剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ザッカラン防衛戦

161話

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「あー、くそ。退屈だな。とっととザッカランから出ないか?」

 ロッコーモの愚痴る声が部屋の中に響く。
 大樹の遺跡を攻略してから十日ほど……アランを含めて、他の者たちもかなり窮屈な日々を送っていた。
 このザッカランにおいて、大樹の遺跡というのは一種の象徴に近い存在だった。
 ザッカランという城塞都市が出来てから、数え切れない探索者たちが挑んで来た遺跡なのだが、その探索者たちがどう頑張っても地下八階より下には到着出来なかったという場所。
 ……あるいは、アランたち以外にも地下八階よりも下に到達した探索者たちがいたのかもしれないが、ギルドに残っている情報ではそのようなものはない。
 つまり、公式に地下八階より下に向かい……それどころか最下層まで到達したのは、アランたちが最初ということになるのだ。
 当然そうなればザッカランの住人たちからは好奇の視線で見られる。
 そのほとんどが好意的な視線ではあったが、ザッカラン攻略戦のときに家族や恋人、友人が死んだ者たちにしてみれば、全面的に許せない者も多く、憎悪の視線を向けている者もいた。
 そんな状況で街中を歩ける訳もない。
 いや、歩こうと思えば歩けるのだろうが、必要のない騒動を起こす必要はなかった。
 それ以外にも、ギルドにおいて地下八階以降がどのような場所だったのかを詳細に事情聴取された。
 それも全員一気にという訳ではなく、一人ずつだ。
 それを見たアランは、それこそ日本にいたときに見たドラマや映画、漫画で見た刑事の取り調べの場面を連想してしまった。
 一人に何人もの警官――この場合はギルド職員――が同じことを何度も尋ね、そこに矛盾がないかどうかを確認するのだ。
 ギルドにしてみれば、大樹の遺跡の情報を詳細に……そして可能な限り入手したいと思い、そのための行動だったのだろうが、当然そのような真似をされる方はたまったものではない。
 結果として、ギルド職員からの対応にイルゼンが動き、今ではもうその件からは解放されたが。

「団長、いっそのこと、もう別の街に行かないか? 大樹の遺跡も攻略したんだし、もうここにいても意味はないだろ?」

 探索者の一人が不満そうにイルゼンに言う。
 宿屋の一室……かなり広い部屋に集まっている面々は、その言葉に同意するようにイルゼンに視線を向ける。
 だが、そんな視線を向けられても、イルゼンは頷くことはなく、首を横に振る。

「今はまだここにいた方がいいでしょうね」
「……イルゼンがそう言うってことは、また何かあるのか?」

 別の探索者が、面倒そうな様子で尋ねる。
 長年一緒に行動しているだけあって、イルゼンがこういうことを言うときは何かがあるというのを理解していた。
 一体どこから情報を集めてくるのかと疑問に思うくらい、イルゼンは情報収集に敏感なのだ。

「いえ、今回の一件は別に情報を集めなくても、理解は出来るんですけどね。ガリンダミア帝国にしてみれば、ザッカランを……自分たちの領土を逆に占領されたのです。それも、ラリアントを占領出来なかった上に、その報復として。……そうなれば、どうなると思います?」

 ガリンダミア帝国というのは、他国を占領して属国にすることで国土を広げてきた国だ。
 そのような侵略国家が、自国を逆に占領されたということ……それも明らかに格下と思っていたドットリオン王国に占領されたと考えればどうなるか。
 もちろん、ガリンダミア帝国も連戦連勝という訳にはいかず、今までの戦いで負けたこともある。
 だが、そのような状況であっても、自国の領土を占領されたといったことはなかったのだ。
 それだけに、今回のような状況になればどうなるか。
 考えられるのは、単純だった。

「ザッカランを取り戻そうと攻めてくる……?」
「正解です」

 探索者の一人が口にした言葉に、よく出来ましたとでも言いたげにイルゼンはそう告げる。
 だが、その言葉を聞いた方としては、そんなイルゼンの言葉を許容出来るはずがない。

「ちょっ、ならさっさとザッカランを出た方がよくないか!? ここにいれば、また戦いに巻き込まれることになるってことだろ!」

 雲海は実力派のクランだし、今は同じくらいの実力を持つ黄金の薔薇とも一緒に行動している。
 ザッカランを守るための戦力して考えれば、それこそこれ以上ないほどの戦力だろう。
 だが、それだけの戦力だからといって、絶対に自分たちがザッカランの防衛に加わらなければならないという訳ではない。
 あくまでも、雲海は探索者……古代魔法文明の遺跡に挑む者たちなのだ。
 成り行きで戦いに巻き込まれたのならともかく、自分たちから望んで国と国の戦いに巻き込まれるというのは、それこそ避けたいというのがこの部屋にいる探索者たちの……いや、雲海に所属するほぼ全員の一致した思いだった。
 だというのに、何故かイルゼンはまだこのザッカランにいると言うのだから、反対意見が出るのも当然だろう。

「そうですね。皆がそう思うのは分かっています。ですが……うちにしろ、黄金の薔薇にしろ、あそこまで堂々とガリンダミア帝国に逆らってしまった以上、向こうが放っておくとは思えません」
「それは……」

