剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ザッカラン防衛戦

168話

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「んー……やっぱり、そう都合よくは出て来てくれないか」

 ゼオンのコックピットの中で、アランが呟く。
 映像モニタに表示されているのは、平原のみだ。
 たまに人間と思しき者はいるが、それは大抵が個人……もしくは数人といった程度で、ザッカランを取り戻すための先発隊とは到底思えない。

「いや、もしかしたら変装して、意図的に少数で来てる連中かもしれないけど……まさか、確証もなしにそんな相手を攻撃する訳にはいかないしな」

 もしここでアランが敵の偵察隊や先発隊だと判断して攻撃し、それが実は違っていた場合……ザッカランを含めてこの周辺におけるアランの……そしてアランが所属している雲海や、雲海と行動を共にしている黄金の薔薇の評判は酷く落ちることになる。
 これからザッカランを守るというのに、そのようなことになれば、それこそガリンダミア帝国軍の思う壺以外のなにものでもないだろう。
 だからこそ、アランとしてはそのような真似をするつもりは全くなかった
 ……無関係の相手を攻撃するということに嫌悪感を抱いていたというのも、もちろんあるが。

「何か、敵意を感じるセンサーとかがあれば……駄目か」

 ケラーノの訓練が終わったあとで絡んで来た男女の姿を思い出し、アランはセンサーがあればという意見を却下する。
 例えそのようなセンサーがあったとしても、それこそ今のザッカランでは自分たちの存在に対して思うところがある者は多数いる。
 だとすれば、敵がどうこう、ガリンダミア帝国軍の先発隊や偵察隊がどうこうといったことを見分けられるはずがない。

「それ以前に、敵意を察知するセンサーとかあったら人間不信になりそうだし」

 心の中では自分達を憎んでいても、実際にはそれを表情に出していない……などというのは、いくらでもありえる。
 それを全て暴くセンサーがあれば……欲しい者、それこそ権力者の類であれば大金を支払ってでも欲しいと思うかもしれないが、アランとしてはそのような物があれば間違いなくいらない騒動が起きるという予想が出来た。
 ただでさえ、今の状況はかなり面倒なことになっているのだ。
 今の状況でそんな余計な騒動を引き寄せるような物は、ない方がいいという結論に達するのは当然だろう。

「ましてや、今の状況だとな」

 大樹の遺跡が攻略されたという情報は、それこそザッカランの周辺にある村や街……いや、ある程度離れている場所にも届いている。
 現在のザッカランの状況でも人が集まってきているのは、その噂が広がっているからだ。
 今なら大樹の遺跡で稼ぐことが出来るかもしれない、と。
 人の欲を考えれば、そのような者たちが集まってくるのは当然の話なのだろう。
 そうして多くの人が集まってきているだけに、それぞれ思うところがあるのは間違いない。

「ともあれ、今はゼオンの存在を目立たせるようにして偵察するか。……目立つ偵察ってのは、何だか矛盾しているようにも感じれられるけど」

 目立つというのは、むしろ示威行為と言ってもいいだろう。
 ゼオンの存在を見せつけることで、妙な考えを持っている者には大人しくしていて貰うための。
 ……また、ザッカランで何かを企んでいる者たちにしてみれば、ゼオンを持つアランが遠くに行っていると認識させるための行動でもある。
 そういう意味では、こうしてアランがゼオンでザッカランからこれ見よがしに移動したという時点で、役割は果たされているのだが。
 ただ、どうせならしっかりと偵察し、ガリンダミア帝国軍の先発部隊や偵察部隊に攻撃をして、ある程度のダメージを与える……といったような真似をすることが出来れば最善なのは、間違いない。

「とはいえ、そう都合よくガリンダミア帝国軍を発見することが出来る訳もないだろうけど」

 ザッカランを占領しているドットリオン王国軍も、別に遊んでいる訳ではない。
 何かあったときはすぐに対処出来るように準備を整えているし、ガリンダミア帝国軍が近付いてくればすぐ分かるようにと準備もしている。
 そうである以上、アランが周囲を適当に見て回ったとしても、すぐにガリンダミア帝国軍を見つけるようなことは出来ない。
 それこそ、そんなにすぐ見つかるのであれば、ドットリオン王国軍の者たちが先に見つけているだろう。
 そんなことを考えつつ、アランは空を飛んで移動していると……

「盗賊か」

 ガリンダミア帝国軍ではなく、商人と思しき馬車が盗賊に襲われているのを発見する。
 とはいえ、これは考えてみれば当然の話だった。
 現在ザッカランには、大樹の遺跡の件で多くの者が集まっている。
 そうなれば、商機に敏感な商人はすぐに動く。
 ……もっとも、ザッカランがそう遠くないうちにガリンダミア帝国軍と戦うことになるというのは容易に予想出来る以上、二の足を踏む者もいるだろうが。
 それでも現在のザッカランでは遺跡の特需とでも呼ぶべき状況になっている以上、多少の無茶をしても金を稼ぎたいと思う者がいれば、ザッカランにやって来る者は多い。
 実際、アランもザッカランに新しい商人が増えているという話は聞いているじ、実際にその目で見てもいる。
 現在ゼオンの映像モニタに表示されている馬車に乗っている商人も、恐らくはその手の類の物なのだろうというのは容易に予想出来た。
 映像モニタだけに、実際に襲われているのはかなり先だ。
 ……何しろ、商人も盗賊もまだゼオンの存在に気が付いてはいないのだから。
 いくら商人が盗賊から逃げることに、そして盗賊が商人の乗っている馬車を襲うことに意識を集中しているとしても、ゼオンのような存在が近くにいれば、普通は気が付く。
 それが気が付かないのは、ゼオンが空を飛んでいるというのもあるのだろうが、やはり一番大きいのは距離が離れているからだろう。

