剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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ザッカラン防衛戦

173話

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『離せ! 一体、何のつもりだ! 離せと言ってるだろ!』

 ゼオンの手の中で、ダラスターが叫ぶ。
 森の中からいきなり連れ去られたときは、驚きから何も言えなかった。
 だが、数分もすればやがて我に返ることが出来たのか、現在はこうして叫び続けていたのだ。
 それをコックピットで聞いていたアランは、少し時間が経てば疲れて黙り込むだろうと判断していたのだが……実際には、ダラスターの言葉が止まることはなく、延々と話を続けていた。
 当然のように、アランとしてはそれを聞いていて我慢が出来なくなり、ダラスターを握っているゼオンの手を軽く振る。

『ぬおっ! おわっ! な、何をする! 私が誰なのか知ってるのか! 止めろ!』

 そうやって叫ぶ様子は、ゼオンが放ったビームライフルの一撃に怯え、自慢げに掲げていた国旗すらその場に放り捨てて逃げ出し、その後もゼオンという存在に恐怖を感じていたとは思えない程に、強気なものだった。
 ゼオンが仲間と一緒に逃げている光景をその目で見たアランだけに、この態度の差は一体何なのかと、そんな疑問すら抱く。
 だが、取りあえずこのまま好き放題に喋らせておけばうるさいだけで面倒だと判断し、口を開く。

「黙れ。お前は捕虜になったんだ。自分の立場を弁えた態度を取れ」
『捕虜? 捕虜だと? このダラスターを捕虜にしたというのか! ふざけるな! そのような真似をして、ただですむと思っているのか! 今ならまだ見逃してやるから、私を解放しろ!』

 再度ゼオンの手の中で叫ぶダラスターを見ながらも、アランは半ば呆れ、半ば感心する。

(それでも、自分に投降しろじゃなくて、解放しろと言ってる辺り、多少なりとも事情は理解しているのかもしれないな)

 とはいえ、今の状況で何を言ってもそれを聞く気にはなれなかったが。

「お前はこのままザッカランにいるドットリオン王国軍に引き渡される。見たところ、地位は高いみたいだから、色々と情報を聞き出そうとすると思うから、素直に喋った方がいいぞ」

 情報を聞く以外にも、貴族である以上は交渉材料として使える可能性もある。
 ……実際にはアランがそう思っているだけで、ダラスターは家に切り捨てられている可能性が高いのだが。

『私から情報をだと? それは……』
「黙ってろ。そろそろザッカランに到着だ」

 ゼオンの飛行速度を考えれば、ザッカランまで戻ってくるのは容易なことだ。
 だが……黙ってろと言われたダラスターは、アランの言葉に驚愕の表情を浮かべる。
 ゼオンの手に掴まれているので、自分が具体的にどれくらいの速度で飛んでいたのかというのは、全く分からなかったのだろう。
 最初にゼオンに襲われたときに逃げ出したことを考えれば、それこそ自分が一体どれだけザッカランから離れた場所にいたのかというのは容易に想像出来る。
 それを、こんな短時間でザッカランまでやって来たということは……と、ゼオンの移動速度に驚異的なものを感じるのは当然だろう。
 この辺り、腐っても貴族といったところか。
 そうしてダラスターが驚いている間にゼオンはザッカランに到着し、高度を下げていく。
 そうなれば、当然ザッカラン側でもゼオンの存在に気が付くが……それで特に混乱する様子はない。
 見張りをしているのが、ドットリオン王国軍から派遣された兵士だというのもあるのだろうが、何よりも大きいのはゼオンのパイロットのアランは大樹の遺跡を攻略した雲海の探索者だと知れ渡っているからだろう。
 もっとも、ゼオンが相手ということでザッカラン攻略戦のときに家族、友人、恋人が殺された者たちのように恨みを抱いている者も多いのだが。

「ゼオンが戻ってきたぞ!」

 ザッカランで見張りをしていた兵士が叫び、すぐにゼオンに興味を持っている者達は城壁の上だったり、地上だったりに集まる。
 そんな者達の注目を浴びながら、ゼオンはダラスターを握り締めたまま、地上に着地する。
 そうなれば、当然のようにゼオンの握っているのだが誰なのかといった話題になるが……アランはそんな周囲の者たちの疑問を遮るようにして、外部スピーカーで兵士たちに話す。

「ガリンダミア帝国軍の中でも貴族と思われる人物を捕まえてきました」

 ざわり、と。
 そんなアランの言葉を聞いた兵士たちが……そして兵士以外にも、多くの者が驚く。
 当然だろう。まだガリンダミア帝国軍と戦ってもいないのに、一体どうやって貴族などという相手を捕まえてきたというのか。
 ……実際にはそこまで複雑な話ではなく、捨て駒にされた相手をあっさりと捕まえただけにすぎないのだが。
 そういう意味では、正直なところアランとしてはそこまで誇るようなことではない。
 ともあれ、捕まえてきた以上は確保する必要があると、兵士たちの何人かが上官に報告に向かい、それ以外の兵士たちはゼオンの握っている貴族を受け取るために行動に移る。
 兵士たちにしてみれば、貴族が相手となれば下手な真似は出来ない。
 ザッカランはガリンダミア帝国の中でも端にあるだけに、帝都にいる貴族と会う機会がないというのが、一番の原因だろう。