 イルゼンのその言葉に、不満を言っていた者達も沈黙する。
 実際、ラリアントからの一連の動きにおいて、堂々とガリンダミア帝国に喧嘩を売ったのは間違いのない事実なのだから。
 もしこれが普通の国であれば、そこまで気にするようなこともないだろう。
 何しろ、普通なら冒険者や探索者、傭兵といった存在は自由を保証されているのだから。
 だが、それはあくまでも普通の国の場合だ。
 ガリンダミア帝国の性格を考えれば、その辺りの常識は通じない。
 ……ラリアントの件にも影響したように、元々アランの持っている心核を奪おうとしていた、というのも影響してくるだろうが。
 アランの心核……カロという人格を持つ心核と、そしてカロを、ゼオンを使いこなす例という存在を欲しているのは、間違いのない事実だ。
 そうである以上、もしこのままザッカランを立ち去ってもガリンダミア帝国軍に追われることになるのは間違いなかった。
 とはいえ、だからといってザッカランの防衛戦に参加したいかと言われれば、皆が素直に頷くようなことはない。

「いっそ、ガリンダミア帝国とかドットリオン王国とかじゃない、別の国に行くってのはどう?」
「それは僕も考えないではなかったんですけどね」

 女の探索者の言葉に、イルゼンが少し困ったように言葉を返す。
 イルゼンがそのような様子を見せるということは、何かそこに不都合なことがあるのだろうというのは、容易に予想出来る。
 他の面々も、そんなイルゼンの様子を見て……長年の付き合いから、恐らくザッカランの防衛戦に協力するしかないのか、と思う。

「ともあれ、ザッカランはドットリオン王国にとっても大事ですし、僕たちにとっても大事な場所でしょう?」
「それは……まぁ。ここがガリンダミア帝国にまた占領されたら、大樹の遺跡に潜ったりとかは出来なくなるし」

 一応探索者は国に縛られないということになっているが、規則というのは上にいる者にしてみれば破るのは難しい話ではない。
 特にアランやレオノーラといったような者がいた場合、ガリンダミア帝国の上層部は間違いなくちょっかいを出してくるだろう。
 それもちょっかいという可愛げのあるものではなく、陰湿な手段で。
 例えば何らかの罠を仕掛けて、アランたちが自分の思うように動かなければならないようにする、といったように。
 その辺の事情を考えると、やはりこのザッカランはドットリオン王国の手にあった方がいいというのも、事実。

「はぁ、しょうがないか。……俺たちって傭兵でも冒険者でもなく、ましてや兵士でもなくて探索者なんだけどな」

 不満そうに呟く者がいたが、他の者もその言葉には同意するように頷く。
 とはいえ、不満を口にしているものの、イルゼンがここで戦った方がいいと言うのであれば、それに不満を口にしたりといった真似は出来ない。
 雲海は、イルゼンのそんな能力を信頼して、今までやって来たのだから。

「なら、黄金の薔薇はどうするんだ? 俺たちはここに残ってガリンダミア帝国軍と戦うけど、黄金の薔薇がそれに付き合う必要はないだろ?」

 確かに、と。
 その言葉に多くの者たちが同意する。
 今は一緒に行動しているが、それはあくまでも利害が一致しているから、という理由が大きい。
 そうである以上、もし利害が一致しないと思えばラリアント防衛戦のときのように、一緒に行動しないという可能性も決して否定出来ないのだ。

「とはいえ、結局ラリアントでも戻ってきたし……だとすれば、大丈夫なんじゃない? 最近、アランと仲もいいみたいだし」
「それな」

 女の探索者が口にした言葉に、側で干し肉を食べていた探索者が同意する。
 この部屋にはいないアランは、雲海の中でも末っ子と呼ぶに相応しい人物だし、実際に皆がそのようにして扱っている。
 それだけに、そのアランに春が来たとなれば、皆が色々と思うところがあるのは当然だった。

「けどさぁ、レオノーラって王女なんだろ?」
「元、王女よ」

 元という言葉を強調して告げる女だったが、それを聞いた方は特に気にした様子もなく口を開く。

「元だろうが何だろうが、王女なのは変わらないだろ。そんな女がアランとくっつくのは、かなり難しいと思うぞ?」
「うーん、それもそうなのよね。アランの場合、女慣れもそんなにしてないだろうし。私でいいのなら、女の扱いを教えてやってもいいんだけど」

 そう呟いた女は、レオノーラには及ばないものの、十分に美女と呼ぶに相応しい美貌を持っていた。
 女は、別にアランに恋し、愛している訳ではない。
 それでも弟のように思っているアランになら、女の扱い方を――ベッドでのことも含めて――教えてもいいと、そう思っていた。

「止めておけって。姐さんが聞いたらどうなるか……分かるだろ?」
「う、それは……」

 何だかんだと息子を可愛がっているリアが今の話を聞いたらどうなるか。
 それは考えるまでもなく明らかだ。
 ともあれ、そんなやり取りをしながら……戦争云々よりも、アランの恋愛について話す方が十分に盛り上がるのだった。
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