はこの先どうすると思う? 俺たちが地下九階に向かえば、追ってこないと思うか?」
「……どうでしょうね。普通に考えればそうだと思うんですが……」

 巨大な鷲の背にいた者が一体どのような存在なのかは、アランにも分からない。
 分からないが、それでも間違いなく言えるのは、自分たちに対して決して友好的な存在ではないということだ。
 ロッコーモにしては珍しく、アランの言葉にそうかと小さく呟いて拳を握り締めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...