「どうする? ……いや、助けるしかないんだけどな」

 これが普通の探索者なら、見捨てても構わない。
 だが、アランはこの世界の常識で育てられはしたが、同時に日本で生きていたときの常識も持っている。
 結果として、助けられるのなら助けた方がいいと判断する。
 ……とはいえ、問題なのはどうやって助けるかということだろう。
 馬車を襲っている盗賊たちは、当然のようにその周囲にいる。
 それこそ、盗賊たちをビームライフルで攻撃すれば、間違いなくその爆発は商人の馬車も巻き込んでしまう。

「さて、そうなると……直接攻撃をしなくても、ゼオンを見せつければ……いや、人質になりそうな気がするんだよな」

 馬車に乗っている以上、そう簡単に人質に取られるとは思えないが、盗賊たちにしてみれば自分たちが助かる可能性があるのなら、それを選ばないという手段はない。
 とはいえ、今のアランにとって何を出来るかと言えば、それが最善なのは間違いない。

「フェルス……も、ちょっとな」

 フェルスの一撃も威力はビームライフルよりも弱いが、頭部バルカンよりは強い。
 それこそ命中すれば、馬車や馬が吹き飛び、商人にも被害が及ぶ可能性が高かった。
 であれば、やはり一番可能性が高いのは商人が人質になる可能性があっても見せつける必要があった。

「向こうがどう対応するかは、少しの賭けだが……それでも他の選択肢よりはいい筈だ」

 そう自分に呟き、アランはウィングバインダーのスラスターを全開にして、盗賊に襲われている商人に向かって間合いを縮める。
 映像モニタに表示されているのは、かなり遠くの距離ではある。
 その距離を、普通ならとてもではないが出すのが不可能な速度で間合いを詰めていくのだ。
 本来なら盗賊に襲われている商人も、商人を襲っている盗賊も、そんなゼオンの姿に気が付きにくい。
 目の前の相手への対処で精一杯なのだから。
 それでも気が付いたのは、やはりゼオンの移動音が聞こえてきたからだろう。
 間合いを詰めたところで、かなり離れた位置……それこそ、とてもではないが被害が及ばない場所にビームライフルを撃ち込む。
 周囲に起きる爆発。
 当然のように、盗賊と商人もいきなりの爆発に動きを止める。
 そして馬車や馬の動きが止まった中で最初に我に返ったのは、商人。
 情報を集めたことによって、ザッカランを攻略する際にゼオンの活躍を知っていたというのもあるし、何が何でも逃げ延びる必要があるという、そんな思いを抱いてからだろう。
 商人にとってはともかく、盗賊たちにとってゼオンの存在は明らかにどうしようもない……そんな最悪の存在なのだが。

「降伏しろ。今の攻撃はわざと外した。降伏しないようなら……」

 そこで一旦言葉を切ったアランは、頭部バルカンを離れた場所に撃つ。
 ガガガガガという掃射音と共に、周囲にあった地面に弾丸が撃ち込まれて激しい土煙を舞い上げ、岩を破壊し、木を粉砕する。
 盗賊たちや商人の目の前で行われたその光景は、相手の動きを止めるには十分な迫力を持っていた。

「ヒヒヒヒーン!」

 そして十分な迫力があったのは、盗賊たちや商人だけではなく、盗賊たちが乗っている馬も同様だった。
 元々、馬というのは臆病な動物だ。
 盗賊たちが使っている馬も、何度も襲撃に参加しているおかげで今はある程度の戦いでも混乱したり怖じ気づいたりといったようなことはなくなったが、今まで経験したことがえないような破壊音が周囲に満ちるといったようなことになれば、話は変わってくる。
 盗賊たちを乗せていた馬の何頭かが竿立ちになり、盗賊を地面に落としたかと思えば、すぐのこの場を逃げ出す。
 他の盗賊たちは、何とか自分の乗っている馬を落ち着かせるといったようなことをしており……盗賊たちにしてみれば、戦うどころの騒ぎではなくなった。
 また、馬が驚いているのは盗賊たちだけではない。
 商人の乗っている馬車を牽いている馬もまた、同様に暴れそうになっていた。
 幸いにして商人は馬の扱いに慣れているらしく、馬はすぐに落ち着いた。
 ……それだけ馬の扱いに慣れているというのも、商人が盗賊たちから逃げ延びていた理由の一つなのだろう。
 そんな面々を見ながら……アランは、改めて外部スピーカーで呼びかける。

「降伏しろ。でないと死ぬことになる」

 そんなアラン……いや、ゼオンを前に、盗賊たちが出来るのは大人しく降伏することだけだった。
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