「貴様! 私に触れるな!」

 ゼオンの手から離されたダラスターは、自分に向かって近付いてくる兵士にそう叫ぶ。
 近付いてきただけで、まだ実際には触っていないのだが……それでも、ダラスターにしてみれば不愉快だったのだろう。
 だが……その態度は兵士たち、そして一連のやり取りを見ていた他の者たちにとって、非常に不愉快な思いを抱くものだ。
 無意味に上から命令しているのだから、そのように思われるのも当然だろう。
 だが、ダラスターにとってはこれが普通の態度であったし、何よりいきなりゼオンのビームライフルを受けて多くの仲間が死んで逃げ出したかと思えば、実は自分たちは捨て駒扱いで腹を立てたところで、上空にゼオンがいると言われて逃げ出し、森の中に入ると盗賊に襲われそうになり、次の瞬間にはゼオンがやって来ていきなり自分を捕まえてここまで運ばれたのだ。
 色々と……そう、本当に色々とあったのだから、それで苛立ちを覚えるなという方が無理な話だった。
 とはいえ、それを知らない者たちにしてみれば、ダラスターの態度が全てだったのだが。

「貴様らもガリンダミア帝国の者だろう! 私にこのような真似をして、ただですむと思っているのか!」

 そう叫ぶも、兵士たちは誰もダラスターの言葉を聞く様子はない。
 それどころか、一切の話を無視してダラスターを連れてザッカランの中に入っていく。
 ダラスターが十分に鍛えていれば、あるいは自分を掴んでいる兵士を振り払うことも出来たかもしれない。
 だが、貴族として好き勝手に振る舞うダラスターがそのような真似をするはずもなく、その身体は特に筋肉らしい筋肉はついていない。
 ……運動不足で、太っていないのがせめてもの救いか。
 そんなダラスターを眺めつつ、アランはゼオンの中で呆れ……取りあえずいつまでもこのままでは駄目だろうと判断して、ゼオンから降りる。
 ダラスターの引き渡しを行ったのだが、これ以上ゼオンに乗っていても意味はないと、そう判断したためだ。
 アランがコックピットから降りると、やがてゼオンは心核のカロに戻る。

「ピ!」

 アランにだけ聞こえるような、小さな鳴き声でお疲れ様と労うカロ。
 そんなカロを軽く撫でてから懐に入れ、アランは周囲を見ると……兵士に掴まれたダラスターが自分の方を見てることに気が付く。

「貴様……貴様があのゴーレムを操っていたというのか!?」

 ダラスターにしてみれば、自分に極限の恐怖を与えたゴーレムを操っているのが、アランのような若い男だとは思いもしなかったのだろう、
 若いといっても、十代半ばから後半という点ではそこまで若いという訳ではないのだが、それでもダラスターから見れば若造と呼ぶに相応しい相手だった。
 そのような人物に、あそこまで恐怖与えられ……さらには荷物か何かのようにゼオンの手で持ち運ばれたというのは、とてもではないが許容出来るものではない。
 苛立ちを露わにしながら、アランを睨み付ける。
 ……睨み付けるが、そんな視線を受けてもアランは特にプレッシャーの類を感じてはいない。
 まだ若いアランだが、それでも雲海の一員として多くの修羅場を潜ってきている。
 そんなアランにとって、ダラスターが睨んでそこ恐怖を感じるといったことは一切なかった。
 自分の睨むような視線に、アランが全く気にしていないのが、ダラスターのプライドを傷つけたのか、ダラスターの視線には強い怒りの色が浮かぶ。
 とはいえ、今の状況でダラスターが何か出来るはずもなく、兵士たちによって連れていかれてしまうが。

「さて、取りあえず俺の仕事は終わったし……どうするかな」

 ダラスターがいなくなったのを見て、アランが呟く。
 当初の予定とは色々と違ってしまったが、それでも相応の役目をこなしたことは間違いのない事実だ。
 ……むしろ、ガリンダミア帝国の実情を詳しく知るという意味で、ダラスターの存在はかなり大きい。
 そんな風に考えながらザッカランの中に入っていくと、当然ながら多くの視線を集める。
 ダラスターを捕らえた来たゼオンに乗っていたのだから、アランに注目が集まるのは当然だろう。
 本人としては、今まであまり注目を浴びたことがなかったので、心核を入手してから注目を浴びるのは、正直なところ少し居心地が悪い。

(その辺も、いずれ慣れていく必要があるんだろうけど……ただ、ちょっとな)

 取りあえず視線から逃げる意味で、足早にその場を立ち去ると、屋台で川魚の串焼きを購入する。
 味付けは塩だけの単純な串焼きだったが、魚が新鮮なおかげか、それとも店主の焼く技術が高いのか、皮がパリッとした食感で白身の魚は淡泊ながら皮についている塩味と一緒に食べると美味であり……予想外に美味い魚の串焼きに、アランは他の面々の分まで購入してしまう。
 店主にしてみれば、アランは纏めて購入してくれたお得意さん……それも大樹の遺跡を攻略した探索者の一人だと知ってるのか、数本の串焼きをおまけしてくれたのだった。
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